器と名前と設定と
「じゃあ次は名前も決めようか」
器も決まったので、流れで今度はVTuberとしての活動名も決めることに。
ぶっちゃけ名前とガワさえ決まってれば、いつでも活動開始出来るところまで来ている。
そういう意味ではこれが最後の作業になる。実際はSNSアカウントのプロフィール作ったりとか色々あるけど。
「出来ましたわ」
「いや早っ」
流石と言うべきなのか、幽名が即断即決の速度で名前を決めた。
どこからか取り出した習字セットで和紙に文字を書いていく。
幽名 姫衣
見事な達筆で書かれたその名前は、どう見ても幽名の本名です本当にありがとうございました。
「本名じゃねえか」
「本名では駄目なのですか?」
「駄目だろ」
「何故」
「何故って……ネットで活動する人間が本名とかの個人情報晒すのはリスクがあるんだよ。ただでさえ、姫様は器とリアルの顔まで同じなのに」
「でもそれって考えが古い気もするけど。今は顔本とかで本名も顔も晒してる人が多いし」
一鶴が割り込んでくる。
ネットリテラシ―の低い現代っ子らしい考え方だな。
いうて、俺と一鶴は片手で数えられるくらいしか歳が離れていないけど。
「名前さえ知ってたら住所だって特定出来るんだぞ。将来的に人気が出た時にトラブルの元になるに決まってる。大体、VTuberはバーチャル上の存在なんだからリアルを匂わせるのはNGだろ」
「?」
「? じゃないが」
他の人間はともかく、幽名に外の世界の常識を理解させるのは難しいかもしれない。
まあ、確かに本名を使うのが絶対に駄目かと言われたら、本人が全ての責任を負えるのなら別に構わないとしか言いようがない。
しかし幽名は企業勢なのであって、何かあった時の責任は事務所側に圧し掛かる。
事務所には所属タレントを守る義務があるし、リスクは最大限回避して決断していくべきだろう。
「とにかく幽名はもうちょっと他の名前も検討してみてくれ」
「代表様がそこまでおっしゃるのでしたら、考えるだけ考えてみますわ」
なんだか引っかかる答え方だなぁ……。
とりあえず幽名の方は保留で良いだろう。
他の面子はどうかな。
「決まったわ」
「二番手は一鶴か」
現代っ子全開な一鶴は、スマホからFMKのグループチャットに考えた名前を投稿してきた。
金廻 小槌
「どう? 良い名前でしょ」
「良いかどうかはともかく、とりあえずコレなんて読むんだ?」
「
金廻小槌……。
俺は黒髪ロングのキャラデザと名前を交互に見比べてから、一鶴の顔に視線を戻した。
「こんな可愛らしくて大人しそうな子なのに、金に由来する名前ってのはどうなんだ」
率直な意見をぶつける。
見た目と名前が乖離しすぎていると、見ている側としては違和感しかないだろう。
そこを指摘してみると、一鶴は「文句ばっかりねえ」と溜息を吐いた。
「そこはギャップよ、ギャップ。それに中身はあたしなんだから、遅かれ早かれ金に意地汚いのはバレるでしょ」
「意地汚いって自覚はあるのか」
「まあね。それに元からそういう設定にしておけば、何も問題はないでしょう。清純そうな見た目とは裏腹に、金の話になると目の色を変える子、みたいな」
「まんまお前じゃん」
「だから魂があたしなんだからそれで問題ないでしょ。……えっ、あたしって清純そうに見える?」
「あー……まあ、設定レベルからそういう風にするのは、ありっちゃありか」
一鶴は清純そうには見えないが、言ってることは一定の説得力はある。
少なくとも本名を使うよりはマシだしこれでもいいか。
「言っとくけど、ネットで銭ゲバは嫌われるぞ」
「人類皆お金が好きなのに不思議な話よね」
「主語がでけえんだよなぁ」
■
金廻小槌(かまわり こづち)
高校2年生の女の子。
春の陽気のような笑顔を見せる少女だが、お金が大好きでお金の話になると目の色が変わる。
誰よりも稼ぐためにFMKのVTuberとしてデビューした。
お金を沢山必要とするのには、何か事情があるのかも。
■
「ワタシも名前考えマシタ!」
お次はトレちゃんだ。
トレちゃんはどこからか取り出したサイン色紙に油性ペンでスラスラと線を引いていく。
スターライト☆ステープルちゃん
アイドルみたいな可愛げのあるサインをそのまま読み上げると上記の通りになる。
「星をモチーフにしたデザインに沿った良い名前だな」
「イエース! チナミに『☆』と『ちゃん』も名前の一部ナノデ、そこんとこヨロシクデース!」
「あ、☆はサイン用の飾りじゃなかったのか。了解した」
トレちゃんの名前は特に異論なく決まった。
優等生で助かる。
君はFMKの希望の星だ。
■
スターライト☆ステープルちゃん(すたーらいと☆すてーぷるちゃん)
キラキラのアイドルを目指す一等星の女の子。
元気いっぱいで周囲を自然と笑顔にする才能を持っている。
なぜかカタコトっぽいが、実は宇宙人だという噂も……。
■
名前と設定が完成した二人には、直ぐにSNSアカウントの作成、並びに動画サイトのチャンネルの作成諸々にも取り掛かってもらう。
配信は直ぐにとはいかないが、SNSさえあればファンとの交流が可能になり、世間に存在を認知してもらうための大きな足掛かりとなる。
VTuberであるなしに関わらず、名前を売りたいのならば現代ではやってて当たり前のツールなのだ。どれだけ面倒臭そうにしてもやってもらうからな。
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