【宣伝編】キャラクターイメージソングの完成【朗報】
場所は優理家、一人暮らし――ではなく、二人暮らしの優理家である。
この数か月色々なごたごたがあり、優理の元家は爆発四散した。引っ越しの諸々が終わり、新しい家具や衣服、家電等をすべて揃え、ようやく人心地ついたのが僅か数日前のことである。
新居に行くまでの間、優理は同居人の銀髪美少女アヤメとホテル暮らしをしていた(いかがわしい意味はない)。
新鮮なホテル暮らしにワクワクドキドキの少女のおかげで寝不足(いかがわしい意味は、ない)になったりもしたが、その騒がしい生活をこそ求めていた優理はニッコリにんまり笑っていた。
ホテルは灯華が手配したため、定期的に灯華と、彼女の(自称)メイドである実咲が訪れお喋りしたり外に連れ出されたりとしていた。
優理の大学生活自体は休学のため停止中だ。
その旨と男性COを友人のモカにする時にまたひと悶着あったりもしたが、モカはモカちゃんなので、腰に手を当て「ま、頑張りなさいよ。……応援は、していてあげるから」とツンデレしていたので問題はないだろう。
ちなみにもう一人の友人である香理菜はユツィラリスナーなので、特に文句もなかった。配信回数が増えて家で「んふふふ」と笑っていた。あと、抱えていた秘密も全部話してスッキリしていた。
さておき、現在である。
優理はホテル暮らしで暇だったので、何かやることはないかと考えた。
そして思った。AIで何かしてみるか、と。
とはいえスーパーミラクル人工知能のエイラに頼っては意味がない。一般レベルのAIを頼ることにしたのだ。エイラは温かい目でそんな優理を見ていた。しかし分身のディラは微妙に拗ねていた。優理は一人ディラのご機嫌取りをするはめになったが、それは別の話。
『AIで何かする』
思いついたのは作曲であった。昨今流行りのやつである。
歌詞はなんとか頑張って作った。そして生まれた数々の名(迷)曲たち。未だ手探りながら、オリジナル楽曲の作成は優理の胸を打った。これは音楽家人生もありでは? とエイラに言うと『否定。残念ながらその程度では音楽家を職業にすることはできません』とやんわり全力で否定された。優理は泣いた。
曲が完成し、イラストも付け、余は満足じゃ と楽曲すべて完成したのがこれまた数日前のことであった。
そして今。
「えー。これから僕の楽曲発表会をしたいと思います」
「キャー♡ 優理様かっこいー♡ 私奴も抱いてー♡♡」
「ふふ、うふふ、この日をどれほど待ち望んでいたことかッ!! わたくしが評価して差し上げますわ!!」
「え、えっと、私もその……来てよかったの、かな」
「ユーリ! ずっとお聞きしたかったですっ!! 私の曲もあるんですよね!?」
「同時に喋らないでくれる!?!?」
漢、優理。姦しい女性陣に声を張る。
それなりに広い部屋。開放感のあるリビング。暖色の明かりにミラーレスなカーテン。網戸をすり抜けた風が冬の匂いを運んでくる。どこか甘やかなのは、女性の多さが原因だろう。
何せこの場には
優理、PCチェアーに座る
アヤメ、三人掛けソファーの真ん中に座る。目を輝かせている。
リアラ、三人掛けソファーの右側に座る。アヤメに腕を取られている。困った顔だ。
灯華、三人掛けソファーの左側に座る。アヤメに腕を取られている。満更でもない顔をしている。
実咲、何故か優理の傍に控えている。まるで当然とでも言いたげな顔でアルカイックスマイルを浮かべている。
そして。
「ん……わたしたち、なかま外れ……だね」
「ねー。……はー、後に言われるのもやだけど、先に言われるのもやだやだ。やる気しなしなですよ、わたし」
「ふたりでよか、った?」
「それは、ふふー。うん。二人でよかったかも」
「むふむふー」
二人掛けソファーで仲良くだらけているソニャと香理菜。
見事に女性しかいない。まごうことなきハーレムだ。やったぜ! でも童貞なんだよね。おかしいぞ……?
童貞は首を振り、謎の現実を捨てた。
個々に応えていると時間がいくらあっても足りないので、さっさと話を進める。
「えっと、プロジェクターはこれでいいから……よし。まずはこれを見て」
ババンと壁を示す。
そこに映る、というか並んでいたのは作成した動画の一覧だった。
きゃーとかわーとか、各々歓声を上げる女性陣。今日の趣旨自体は既に伝えているので、この中に自分へのイメージソングがあるとわかっているのだろう。
どれからにするかと思い視線を巡らせ、"私を見て見て!!"ときらっきらな目でアピールしてくるお姫様がいたので目を合わせる。
「ユーリ!」
目が合い、にこぱー! と笑む。今日もアヤメは可愛い。
「そうだね。最初はアヤメにしよっか」
「やたっ! えへへー!」
左右の美女から離れ、ぴゃーっと飛び込んできた。抱き留め、頭をなでなでしてあげる。可愛い可愛いお姫様犬だ。
「――私奴も」
「いやだめだけど」
「くぅーん……」
するっと声を差し込んでくるメイドはしっしと追い払っておいた。悲しそうな声を出しているが、ちらっと見たらからかいがちに目が笑っていた。スルーして正解だ。
何やら灯華が寂しそうな顔を見せたり、リアラが羨ましそうな目をしたり、香理菜が恨みがましい目で見てきたり、ソニャがにじり寄ってきたりしていたが……。
「はいはい。ソニャは大人しく待っててねー」
「ん……むふー」
まだまだ甘えたい盛りの十歳児(巨乳灰髪美女)はさらっと撫でてあげ、元居た場所に返しておく。
アヤメにも戻るよう伝え、仕切り直しだ。
「再生するからね。これが……アヤメの曲だ」
【タイトル:銀の少女の心想花】
しっとり、落ち着いたバラードなのかpopsなのかわからない曲だ。
アヤメとのアレコレを綴った、優しい曲になったと優理は思う。エイラから聞いた、アヤメが一人だった頃の吐露だったり心の叫びを参考にさせてもらった。
今に繋がる、我ながら素晴らしい出来だったと思う。
そのまま続けてflute verも流す。個人的にはこちらの方が会心の出来だと思うわけだが、アヤメの反応はと言うと……。
「えぐ、ぐす、ゆう"う"りぃぃぃーーーー!!」
「えええ……」
銀色お姫様は号泣していた。
おろおろする灯華と、ティッシュやらハンカチやらを取り出すリアラと。母力に差が出る二人だった。
普段ならすぐにでも動きそうな実咲は優理の傍ではらりと涙をこぼしていた。なんで実咲まで泣いているんだ……。変な目で実咲を見そうになって、そんなことよりとアヤメをなだめる。
「おぉ、よしよし、泣いちゃったか。ごめんねー」
「ふぇぇぇん……」
しばらくなだめ、話を聞いたところ「思い出して悲しくて胸が痛くて、でもでもすごく……すごく、しあわせなくらいうれしくて、頭の中ごちゃごちゃでいつの間にか……泣いちゃっていました」と。
泣いてスッキリしたのか今は元気いっぱいに曲を無限リピートしている。口ずさみ、そのうち音程もリズムもパーフェクトにするのだろう。アヤメは次世代人類なのだ。
「次行きますかぁ」
誰にするかと考え、スタッ! と立ち上がった灯華が熱い視線を向けてくる。優理は目を逸らした。何故なら大きな胸が揺れていたから……。
「どうして目を逸らすんですの?」
「ハハハ」
空笑いして誤魔化す。童貞レベルが上がった。優理は嘆いた。
「ま、まあうん。次は灯華さんで」
「まあっ! うふふ、楽しみですわ」
「期待しないでくださいね」
「最っ高に期待しかしていませんわ!」
「左様ですか……」
灯華のイメージソング
【タイトル:夢見る乙女お嬢様(25歳)】
素晴らしいほどのジャパニーズポップソング。しかも十代が聞いていそうなガーリーな雰囲気だ。曲名はともかく、リズムは優理のお気に入りだった。
歌詞作りでは実咲に色々聞かせてもらった。主に灯華の乙女具合について。
本人の感想はというと。
「――わ、わ、わたくしはべべ、べつにこんな乙女ではありませんわよ?!?!?!?」
なんだかすごく動揺していた。顔が真っ赤だ。隣で実咲が満面の笑みを浮かべている。物凄く楽しそうだ。
「いいじゃないですか。歌なんだし。夢見て行きましょうよ。妄想想像の中でくらい、夢見て生きる。それが灯華さんでしょう?」
「うぐぐ…………くぅぅ、ええ、そうですわ! わたくしは八乃院灯華! 一度諦めたのに優理様のせいで諦めきれなくなった馬鹿な女ですわ!!」
「馬鹿でいいですよ。僕も同じ馬鹿です。楽しく笑って馬鹿になって生きていきましょう?」
「そっ……そ、それは、い、今のはプロポー」
「違います」
「……即答とは手厳しいですわね」
「あはは、今の僕らの距離感ってことで」
「むぅ……今はそれで満足して差し上げますわ。ええ!」
「曲はどうでした?」
「及第点ですわね。素人にしてはよく作ったのではなくって? わたくしへのイメージは……少々、いえかなりこそばゆいですが、嬉しくもありますわ。次を期待して待っておりますわね」
「ふふ、そうですか。じゃあそのうち次を作りますね」
「ええ、楽しみにしていますわ」
微笑みを交わし、さっぱりと話を終える。
「元データをくださいまし」と付け加えてくる灯華に苦笑し、後でと言っておいた。結構気に入ってくれたようだ。
「じゃあ次か。次は……リアラさん?」
「う、うん」
「緊張してます?」
「えっ、そ、そうかな……。う、うん。してるかも」
「アヤメ、リアラさんをハグしてあげて」
「まかせてくださいー!」
「きゃっ、も、もうアヤメちゃん……」
「えへへー、リアラぎゅー! ですっ!」
「もう……」
困り顔ながら柔らかく笑んでいる。美しい母性を感じる。
最近頼りがいのあるリアラからママ味を感じている優理だ。童貞の性癖は広いので、そういうのも大いにアリだと心が叫んでいた。むしろウェルカムであるが……何も言わない。人目をはばからず性癖開示をするのは痴女だけでいい。優理は童貞だが変態ではないのだ。……ないはずだ。たぶん。
「流しますねー」
「わ、え、う、うん……!」
リアラがほどよくリラックスしたところで曲を流す。
【タイトル:私と仮面の裏表】
リアラの内心把握は難しかったので、彼女の二面性に着目した。昔の取り繕った彼女と、すべて見せてくれている今の彼女。そして優理自身に似ている自己評価の低さだったり自己肯定感の無さだったりと。自分のマイナス面を考えれば意外にさらっと書き上げられた。
バラードではなく、リズム感あるアップテンポの曲になった。popなのかrockなのか、別のジャンルなのか。優理は詳しくないのでわからなかったが、名曲が生まれたと心底思った。
感想は。
「あわわわ」
黒髪の美女があわあわしていた。可愛い。
「わ、私こんな……かっこいい曲歌えないよぉ」
「そこ!?」
「え、う、うん……」
「いや、歌詞とか思うところないですか?」
「別に……? 私っぽいかなぁ、とは思ったし……仮面も、私なら合ってるもん……」
「なるほど……」
歌詞にはしっくりきたらしい。
頬を染め、困り顔で肯定してくれた。これなら作ったかいがあったというものだ。
「今度二人で仮面でも買いに行きますか」
「え!?」
「二人だけの仮面舞踏会……なんて、ちょっとカッコつけ過ぎましたかね」
「ううん……ううん! 一緒に行こうね? ふふ、えへへ、私たちだけの仮面舞踏会……ふふ、なんだかお話の中みたい」
「あはは、それっぽい所作と言葉遣いは頑張ります」
「ふふふ、私も頑張るね」
和やかにそんな話をして。
「私も躍りたいです!」とか「私奴も夜のダンスを……♡」とか「名家でダンスを学んだのはまさかすべてこのため……!?」とか「踊りとか無理かなー」「わたしもダンスは、だめ、かも。お昼寝ならまかせて」とか。
飛び交う言葉はさらっと大体スルーさせてもらう。
次だ。
「次は僕の歌ね」
【タイトル:真偽愛見るMy Life】
Rockの王道だが、自分じゃこんな高音出せないなと思った曲でもある。
歌詞は秀逸だなと自画自賛した。
「これは別に感想聞くまでもないから次行くねー」
軽く流して――。
「はいはい! 私は感想をお伝えしたいですっ!」
「はいはい! 私奴も私奴も! 御感想お伝えしとうございます!」
アヤメに便乗する実咲のせいで全員から感想を聞くはめになった。それぞれ。
「ユーリの……ユーリの人生です! 恋探し愛探し。私はもう愛は見つけちゃいましたけど、恋はまだです。それに、私もずっとずっといろんなものを探しますから、ユーリと一緒に探し続けます! いつまでもどこまでも、旅は続くのです! そう、私たちの冒険は……!!」とホテル暮らしでゲームの影響を強く受けたアヤメ。
「優理君。人生はまだまだ長いからね。私はそんなすごいことが言えるような人じゃないけど、でも……ちょっとだけ先輩だから。何かに迷ったり、何かで躓いちゃった時は遠慮なく私を頼ってね。いつでも手を貸すし、どこでも駆けつけるから。……って、な、なんだかすごい偉そうなこと言っちゃったかな。……で、でも嘘じゃないからね? お姉さんだし、先輩だからね!」と珍しく自分から"頼って"と言ってくる姉みの強いリアラ。
「優理様、わたくしは……正直なお話、あまり優理様の意志は尊重できませんわ。少々ながらわたくしも人生の先達ですし、酸いも甘いも……いえ、酸いも苦いも知っておりますわ。だからこそ、探し続けることの虚しさは、迷い続けることの苦しさはわかっておりますの。……故に、優理様が何も見つけられなかった時は、わたくしが優理様の目的になってあげますわ。ふふふ、八乃院灯華ほど眩しく輝く女は他におりませんのよ?」と胸を張る灯華。
「あー、えーっと……わたしは別にそんな大したこと言えないよ。でも、ま……わたしたち友達だからね。愚痴も聞くし、テキトーに話してよ。なんでも聞くからさ。碌な回答はないかもだけど、楽にはなるでしょ? たぶん。そういうのが……友達、でしょ?」と、顔を覆って恥ずかしがる香理菜。
「パパ……娘の愛はむげんだい、だよ。家族はえいきゅうふめつ……ふへんの愛は、ここにあるから、ね」と簡素ながら淡く微笑むソニャ。
そしてそして。
「優理様」
「うん」
「私奴はメイド。ご主人様のお悩み解決をするのもまた、メイドのお仕事にございます」
「そうかな?」
「そうにございます」
「そっか。そうかもね」
「はい。――しかし私奴では優理様のお悩みを解決できません。ただただ、優理様の行く道を、歩く線路を、舗装し、整え、御傍に控え、補給を行い、永遠の共をするだけにございます」
「……至れり尽くせりじゃない?」
「それがメイドの役目にございます故」
「そっか。……灯華さんはいいの?」
「うふふ、灯華様は何を言わずとも優理様にくっついておられますから」
「……まあ、そうか。じゃあ実咲が飽きるまで僕の人生に付き合ってよ」
「ええ、無論にございますよ」
軽やかに笑う実咲に、あれ今の発言プロポーズっぽかったか? と変な疑問を覚えた優理だった。
まあいいかと流し、そのまま最後の曲へ移る。
優理ソングから流れで由梨用ソング【タイトル:わたしときみの未来うた!】は聞かせてしまった。反応は上々。香理菜が「由梨っぽいなぁ」と一番嬉しそうにしていて優理も嬉しかった。モカちゃんにも聞かせようねと友達らしく話して、ラストである。
「真打というか、曲調的に一番気に入ったやつだね」
「――フッ、私奴が大トリを飾る、ということにございますね」
「うん。そういうこと」
実咲ソング。
【タイトル:影のメイドの生き様 Stylish ver】
jazz。そして実咲本人からの話を参考に歌詞を書いた。
オシャレで、かっこよく、どことなく命への執着が薄い実咲の生き方を描いた曲だ。
まさに生き様。
実咲にはこんな歌が似合う。彼女にこそjazzは合うと思った。
「実咲、感想はっぷ!?」
「――失礼、少々、お目汚しをしてしまいそうなので」
実咲の顔を見ようとして、ぐいっと引き寄せられ柔らかな丘に顔を埋められる。丘、というか胸だった。豊かな胸だった……。
色々抗議の声が上がると思ったが、周囲は静かだった。
それはそうである。優理は見えていないが、他の面々には実咲の表情がよく見えていた。
実咲は。冬風実咲は、心の底から嬉しそうな顔で、幸せそうな顔で、だけどそれ以上にひどく寂しそうな表情を笑みに被せていたのだ。
笑顔の上に切なさが乗り、今の実咲は曖昧な苦笑を浮かべているようにも見えた。
そんな顔の実咲をこの場の全員が見たことなかった。彼女と長い付き合いのある灯華でさえ、いつも飄々としている実咲のこんなにも無防備な顔は幼い頃以来だった。
灯華は声をかけようとして、実咲が目を合わせ首を振ってきたので口を噤んだ。
本当に長い付き合いなのだ。実咲のことは大体わかっている。本心では世の中の九割をどうでもいいと思っている実咲が、これほどに心動かされている。
少し前から気づいていたが……実咲は、"ちゃんと"優理のことを大事に思っているらしい。
「優理様」
実咲の声が空から降ってくる。
周囲の状況も実咲の表情も知らない優理は、無心になろうと努力していた。けれど無理だった。胸が柔らかいのが悪いよ。胸が。あぁでも一生このままでもいいか。死ぬなら大きな胸に挟まれて死にたい……。
「優理様」
「っわ、実咲?」
馬鹿なことを考えていたら温もりが離れ、実咲の顔が見えた。作り笑い、ではない。珍しくアンニュイな顔をしている。
「私奴の胸を堪能されていたようで……御感想をいただいても?」
「超柔らかかった――はっ!?」
「うふふ、それは何よりにございます。優理様」
「え? え、うん」
さらっと流されて驚く。実咲にしては本当に珍しい。真剣な目をしている。黒曜石の瞳が美しかった。
「私奴のこと、よくわかっておられますね」
「そりゃこれだけ一緒にいればね」
たくさん話したし、実咲の性格も大体わかっている。他人に興味がないのも、灯華のことを大事にしているのも、優理のことも大事に思っているのも。
刹那的な生き方も、察してはいた。なんとなく、前世の優理の若い頃に似ていたから。
実咲はそのままの表情で話す。
「私奴には、人生で大事なものがございます」
「うん」
「まずは灯華様。次に優理様。そして優理様や灯華様に近しい方々。ついでに私奴」
「そうかなと思ってた」
「左様にございますか。既に優理様は私奴自身よりも大切な存在にございます」
「うん。光栄だ」
「――故に、私奴は……
「……」
「同時に、いつの日か灯華様や優理様が死した後、色褪せた世界で
「実咲……」
こんなタイミングでまさか、こんなことを言われるとは、と思う。理由は彼女が語った通りだ。それだけ嬉しく、また寂しく思ったからだろう。
優理の答えは決まっている。優理は少し狂っているところがある童貞なのだ。一般的な倫理や道理よりも個人の生き方を尊重するし、"愛"というカタチに異様な熱量を抱いている。執着とも言い換えられるほどに。だから。
「実咲」
メイドの名前を呼ぶ。何か続けようとしていた彼女の唇に指を当てる。
驚く美女に男は朗らかに笑ってみせた。
「そのうち考えも変わるかもしれないけど、最悪の時のことは今言っておこうか。灯華さんがもしも先に死んでたら、一緒に死のう。アヤメやソニャには長生きしてほしいけど、実咲に"生きて"とは言わない。僕が死ぬとき、君も一緒に死んでくれ」
「――――」
おかしなことを笑って言う優理に、実咲は。
「――優理、様」
目を見開き、唇に当てられた指を甘嚙みし名を呼ぶ。
胸の内に渦巻く興奮と喜び、途方もない幸福感の赴くままに距離を詰め――。
「――いやキスはしないけど!?」
「何故!?!?!?」
「何故も何もそういうのじゃなかったでしょ!」
「そういう流れにございましたが!?!?」
「た、確かに認める、けど! 僕の指甘嚙みするから空気萎えたんだよ!!」
「それは
「僕の純情を奪おうとするのは誰!? ひどい女!」
「エッチな男! 優理様の変態! 大好き!」
「痴女! 実咲の変態! スケベ女!!」
「なっ、私奴は好意を告げたのに、どうして罵倒だけなのでございますか……!?」
「好きとか大好きとか言ったらどうするつもりだった?」
「そんな、私奴の口からそんな卑猥な……♡」
「知ってた。だから言わなかったんだよ」
「くっ、過ごした時間が憎い……。ですがそれもまた一興。それだけ私奴のことを理解していただけているということにございますね」
ペースは戻り、空気も普段通り。
アルカイックスマイルを浮かべる実咲は、くるりと回って優理にだけ見えるようにウインクをする。唇で「すき」と作って。
「ふふ、これからもよろしく御願い致します、優理様」
悪戯っぽく微笑んだ。
優理はやけに熱い頬を仰ぎ、相変わらずずるいメイドだと思いながら。
「こちらこそ、よろしく」
と伝えるのであった。
――その後。
「ユーリ、新曲はいつ出すのですか?」
「ね。どうしようか。生活も落ち着いたし、復学考えたら時間もそんなないんだよね」
「お、優理大学来る?」
「いつにするか考え中」
「まー名前外に出ちゃってるからねぇ。あ、ていうかどうするの? 女装してくるの? それとも優理のまま?」
「……リアラさーん、僕はどっちで行けばいいんですかー?」
「ちょ、ちょっと待ってね! 今ソニャちゃんと組手、して、て!」
「むふふー、ぜんらのわたしは最強、だよ」
「さっきから服脱ぐのやめようよぉ……!」
「……あっちに行くのはやめておこう」
「ふふー、優理いま興奮した? わたしが相手してあげようかー?」
「……下品なリスナーはお帰りください」
「あ、ちょ、手厳しい……や、え、あ、相手っていうのはあれだよ? エッチ本番じゃなくて前段階的なアレだからね?」
「どっちでも下品だよ。ていうかそこ恥ずかしがるのか……」
「ユーリ、カリナ、エッチなお相手というのはドアを挟んでするものでしょうか? それなら私もまたしたいです!」
「あ」
「
「えへへ、ユーリはエッチですけど、とっても優しいんですよ!」
「――優理、ちょっとこっちで話さない? アヤメちゃんはちょこっとだけ、ほんのちょこっとだけ待っててくれるかなー」
「? はいっ!」
「はは、ははは! 実咲ー! 僕のピンチだよー!」
「――ご主人様の叫びに馳せ参じたメイド……ですが、御話合いなら私奴も混ざらせていただきたく。アヤメ様、灯華様が料理作りを手伝ってほしい、とのことにございます」
「わ! えへへー! トウカー! 今行きますー!!」
「――じゃ、話そっかー。優理ー?」
「優理様。アヤメ様に手を出すのは……さすがの私奴でも数秒躊躇います」
「躊躇う時間短くないかな? ……あれ、え、これわたしがおかしいの……??」
「大丈夫、香理菜ちゃんは正しいよ☆」
「声変えて言わないでー。すっごいむかってくる」
そんなこんなで、ウルトラ童貞優理の日常はまだまだ続く。
真実の愛を見つけるその日まで、傘宮優理の童貞Lifeは続くのだ。
※あとがき
話タイトルと本文の通り、ついにハナ女のキャラクターイメージソングが生まれました!しかもイラスト付き!!
歌詞以外AI製という現代チックなものですが、キャラ像は深まるかと思います。特にリアラさんとメイド。4章で言えばアヤメも。
私のお気にはメイドの歌ですが、気に入ったらグッドボタンコメントください。喜びます。
近況ノートにリンクがあるので、是非聞いてください。
https://kakuyomu.jp/users/sakami_amaki/news/16818093079793678032
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