【番外編】if、二百年間ずっと、あなただけを愛してる。
それは、もしもの欠片。可能性の断片。未来の破片。
確かに存在する、どこかの世界の誰かの記憶。
いくつかのifが重なった果てに、彼と彼女たちの未来は在る。数ある未来の一つが今、彼の夢に淡く浮かんでいた。
☆
逃げて逃げて逃げて、逃げ続けて。優理とアヤメの逃亡生活に終わりはなく、銀の少女を追い続ける人間たちの執念にも終わりはなかった。
時には堂々と、時には陰に潜み世界を渡り歩く。
緊張と危険に満ちた日々ではあったけれど、時に笑い、時に涙し、時に怒り、時に嘆き、無数の喜怒哀楽に満ちた日々を送っていた。
今日もまたそんな、非日常で日常な生活が続くと思っていた。
優理も、アヤメも、エイラも。警戒は解かず、心に最低限の余裕を持って生きていた。ただ……ただ、ほんの少し世界の巡り合わせが悪かっただけ。
――パーン。
おもちゃのような軽い銃声が響く。雑然とした街の、背の低い建物の上。
既に周囲の追手は撒き、攪乱工作もし終えていた。屋上にいたのは、気を緩めた男と少女と人工知能と、それと数人の子供だけ。
もしも人工知能が世界最高傑作を更新し続けるほどのモノで、彼と彼女に頼れる誰かがいれば話は変わったかもしれないが……。そんなifは成り立たない。
「――――」
何も知らない子供は、ただ特別な銃を手渡され「ちょっとした眠り薬が入っているんだ。服の上から当てるだけ。簡単だろう?」と某国の者から言われただけだった。対価は現地における破格の金銭。
「――……ユーリ?」
夕焼け伸びる天上の日を浴びて、優理は呻きながら少女に体重を預ける。
銀の少女は、現状を理解できない……否、理解したくないかのようにそっと男の名前を呼んだ。
『アヤメ様!! 子供の無害化を早く!!!!!』
「ぁ」
エイラに急かされ、横たわる男を凝視する子供たちを無害化する。抵抗はなかった。驚き戸惑い、倒れた優理に呆然としていた。手早く気絶させ床に転がす。
風を置き去りに優理の下へ戻ると、男の脇腹は変色し、濃い赤色がコンクリートの上を濡らしていた。
「ユーリ?……あ、あの、ユーリっ」
「――あぁ……アヤ、メ」
急な失血で気が遠くなる。傷を押さえる手がぬめり、旅を始めてから幾度も感じた血の匂いが鼻を掠める。これはよくないと思った。本当によくないと、口の中に血を感じて苦笑した。
「アヤメは、平気……?」
「は、はい。はい。……ユーリは、ユーリは。血、血がたくさん出て……っ!!!」
「うん……」
慌て、はらはらと涙を落とす少女に笑みを作ろうとする。上手く笑えなくて苦笑いが深まってしまっただけだった。
咄嗟だった。ふざけたおもちゃの銃を向けられ悪寒が走り、すぐにアヤメを抱きしめて庇った。
避ける暇なんてなかった。身体を引き寄せるので精一杯だった。
目を開けているのも億劫で、意識を保っているのが辛くて、でも目の前の少女が泣いているのは見ていたくなくて。泣き止ませてあげたくて。
「ユーリ、ユーリ!!」
「うん」
そっと、慈しみを込めて少女の頬を撫でる。赤い血で彼女の頬が汚れるのさえ、今は気にならなかった。
優理の傷口をどうにか押さえ、髪が血に浸るのも気にせず懸命に、必死な顔で少女は男の名前を呼び続ける。
「ああ……」
悪くないなと、そう思ってしまった。
別に、死にたいという気持ちはなかった。でも、前世からずっと"自己犠牲感"というものは優理の心に付き纏っていた。どうせいつか死ぬなら、それは誰かの命を救って死にたい。その時、自分が死んだ時に心の底から涙し、その死を悼み想ってくれる人がいたら尚良い。
アヤメのような美しく可愛らしい、心から愛おしい相手にここまで想われて死ぬのは……悪くないんじゃないかと、そう、思ってしまった。
「ユーリっ、だめ、だめです!! エイラ! ユーリが、ユーリがっ!!!」
泣き止んで。笑顔を見せて。そんな思いは言葉にならなくて。
なんとなく、この怪我はよくないと察した。痛みが尋常じゃなかった。一発でここまで血がこぼれるのはおかしい。
ただの銃弾じゃなかったのだろう。アヤメを拘束するため、次世代人類に効果のある特殊な化学物質でも含まれていたのか。わからないが、それはきっと普通の人間にとっては猛毒で……優理の目の前には、もう死だけしか残されていない。
なら、自分勝手ではあるけれど。今まで結局言えなかったことを言うのもいいんじゃないかと思う。
思考が切れそうだ。頭が朦朧としてきている。
「アヤメ……」
「はい、はいっ。ユーリ!」
少女の名を呼び、微かな力で顔を引き寄せる。
「ユー……ん……」
口付けを。桃の唇に自分のそれを重ね、じっと一秒、二秒と待つ。
この時間が永遠に続けば良いのにと、月並みなことを思った。
この時間はもう終わるんだろうなと、現実を見て思った。
銀の少女と過ごした時間が走馬灯のように――事実走馬灯として、頭の中を駆け巡っていく。
出会いから、食事と、遊びと、喧嘩と、少しずつ心を近づけていく幸せな時間。いっぱいいっぱい、言いたいことなんてたくさんあるけれど、それは全部言えないから。
たった一言。今まで一度も言えなかった言葉を最期に贈ろう。
唇を離し、至近距離で藍の瞳を見つめて呟く。
「あいしてる」
目を見開く少女に、男は満足げな顔で笑った。
初めてのキスは、鉄錆の味がした。
☆
それは、男が美しい顔のまま命を落とした後の話。
風の吹く夜の街。背の高いビルの誰もいない屋上に、銀の少女は立っていた。血に濡れた建物より逃れ、優理の亡骸を背負ったアヤメは別の場所へ身を移していた。工作を重ねているとはいえ、あのような状況で一所に留まるわけにはいかない。
慟哭は夕焼け空に消え、涙は未だ細々と流れ続ける。少女は相棒のAIに、もう数え切れないほど繰り返した問いを投げかけていた。
「エイラ。どうやってユーリを助ければよいのでしょうか」
『アヤメ様……』
「ユーリは……ユーリがどんどん冷たくなっています。軽くなって、冷たくなって……ぽかぽかな手は氷みたいです。お喋りも、全然してくれないです」
『アヤメ様。優理様はもう亡くなられています』
「どうしてですか!!? ユーリは……ユーリは……どうして、どうしてエイラは助けてくれなかったのです、か……う、ぁ、あああぁっ」
『申し訳、ございません………………』
夜風に冷やされ人肌を失った優理の身体を、ぎゅっと抱きしめる。
いつもの安心できる香りに混じって、濃い血の匂いがする。全然嬉しくはならないけれど、少しだけ気は紛れた。
十分か、二十分か。
しばらくぐすぐすと鼻を鳴らしていた少女は、エイラや人間、自分への怒りを飲み込む。悲しみを堪え、ぎゅっと優理を抱きしめ考える。大事なのは助けることだ。アヤメには優理しかいない。優理しか、いないのだ。
「……っ」
目元を擦る。
泣くのはいい。でも優理は助ける。絶対に助ける。
今はちょっとだけ、今の優理はちょっとだけ息をしていなくて、喋れなくて、心臓も動いていなくて、冷たくて硬くなってきているだけ。それだけ。それを"死んでる"というならそうなのかもしれない。それだけのこと。ちょこっと死んじゃってる、それだけでしかない。
だから、死んでるから何だ。優理は助ける。死んでたって助けるのだ。
もっと一緒に居て欲しいし、お話したいことだっていっぱいある。頭も頬も撫でて欲しいし、ずっとぎゅってしてほしい。いろんなことして、いろんなもの見て、いろんなもの食べて。二人で世界を見て回るって約束をした。約束は……大事だから。守らないと。
「ユー……リ……待っていてください、ね」
そっと、目を閉じた土気色の優理に口付けを落とす。
柔らかさなんてなくて、体温なんてなくて、ドキドキも全然しなくて。でも、最初と同じ血の味がして。あふれる涙を拭い、アヤメは優理を背負う。
「エイラ。ユーリを助けます。今は身体がボロボロなだけです。身体は……作ってあげます。今度は……ずっと私と一緒に居られるように」
『アヤメ様……』
エイラから否定の言葉はなかった。悲しみと戸惑いが混ざった声で沈黙し、それでも『わかりました』と続ける。
――そうして、アヤメとエイラの旅が始まった。
優理の肉体に防腐処理と保存処置を施し、安全な地を確保するために本格的な敵国敵組織との戦闘に入った。
世界に唯一ではないが、圧倒的な性能を持つ人工知能のエイラと、"優理の救命"だけを思う次世代人類のアヤメは強かった。生産される近未来兵装と、アヤメの超人的な能力、さらには衰えることのない肉体と長い寿命が武器になった。
時の流れは人の心を緩め、組織に穴を作る。
時間はアヤメたちの味方だった。
五年、十年、二十年。
瞬く間に過ぎ行く日々。気づけば五十年が経ち、アヤメは敵組織の壊滅、及び自身の情報痕跡をすべて消し去ることに成功した。
安住の地を手に入れ、あらゆる技術を取り込んだエイラはまさに世界最高の名を欲しいままにする人工知能となった。
ようやく、アヤメは優理の救命に手を付けられるようになった。
「待たせたわ、ユーリ。……長くかかっちゃったけど、ちゃんとあなたのことは私が助けるから。ううん、私とエイラで助けるから」
特殊な液体で満たされた装置に横たわる優理。ガラス越しに、男の寝姿をしばらく眺め踵を返す。
まだ始まりだ。何も達成していない。長く長く時間はかかってしまったけれど、これからちゃんと助けるから。だから待っていて。いつか、いつの日か私が――――。
――傘宮優理が生命活動を止めてから二百年後。
世界は技術の発展を続け、宇宙空間における自由活動を行えるほどには文明進化を遂げていた。
男女比の在り様は相変わらずだが、遺伝子改良によりある程度の状況改善は起きた。ざっと男女比1:5程度である。
とはいえ、そんなもの海底に拠点を構えたアヤメには関係がない。
次世代人類のアヤメと言えど百年以上の肉体酷使は寿命を削っていたため、途中でエイラの開発した細胞回帰技術を用い、肉体年齢の若返りを実行した。同時に最新技術を用いた肉体性能の最適化も施したため、アヤメの寿命は以前の倍、能力も三倍ほどまで跳ね上がっている。
人間社会とは隔絶した技術を保持しているアヤメとエイラであるが、二百年経ってついに傘宮優理救命を達成しようとしていた。
「……ようやくね」
『はい。ようやくです、アヤメ様』
縦型の培養槽に浮かぶヒト型。時が過ぎてもまだ鮮明な、何度も何度も心折れそうになって縋りつき、ガラス越しでしか触れられなかった人。昔と一切変わらない優理の姿がそこにはあった。
ここに至るまで、長かった。本当に長かった。
既に何度も優理の肉体を作り出し、記憶の確認を済ませてきた。記憶が元通りにならず廃人になってしまった姿を数多く見てきた。そのたびに泣きながら薬を打って眠らせた。
記憶は得ても性格がアヤメの知る"優理"にならず、後のことを考えて同意を得て眠ってもらった。何人も何人も。元が優理だからか、性格が変わってもアヤメのやろうとしていることを聞いて理解して、困った顔で笑いながら"いいよ"と言ってくれた。それを聞くたびに、アヤメは"思い出の優理"の面影を見て涙した。ごめんなさいと謝りながら、自分が何をしているのかわかりながら、それでもと実験を続けた。
何度やっても成功しない実験に、アヤメとエイラは最終手段に出た。それがオリジナルの優理の脳を解剖し記憶を探ることだ。
様々な新技術を応用すれば可能、それがエイラの見解だった。
躊躇しつつも、オリジナルへのリスクは少ないと話し計画を実行。
その結果わかったのが、優理のすべてだった。
彼の人格形成に至った過去。前世。そう、前世だ。そんなものわかるわけがなかった。そりゃ成功するはずがない。直接脳に刻まれているのではなく、深層視野、精神の部分に残るものなのだから。
必要なのは記憶野の再生だけでなく、感情に関わる部分すべてだったのだ。
そうして。そうしてオリジナルと寸分違わずと作り出したのが目の前の新生傘宮優理だった。
「……エイラ」
『はい』
「もしも……もしもこれで上手くいかなくても、私はこの人には生きてもらおうと思うの」
『よろしいのですか?』
「ええ。少し……疲れちゃったわ」
『わかりました。……そうですね。少し、休む時間が必要でしょう』
「ん……」
そっと培養槽を撫で、別室の機械操作室に入る。あとは優理を目覚めさせるだけ。これで上手くいかなかったら…………。
「……いえ、やりましょう。エイラ、あの子を連れてきてくれる?」
『もう来ていますよ』
「そう……」
エイラの言う通り、確かに監視カメラには少女の――銀髪の少女が映っていた。
スピーカーを付け、少女は声を掛ける。
「
「わ、え、えと……はい。ユーリは……もうすぐ起きるのですか?」
「うん。もう……もう起きるわ」
「そうですか……ユーリと、もう一度お話したいです」
「私もよ。私も……」
散々に汚れた自分の手を見下ろし、どんな顔で会えばいいのか、こんな自分がもう一度なんて……優理に何を言われるかと思うと手が震えてしまう。
「
不安げな呼び声にハッとして首を振る。
今は恐れている場合じゃない。最悪会えなくても、自分は話せなくてもいい。そのためにアヤメを、優理と死に別れたばかりの頃の自分を作り出したのだから。
「―ーいえ、なんでもないわ。始めるわよ」
「はいっ!」
長い長い、二百年越しの夢が動き出す。
擦り切れ、疲れ果て、それでも諦めきれない執着のみでここまでやってきた。ユーリ。私の愛する人。たった一人、世界中でたった一人、あなたさえいれば他の何もいらない。だから、だからもう一度……――。
☆
傘宮優理が目を覚ますと、そこは液体の中だった。液体というか、ちょっとドロッとしたローションというか。
声は発せられず、しかし液体の中でも不思議と呼吸はできていた。目もよく見える。身体も動くが、近くを触るとアクリルかガラスか、硬い材質の透明容器に囲われているとわかった。これは水族館のお魚の気分……。
ふざけている場合ではなく、とりあえずガラス越しに見覚えのある銀髪美少女――アヤメへジェスチャーをする。
自分を指差し。
「私ですか?」
首を横に振り、改めて自分を指差す。
「ユーリ?」
今度は縦に振る。手を振る。アヤメがニッコリした。可愛い。優理もニッコリした。いやそうではなくて。
ガラスをコンコン叩き、"お外出たいよー!"とアピールする。というかガラス越しでも鮮明に音は聞こえるのか。不思議な場所だ。
アヤメはすぐに察してくれたが、困った顔で近くの監視カメラっぽい場所を見つめる。優理もそちらを見た。両手を合わせてお願い! としておいた。それの効果かわからないが、徐々に足元から液体が抜けていく。
「おぉ、これは近未来」
近未来というかSF。
よく見れば部屋も宇宙船っぽいし、まさかコールドスリープ。
「っ」
直前の記憶を思い出し、脇腹を押さえ痛みがないことにほっとする。アレは確実に死んだものと思っていたが、どうも意外に自分は生き汚いらしい。
特に水気もなく、なんだか釈然としない思いを抱えながらガラス容器を出る。目の前にはそわそわしてぽたぽた涙をこぼして、嬉しさいっぱいなのに涙で何も言えない様子の美少女が居た。
「うぅぅ、ゆ、ゆうり、ゆーりぃ、ふぇぇぇんっ」
いつもならすぐにでも抱きついてくるだろうに、どうして? と思ってすぐ悟る。
撃たれたからだ。大怪我したからだ。この状況を考えれば、どうにか治療しようと培養槽に入れていたとわかる。数週間か、数か月か。アヤメの姿は変わっていないが……まあアヤメは超人なので見た目の変化は信用できない。
とりあえず今の自分は怪我無く五体満足でいられる。なら充分だろう。
「よしよし、アヤメー、心配かけてごめんね。ありがとうね」
ぎゅっと抱きしめ、頭を撫でてあげる。全裸でこの行為はちょっとアレだが、さすがに優理にも分別はある。まあ反応はするが。肉体と心は別なのである。
「ゆーりぃいいい!!」
涙で肌が濡れる。たぶん鼻水でも肌は濡れる。悲しい。でも嬉しい。
こんなにも自分のために悲しみ、喜び、感情を露わにしてくれる人がいるなんて、どれだけ幸せ者なのだろう。やっぱり優理は、アヤメを愛している。死の間際に告げた言葉に間違いはなかった。
五分か十分か経ち、アヤメが落ち着いたところで何やらビクッと肩を跳ねさせた。頭をなでなでしていたので、その動きも文字通り手に取るようにわかった。そろそろ服が着たいと思っていたところなので、良いタイミングだったかもしれない。
「あの、えと……ユーリ」
「うん」
「私、私?が居るのです!」
「うん? ここに居るね」
「そうではなくて……ぁ、そ、そうでした。ご質問があるのでした!」
「どんとこい。なんでも答えてあげる」
「私とエッチしたいですか?」
「おーほぅ……」
真っ直ぐな瞳でなんてことを聞いてくれるのだ。このお姫様は。ふざけた様子はない。真っ当に尋ねてきている。これは茶化せないか……。腹をくくろう、全裸なのはそのためだったのか。性欲神が言っている。この後の流れこそが、童貞を捨てるか否かの分岐点だと。
「……したくない、と言ったら嘘になるね」
「ほ、本当ですか!?」
頬を赤らめるのはやめてくれ。反応がひどいことになるから。
「と、とってもエッチしたいですか!?」
「あぁ……とってもエッチしたいよ」
「本当です?」
「ほんとほんと。超したい」
「そ、そうですか」
頬を染め、ちょこっとアヤメが離れる。なんだこの距離は。服をくれ。すべてバレているだろうに。アヤメをじっと見ているから少女の視線の動きがよくわかる。よくないねぇ、これはねぇ。
「ユ、ユーリ、エッチです!」
「ぐぁぁ……しかし正しい。嘘じゃないからね」
「えへへ……」
「というか服着たい。なんの質問だったの、今の」
「あ! そうでした。一緒に来てください!!」
たたっと手を取り歩き出す。
こういう時、治療したてだから足がもつれる、とかはなかった。普通に動けて変な感覚になる。以前よりよく動く気がするのだ。これはきっとナノマシン的なあれやこれやでなんやかんや。
アヤメはすぐ近くの自動ドアを抜け、マシンコントロールルームらしき場所に行く。優理も付いて行く。そこそこ広い部屋の中にはSFっぽい操作盤が並んでおり、ソファーやベッドも置かれていた。生活感があるのでただの制御室ではないようだ。
部屋はSF部屋でいいとして、問題はベッドの奥に隠れようとして隠れられていない人影だ。
「ふむ……」
アヤメには「しー」と小声で伝え、忍び足で近づいていく。
頭隠して尻隠さずと、ベッドが低いせいで普通に身体が隠しきれていなかった。
足を折って床にうつ伏せでいる影、女性だ。それも少女。銀の髪で、全体的に赤みを帯びた銀色だった。背はアヤメと同じ程度。知り合い……ではないと思うが。
「えー、こほん。お嬢さん、何か服をくれないかい?」
「――……し、知らないわ。勝手に着てちょうだ、い……っぁ」
びくりと身を揺らし言うので、ひとまずベッドシーツを身に纏っておいた。安心する。
しかし聞き覚えのある声だ。そして語尾が震え、今では鼻をすする音さえ聞こえてくる。
「お嬢さん、顔、見せてくれるかな」
「――」
「……そう来た、か」
立ち上がり振り返った女性の顔は、アヤメとそっくり……どころか瓜二つだった。
なんとなく、SFにも造詣のあったユーリは状況を察する。違えばいいなと思いながら、懸命に涙を堪えずっと目を逸らしたままの少女に呼び掛ける。
「……アヤメ?」
「ぁ」
少女は優理と目を合わせ、その瞳にいっぱいの涙をためたまま唇を震わせる。何か言おうとして、我慢して……いいや、言っちゃいけないとでも思っている顔だ。
優理はそんな顔を前世の鏡で数え切れないほど見てきた。もしも目の前の少女が本当にアヤメなら……今やるべきことは一つ。
「アヤメ。ハグしよう。ぎゅー」
「ぁ、あ、あぁあああああああ!!!!!!」
「うん。いいよ。頑張ったね。いい子、いい子」
「うぁ、ぁああ、ゆ、ゆうり、ゆうりいぃ!!わた、しっ、わたしがんばったの……すごく、すごくっ!!ぁぁあああああ!!」
「うん、うん」
少女――アヤメを抱きしめ、先のアヤメと同様に背を撫で頭を撫で、支離滅裂な言葉の海に頷き相槌を打つ。
アヤメが泣き止むまでは長い時間がかかった。
二百年の歳月の果て。罪を重ね、痛みを重ね、心を擦り減らした果てに少女は壊れた夢を形にした。歪でも、それは少女にとって確かな宝物で。海の底で叶えられた願いの結晶は、止まっていた少女の時を動かし始める。
人生は続く。彼と彼女たちがどんな生を送るのかは、まだ誰も知らない。
☆
『――こうして、優理様が死を迎えて二百年の時が流れました。正確には二百一年ですが、今の優理様にとっては些細なことでしょう』
『いやまあ……うん』
アヤメ……今はアヤと名乗っている赤銀の少女が泣き疲れ、眠ってしまってより数十分が経過している。
幼子のように優理にしがみついて眠ってしまったため、優理は仕方なくアヤを引っ付けたままベッドに横になった。見知った方のアヤメも、もじもじしていたので隣に入れてあげた。両サイドに同じ顔、同じ体型の少女を侍らせているハーレム野郎である。童貞にあるまじき所業だ。実は童貞じゃないかもしれない……?いややっぱ童貞だわ。
左右から抱きつかれ生じた煩悩はどうにか捨て去る。
現実逃避でもしていないと頭の中がパンクしそうだ。既に人工知能のエイラから渡された思考送受信機とやらでいっぱいいっぱいだったのだ。
『……アヤメ、本当に頑張ったんだね』
『はい。……あの時、エイラが優理様を守れなかったことがすべての原因です。どうかアヤメ様の行いを、アヤメ様の今を赦してあげてください』
左で眠る赤銀の少女の髪を撫でる。
寝苦しそうではなく、けれどどこか表情の硬い少女。体温を伝えるように頬を撫でると、ふにゃりと口元が緩んだ。
二百年。二百年か。
優理は大怪我どころか、普通にちゃんと死んでいた。死んで、今の身体は一から作り上げた人工のモノ。
記憶の再現は優理のオリジナルをそっくりそのまま作ったから出来ているわけで、この"今の傘宮優理"を作り上げるまでに何人もの犠牲があったとか。実質人体実験そのもの。アヤメを作り出すために行われた夢人形計画に近しいことを、アヤメ自身が行った。
それもただ一人、傘宮優理という個人を疑似的にでも蘇生するため。
今もまだオリジナルは保存されており、今後何が起こるかわからないためエイラが保管し続けると言う。
自分自身については、まあいい。
実験で死んでいった過去の自分たちも、アヤメのことを知っていたなら仕方ないと苦笑して犠牲になったことだろう。自分のことだ。前世の記憶がなくともアヤメと過ごした時間があるならば、そう思うのがこの世界で母より生まれた傘宮優理だ。
だから自分の犠牲は正直いい。どうでもよくはないが、まあいい。
問題は二百年だ。
二百年。アヤメは……アヤは二百年間、優理を蘇らせるために頑張っていた。エイラと二人だけ、他に味方はいない。敵だらけの地球でずっとずっと……心細かっただろうと思う。寂しかっただろうと思う。
『……この子のことは、アヤと呼ぶよ』
『……それは、アヤメ様のためでしょうか』
『うん。ずっとずっと頑張ってきたこの子は、もう僕の知っているアヤメじゃないから。アヤメはこっちにいるしさ』
右隣ですやすや幸せそうに涎を垂らしている少女に苦笑する。いつもの可愛いお姫様だ。
『アヤメはアヤメ。アヤはアヤ。色々あったのはわかるし、アヤがアヤメを作った気持ちもわかるよ』
二人の少女、どちらが大切かなんて比べられるものじゃない。元は同じ人間なのだ。
『生きた年月を考えれば、アヤメとアヤを同一視はしてあげられない。アヤメとアヤは元が同じだけの別人だから』
頬を撫でると口元が緩むアヤ。それは優理の知っているアヤメと同じで、どれだけ時が過ぎても、アヤメはアヤメのまま。優理にとってはずっとずっと変わらない、可愛く愛おしいお姫様のまま。
『だからこそ、アヤのことはアヤと呼んであげたいんだ。頑張って苦しんで生きた時間を、何もなかったようにはしたくない。僕と同じ時間を生きた子はアヤメ。僕のためにすごくすごく頑張って……頑張り過ぎちゃった子はアヤ。この子たちをちゃんと二人の人間として、見て、知って、触れて生きていきたいんだ』
アヤメもアヤも、二人とも愛おしい存在だ。
否定なんてしない。赦しなんて必要ない。だって一緒に生きていこうと約束したのだから。罪は同じ分だけ被ろう。共犯者。それでいい。傘宮優理の人生は、このお姫様たちと共にある。
『――
『ん。何が?』
『優理様、です』
昔と異なりずいぶん人間臭く……いや昔から人間臭かったか。より繊細な感情を覚えていそうな声音に、無言で問いかける。
『優理様は、こういうお方でした』
『あぁ、そういう。はは、僕は僕だからね』
『はい。優理様は、どこまでもアヤメ様……アヤメ様とアヤ様を慈しみ愛してくれる、唯一無二の男性です』
『まあねー』
『ありがとうございます。優理様。あなたのおかげで、アヤ様は……ノンレム睡眠に入られました』
『……そっか。どういたしまして』
それだけ今までまともに眠れていなかったということか。悲しい話だ。
静かに二人の少女を抱き寄せ、優理は体温を分け合いながら眠りにつく。
アヤとアヤメが目覚めた時に、不安を与えず傍に居てあげられるように。悲しませず、笑って抱きしめてあげられるようにと。優理は少女たちと過ごす穏やかな時間に身を委ねるのであった。
☆
赤銀の少女が目覚めると、懐かしい……遠い記憶を呼び起こす優しい香りに包まれていた。
ぱちりと目を開け、胸いっぱいに空気を吸い込む。たっぷりの心地良い香りが全身を満たし、気だるげだった脳が動き始める。
直前までの出来事が甦った。
優理だった。本当に本物の、記憶にあるままの優理だった。こうして今も、縋りつくように抱きついていても笑顔で許してくれる。温かくて、ひだまりのようで、ここだけが自分の居場所と、そう思えるような……。
「……ぐす」
また涙が出てきてしまい、そっと指先で拭う。
ほっと息を吐き、よく寝たといつになく明瞭な思考を回す。悪夢はなかった。苦しみもなかった。ただただ穏やかな、純粋な眠りの時間だった。こんな睡眠は二百年ぶりだ。
顔を動かし優理を見て、そのあどけない寝顔に口元を綻ばせる。
大好きな人。愛おしい人。待ち望んでいた人。こんな自分さえも受け入れてくれた、"アヤメ"の知る傘宮優理。
「っ……えへ」
恋人に寄り添うように、親に甘えるように、少女は優理の身体にぴったりと頬をつけた。
こんな顔見せたくない。恥ずかしい。昔だったら思わなかったはずの気持ちが、当たり前に顔を覗かせる。
幼いアヤメと異なり、二百年生きたアヤは優理に恋をしていた。積もり積もった年月の分だけ優理への想いは膨らみ、今となってはあんなことやこんなことまで全部してみたいししてあげたいと思うようになってしまっていた。二百年あれば拗らせもする。
心は大人、立派に成長した。けれど今は、初心な少女として優理の傍に居る。それでいい。優理は言ってくれたのだ。"もう頑張らなくていいよ"と言ってくれた。たくさん撫でて、たくさん褒めてくれた。アヤの全部を許してくれた。
これからずっとそう在れるわけじゃないとはわかっている。でも今だけは、ベッドの中で隣で体温を感じられる今だけは……ただの恋する少女でいたいと思ったのだ。
「……ユーリ」
呟く。
抱きしめ、伝わる体温と一定の鼓動を聞いているだけで心の底から安心できた。あの時の絶望を、二百年経って消え失せることのない悪夢を取り払ってくれる。消し去ってくれる。この人だ。この温もりだ。この安心感だ。これがほしくてほしくて、もう一度だけでいいからと思い続けて……ようやく、取り戻すことができた。あぁ、人道に悖る行為ばかりだったとはわかっている。それでも取り戻したかった。他の全部を捨ててもいいから……取り戻したかった。後悔はある。間違いだったとも思う。でも……何度繰り返しても、きっとアヤはこの道を辿る。だってこんなにもあたたかくて、満ち足りていて……愛おしくて仕方ないのだから。
「だいすき……」
ぎゅっと、手放さないように、離れないようにと強く抱きしめる。壊れ物を扱うように、全身を絡ませ力を込めて、素肌に甘い口付けを落としながら目を閉じる。
二度目の眠りも、夢を見ることはなかった。
☆
少女たちにねっとりと絡みつかれ、少女たちの熱と香りに包まれたまま目覚める。
これなんてエロゲ?と言いたくなるような状況だが、冷静に状況を俯瞰してみてほしい。
自分=培養された人間。実年齢0歳。
銀の少女アヤメ=培養された人間。しかも最近生まれ直した。実年齢0歳。
赤銀の少女アヤ=培養された人間。実年齢約200歳。ずっと苦しんで生きてきた。
もうね。これね。赤ちゃん二人とお婆ちゃんの物語ですよ、って話。
こんなんで興奮できるかって言われたら……まあ普通に興奮はする。しょうがない、童貞だもの。
考えつつ、少女二人をそれぞれ撫でる。
起きないかなーと頬を引っ張り、むにむに撫でさすり、暇潰しにAIと会話する。
『エイラ。外の世界ってどれくらい発展しているの?』
『月面と火星の開発が進み、人間が宇宙空間で容易く活動できる程度には進歩しています。また、五年ほど前より次元断層を利用した空間跳躍航法が確立されたため、恒星間移動が可能となりました。現在、人類は活動範囲を大幅に拡大している真っ最中です』
『ほー……』
完全にSFでした。
しかしまあ、優理が生きていた時代を基準にした二百年前は江戸時代だし、そう考えれば技術発展も納得がいく。
江戸時代には飛行機も携帯もテレビも、何なら高層ビルや発電所だってなかったのだ。未だ夜は人の世界ではなかった。それを思うと、二百年後の世界なんて想像もできない。いや今が二百年後なわけだが。
『……いつか外には行くとして、お姫様たちの眠り具合はどう?』
『もう起きていますよ』
「え"っ」
そろーっと右を見て、にぱにぱ笑顔の藍色を見つける。
「えへへぇ」
そろーっと左を見て、恥ずかしそうに、でも嬉しさを隠し切れていないはにかみ笑顔の藍色を見つける。
「わぁお……」
二人とも起きていたようだ。
「ユーリ、えへへー。おはようございますっ」
「うん、おはよう。今日も可愛いね」
「えへへー」
素直なお姫様を撫で甘やかす。もう一人のお姫様はと。
「……ん、え、っと……お、おはよう、ユーリ」
「うん。おはよう、アヤも可愛いね。すごく可愛い」
「べ、べつにそんな褒めなくても……えへへ、ありがと」
「うん」
あんまり素直になれなさそうなお姫様はたっぷりと甘やかしてあげた。
幸せはここにあったんだ……。
数十分ほどそのままゴロゴロと過ごし、起きて身支度を整える。服とか服とか服とか。
その後、施設――海底船の案内を受け食事も用意し、何事もない、本当になんでもない穏やかな時間を過ごす。
一通り話し、遊び、お子様なアヤメを早々寝かしつけ深夜。
キングサイズのベッドに寝ながら、アヤと優理はアヤメを起こさぬよう思考で会話していた。
『……ねえ、ユーリ』
『うん』
『なんだか、夢みたいなの』
『夢?』
『うん。ユーリが隣に居て、こうして見つめ合っていられる……ずっとずっと夢見ていたから、待ち望んでいたから、なんだかおかしな感じがするわ』
『そっか』
頬を撫でてくるアヤの美しい藍の瞳を見つめ、これが夢じゃないと伝えるように彼女の頬も撫でる。
『アヤ』
『ん』
『君は、どうしてそんなにも僕を求めていたの?』
問うと、深い藍色をぱちりと瞬かせて不思議そうな顔をする。
『どうして……。考えたこともなかったわ。半身を失くしたら探し求めるのは当たり前のことでしょう?』
少女は密やかに微笑み、けれど、と続ける。
『……私、ユーリのこと好きなのよ』
『どうして?』
『ふふっ、最初に私を見つけてくれた人で、一緒に居て心地良い人で、私のこと甘やかしてくれる人で……色々あるわ。でもきっと……一番は、ユーリが私に愛を教えてくれたからよ』
『……愛情か』
『ん。あの時、あなたが言ってくれた言葉。ずっとずっと、いつまでだって忘れないわ。二百年間ずっと、ひと時も忘れなかった。昔はわからなかったけど、私も成長したの。考えて考えて、あなたのことを考え続けて……気づいたら、逢いたくて話したくて、こうして触れたくて堪らなくなっていたの。恋も、愛も、好きも大好きも……本当の"愛してる"も、わかっちゃったのよ』
赤銀の少女は儚げに、だけど強い感情を込めて優理を見つめる。
微笑み、自身に触れる愛おしい男性の手に身を委ねた。
『あたたかいわ』
目を閉じ、うっとりと感触に浸る少女。
見た目はアヤメと同じなのに、表情や声音、仕草一つ一つに色気が詰まっていておかしな感覚を覚える優理だ。華奢な身体とのアンバランスさに頭がくらくらとする。
『ユーリ』
『うん』
『あなたがずっとずっと前に……いいえ、あなたにとってはほんの一日前のことよね。あの時の言葉、返事ができていなくてごめんなさい。今の私はちゃんと答えられるから』
返事が欲しくて伝えた言葉じゃなかった。あの時は優理も必死で、ただ自己満足のために言ったことでしかなかった。
後ろで幸せそうに寝ている少女と、目の前の真剣な顔をする少女と、今では二人に向かう優理の言葉。
アヤは幸せそうに艶美な笑みを浮かべながら顔を近づかせ、優理の耳元にその淡い桃の唇を寄せる。
「愛しているわ。ユーリ」
少女は微かな声で呟き、ちゅ、っと耳の縁に口付けを落とした。
至近距離で見つめてくるアヤへの胸の高鳴りと顔の熱さを無理やり抑え、深く息を吸う。胸いっぱいに甘酸っぱい香りを吸い込み、余計に高鳴る胸を無視する。
この子とキスをしたんだと、一瞬桜色に目を奪われ、それからもう一度藍の瞳を見つめる。返事は決まり切っている。
言葉なく、ただ静かに彼女に顔を寄せる。
「ぁ……ちゅ、ぅ……」
熱を帯びた唇を合わせ、微かに漏れる甘い声に脳を燃やしながら二度目のキスを続けた。
何度も何度も、離れようとすれば少女に吸い付かれ、気づけば舌を絡め貪るような口付けを交わしていた。
吐息荒く、彼女の耳に唇を寄せ。
「僕も愛しているよ、アヤ」
「ふ、ぁあ」
ぴくりと、少女の肢体が跳ねた。瞳にはとろりと情欲の色が宿り、以前のアヤメではありえなかった色濃い執着と熱情が伝わってくる。
「ユーリ、お願い。……私に、現実を教えて……っ」
「……わかった」
縋るような、願うような、祈るような、狂おしい恋情と愛情に混じって彼女の弱り切った声が聞こえた気がした。
何も知らない銀の少女にバレないよう、静かに情事へ移る。
優理は童貞だ。アヤは処女だ。
どちらも初めてで、ゆっくりとしたペースで二人の営みは始まった――――。
☆
彼と彼女たちの物語をこれ以上記載するのは野暮と言うものだろう。
この後三人がどんな未来を辿るのかは、まだ確定していない。
ここに未来を演算できるエイラはいない。
ここにいるのはただの人間三人と、ちょっと物凄く優秀なAIだけ。
このお話は、二百年生きた少女がただ必死に頑張って、その果てにかけがえのない人と結ばれただけの、なんでもない小話だ。
過去は過去。罪は罪。四人で一人分の罪を背負いながら、彼らは生きていく。
今度は約束を違えず、"一緒に生きて"いく。
もしかすれば、世界を見て回る途中で波乱万丈な出来事に巻き込まれるかもしれないが……それもまた、人生のエッセンス。もう誰かが欠けることはない。それだけの力は得て、それだけの保険は掛け、それだけの経験は積んだから。
終わりはきっと、これ以上ない大団円。数十年、数百年、その先まで、いつか世界に飽きるまで、彼と彼女たちは生き続ける。
最後に余談ではあるが、優理とアヤの初体験について。
言うまでもなく当たり前に、アヤメにはバレた。
その時何が起こったかは、それこそ野暮である。修羅場もまた人生。性欲の神もそう言っている――――――。
(了)
あとがき兼登場人物紹介。
別世界線のお話。
別名アヤルート「Everlasting love」
曇らせ注意。もう遅いか。心痛くなった人はごめんなさい。この世界線は「エイラがちょっと頭悪くて、リアラや灯華がいなくて、皆ちょっと不幸だったら」を現実にしたもの。最初はこんなアヤが可哀想になる予定はなかった。けどまあ、優理依存の強いアヤメならこうなる可能性も高い。本編でのエイラの面目躍如をお待ちください。本編にアヤは登場する予定がなかったけれど、ちょっとアヤが可愛すぎたので考え中。コメントがあれば番外編作るかもしれない。
このifはこれで完結なので、これ以上はありません。あとは本編をお楽しみください。(もう一個ifルート書いたのでそれも投稿します)
・傘宮優理
主人公、と見せかけたヒロイン。意外に悔いなく死んだ。アヤの愛の重さを受け止められる度量を持つ。ヤンデレも依存も守備範囲内。けど可哀想なのは抜けない。これからアヤメ以上にアヤを甘やかすせいで、銀のお姫様がやきもちを焼く。赤銀と銀が喧嘩したりもする。大体両方とエッチして解決する。寿命調整されているので長寿。
・アヤ
ヒロイン、と見せかけた主人公。元アヤメ。約二百歳。心はボロボロ。もう一度優理と会うためだけに良心も倫理も自分自身も切り捨てた。もう疲れ果てたので、これ以上無理はできない。優理に捨てられたら即自殺しそうなレベル――だった。優理に抱かれ愛され、心の底から現実を知り、優理からの溺れそうな愛に満たされ色々回復した。今なら冗談で悲しいこと言われても引きこもるだけで済む。けど優理はそんなこと言わないので、勝手に勘違いして悲しむ面倒くさい系乙女。でも頑張ったから……。アヤは報われていい。犠牲は数多の優理だけだから……。
・アヤメ
銀色お姫様。実は優理の死自体は記憶にあるので、精神的にはかなり不安定。その瞬間がフラッシュバックして眠れなくなったり、悲鳴を上げたりするくらいには苦しい。けど優理に抱かれて愛されて、ちゃんとここに居る、と思い知る。エッチってすごい。アヤより積極的なエッチな女の子。アヤには妹みたいに思われている。アヤのことは姉みたいに思っている。
・エイラ
本編よりちょっと性能が低い人工知能。エイラは悪くない。けど自分は責め続けている。
もう二度と同じ過ちは犯さないと、優理とアヤメとアヤのバックアップはいつでも作れるよう用意している。実はアヤ以上に人道とか倫理は捨てている。そんなものより三人の幸せが大事。もうヒト型アンドロイドとかにはなれるので、優理の軽い要望で女性型で現れエッチなことする。そのせいで修羅場になる。そこからまたエイラの価値観が変わったりもするが……それは別のお話。
・リアラ
たぶん生まれていない。いたら優理と接点ができるので、この世界線では存在していない。
・灯華
どこかに居る。日本から夢人形計画への手を引かせた人。これがなかったら日本は滅んでいたかもしれない。超ファインプレー。けど本人は処女のまま死んだので後悔しかない。悲しい。
・実咲
灯華と同じだが、意外に楽しんで生きていた。世の中エッチがすべてじゃない。
・モカとか香理菜とか
どこかにいるけど、普通に生きて無難に死んでいった。世界中の女性と同じ。人生色々。
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