【番外編】カラオケ大会in灯華ハウス。
「お邪魔します」
「おじゃましますっ!」
少々の緊張を孕んだ声と、元気いっぱいな声と。
二つの声が東京の一等地にあるマンションの玄関に響く。オートロックで閉められたドアは頑丈で、玄関含めた廊下は両手を目いっぱい伸ばしても触れられないほどに広い。
「――お待ちしておりました。どうぞ、メイドハウスにてごゆるりとお過ごしくださいませ」
迎えは一人。何故か安っぽいミニスカートのメイド服を身につけた女だ。この家の主――ではなく、家政婦兼秘書兼運転手兼自称メイドの
上品にスカートをつまみお辞儀してみせた実咲に対し、
"ミニスカメイド服でそんなお辞儀しないでしょ"の一言は飲み込み、ちら見えする白い太ももからそっと目を逸らした。むっちり度合いが高くてエッチで困る。
「実咲!可愛いお洋服です!」
「ふふふふ、
「実咲可愛いです!」
「ふふふ、アヤメ様もとても御可愛らしいです。素敵なひらひらスカートにございますね」
「えへへー、ユーリに選んでもらいましたーっ」
「おやそれは羨ましい。本当に。切に。私奴も優理様にエスコートされたい」
女子トークに花を咲かせているメイドと美少女を横目に、そそくさと家に上がらせてもらう。
見知った部屋ではないのでさらりと視線を流し洗面所を探す。
家は広いが日本家屋であることには変わりがない。適当に手洗いうがいを済ませ、同居人兼本日のカラオケ仲間である銀髪美少女アヤメを連れてくる。何故かメイドも付いてきたが見ないフリをしておく。
二人で風邪予防を行ったあと、実咲から簡単な
玄関、洗面所、お風呂場、お手洗い、リビング、キッチン、部屋、部屋、部屋、部屋。無駄に部屋数があるのは仕様か。それぞれベッドルーム、仕事ルーム、休憩ルーム、遊びルームとそこまで分ける必要ある?と問いたくなる間取りをしていた。
実咲が言うに、灯華自身も"無駄に広くて困っておりますの、おほほほ……はぁ"とかなんとか。こちらも無駄に似ていてアヤメがびっくり喜びしていた。一芸が披露できてご満悦なメイドだ。
遊び部屋はカラオケボックスのパーティー用ルームにそっくりで、天井にミラーボールの代わりのシャンデリアがあったり、壁に大きな液晶パネルがはめ込まれていたりするところが違うかもしれない。あと、ソファーが豪華で部屋全体がなんとなく高級感を漂わせている。照明も暖色系で部屋の色調も暖かい白だ。普通のカラオケボックスとは結構違うか。
「こんな綺麗な部屋でカラオケとは贅沢な……」
「私奴もこちらの部屋にてカラオケは初めてにございます」
「えっ、普段から使ってるんじゃないんですか?」
「灯華様は仕事部屋とリビングルーム、及びベッドルーム以外はほとんどお使いになられませんので」
「ええ……」
「お部屋いっぱいあるのにもったいないです」
「仰る通りにございます。しかしアヤメ様、本日アヤメ様と優理様がこちらの部屋をお使いになられる故、充分に部屋も満足しておりますよ」
「?お部屋が……?そうなのですか?」
そこで僕を見るのはやめてほしいな。思いは飲み込み、ゆらゆらと少女の頭を撫でておく。
「まあうん。そうかもね。カラオケしようか」
「はいっ」
「準備はできておりますよ」
「おー、さすがですね」
「メイドにございます故」
部屋の照明は一段階下げ、ほんの少しムーディーな雰囲気へ。
無駄なシャンデリアは見なかったことにし、クールな微笑を浮かべる実咲にボディタッチを敢行する。秋の季節にミニスカ半袖メイドは着ている方が悪い、ということで二の腕より下をぽんと軽く叩く。ハイタッチの代わりだ。
「やぁん♡」
「……アヤメー、曲選ぼっかー」
「はい!ユーリと一緒に選びたいです!えへへー、毎日ユーリとお歌聞いていますからわかりますよー!」
「完全無視はちょっと私奴も傷ついちゃいます。だって私奴、乙女メイドだもの……」
「はいはいわかりましたから、こっち来て一緒に選びましょう?」
「キューン♡好みの男性のお声に釣られてほいほい付いて行っちゃいます♡」
妄言を吐きながら摺り足でやってきた実咲にも見えるよう、カラオケ用のタブレット端末を引き寄せる。横長ソファーに座った順番は実咲、優理、アヤメという順だ。
豊満な胸を押し付けてくる実咲と、ほっぺたを合わせる勢いで身を乗り出してくるアヤメと。美女&美少女に囲まれて精神を削られる童貞である。家で処理してこなかったら危なかった……。
「というか聞いてなかったですけど、灯華さんどうしたんですか?」
「灯華様は名家の事情で飛行機に乗っております」
「あぁ……」
「血涙を流す勢いにございました。優理様、アヤメ様、私奴とスリーショットの写真撮影を致しませんか?」
「またえげつないことを……構いませんけど」
「撮りたいですー!えへへ、私にもお写真くださいっ」
「モチのロンにございます」
きらーん☆と普段の微笑を崩してまで白い歯を見せて言う。
演技をする際、常に全力なのはポイントが高い。優理も同じ志を持つ。同志だ。あと胸が腕に当たって潰れて温かくてエッチでエッチ。
この家ならカメラも三脚も自撮り棒も、何ならドローンでさえあるだろうに、実咲はごく自然な動作でさらに距離を詰めスマートフォンを前方に差し出した。ドキリと心臓が跳ねる童貞だが、そこは前世持ち。隣でわたわたしているアヤメを素早く抱き寄せ、ぎゅっとくっついて三人でカメラに収まるようにする。
左隣から伝わる体温と、激しく高鳴っている心臓の音。右隣、というか腕の中から聞こえるリラックスし脱力した少女の温かさとほのかに色香を帯びた息遣い。ちらと見れば雪色の頬が薄っすら朱に染まり、瞳の藍が潤んでいた。可愛い。可愛すぎて困る。
「――撮ります」
「はい」
「は、はいっ」
胸の高鳴りは顔に出さず、すまし顔の実咲が写真を数枚撮っていく。メイドの本領発揮とばかりにタイミングを合わせていた。画面をよく見れば実咲の口元が震えているのがわかる。
「実咲さん照れてます?」
「――私奴は処女です」
「え?は?」
「処女にございます故、
「え、はぁ、はい……」
「……あまりメイドを揶揄わないでいただきたく存じます。私奴は……いえ、これを言うにはまだメイドの好感度が足りませんね♡」
「……そうですか。じゃあいったん忘れます。三年後くらいにまた聞きますね」
「わーお具体的な時間間隔嬉しゅうございますね!」
「あのあの、ユーリ……えへへ、ぽかぽかで幸せですけど、お歌も歌いたいです。でもでも、えっと……このままでも私はいいです」
メイドとの雑談はさておき、いったん腕の中の美少女に意識を戻す。
変な体勢で抱き寄せてしまったため、今はアヤメが優理の胸元にもたれ掛かっているような形となっていた。身じろぎにより銀糸が揺れ、甘酸っぱい香りが童貞の鼻腔を埋め尽くす。
現状を捨てて歌を取るか、このまま抱きしめられたままでいるか。どちらを取ればいいのか贅沢な悩みでお困り中の美少女だ。
可愛い少女の頭をなでなでし、そっと離してあげる。頭部から手を滑らせ頬をなでなで。
にへらと笑みを浮かべたアヤメに微笑み、歌を歌おう!と告げる。
「――お歌です!」
さっきの間で何か決めていたのか、ぱぱっとタブレットを操作し曲を一つ入れる。
トップバッターはアヤメだ。机の上のマイク(高級なやつ)を手に取り、元気に立ち上がる。
「おや、この曲は……」
「実咲さんもご存知でしたか?」
「はい。私奴も結婚を夢見始めた時より耳にし涙した覚えがあります」
遠い目でアヤメよりも先のどこか知らない場所を見ている。
その豊満な胸は気づかぬうちに優理の腕を挟み込んでいた。
「――
澄んだ鈴の音が、歌となって響き渡る。
カラオケの始まりだ。
☆
性欲逆転世界に転生して二十年が経過した優理ではあるが、"傘宮優理として"のカラオケは初めてだった。優理の母は特に音楽好きというわけではなかったし、中高生の頃も客も店員も九割女性のカラオケ店に行きたいと思わなかった。
カラオケボックスではないが、こうしてリラックス濃度高く人の歌を聞いて自分も歌ったりしてとできるのは意外に新鮮で、またなんとなく前世の遥か昔を思い出して懐かしくもなる。
優理(前世)も高校生の頃はカラオケなんて行っちゃったりしていたのだ。あゝ旧く懐かしき故郷よ……。
現在、トップバッターでパーフェクトシンギングを披露しているアヤメに続き、優理と実咲も選曲を進めていく。音楽は選びたい放題だ。
「
娘が誰かと結婚する瞬間、娘を送り出す父親の気持ち、妹を想う兄の心、アヤメの相手が自分であるという妄想、現状愛されているという実感、歌の先に自分がいるという感覚。様々な想いが胸襟に巡り、涙となって頬を濡らした。
ついでに横で実咲も泣いていた。こちらは結婚式を挙げる未来の自分を夢見て泣いたらしい。相変わらずこの世界の女性心理はよくわからないなと思う優理だ。
二曲目。「RAIN」。歌唱:優理。
「RAIN」はバラード寄りのジャパニーズポップソングで、これまた恋愛系だ。雨の日をテーマにした恋する相手を想い願う片想いとも幸福の祈りとも取れる曲。ただ綺麗な恋愛ではなく、雨と恋を絡めた失恋の香りもする切ない曲である。
以下聞き手の感想。
「私はユーリと一緒ですよ!(だきっ!」
「私奴は優理様の御傍に侍ります(ひしっ!」
「わぁぁ……!!」
優理が涙混じりの女性陣を振り解いたかどうかは……野暮は言うまい。
三曲目。「I want to be Wind(Acoustic ver)」。歌唱:実咲。
「I want to be Wind」は洋楽に見せかけた完全なジャパニーズポップソングである。歌詞に英語は一切含まれていない。実咲は自称パーフェクトイングリッシュスピーカーなので「あいむみらくるメイド」と鼻高々に言っている。冬風実咲は日本人なのだ。
自由と大自然の息吹を感じられる曲がアコースティックギターでより穏やかさを増している。英語はともかく落ち着いた声音で綺麗に歌い上げたメイドだった。
以下聞き手の感想。
「さすがジャパニーズメイド。歌上手いですね!」
「実咲はお歌もお上手なんですね!」
「ふふふふ、それほどでも(謙遜&照れ」
四曲目。「恋愛NOW」。歌唱:アヤメ。
「恋愛NOW」の読み方はレンアイノウであってレンアイナウではない。
曲調はポップ&アイドル風で、恋に恋する今を歌った現代ソングだ。優理家にて音楽を聴き漁っているアヤメが時折聞いており、口ずさんでいたら気づいたら覚えていた。天才の本領発揮である。
元気いっぱいな歌い方に加え、広い部屋の中央に立って優理と実咲にパフォーマンス(ポージング、ダンス、身振り手振り、ウインク等)を交えながら歌い切った。長い銀髪がアイドル妖精の幻想性を高めていた。
以下聞き手の感想。
「私奴の推しが世界最強という事実に感服致しております。キャー♡アヤメ様ー!手振ってー♡」
「僕の妹……いや娘………いやいや妖精が可愛すぎてやばい。これが尊崇の極み……ッ!!」
「えへへー!!お歌楽しいですね!」
五曲目。「夜通し君を想ゐ」。歌唱:実咲。
今度の実咲はド直球な恋愛ソングを放り込んできた。恋に飢えている女性ばかりの世界故、リアルとネットどちらにも湯水の如く恋愛ソングが溢れている。
こちらの曲は明るく楽しく、それでいて前向きに恋と愛を謳った曲の一つだ。ジャンルはポップロック。メイドの少し低い落ち着いた声色は、元気によく通るソプラノボイスに大きく変わっていた。変声術はメイドの嗜み、とのこと。
以下聞き手の感想。
「実咲さん可愛いよー!恋しちゃうよー!」
「お声が変わってすごいです!すごいです実咲!」
「ふふ、うふふっ。冬風実咲、人生の最盛期……!」
六曲目。「栞」。歌唱:優理。
ジャパニーズロックソング。優理の好むバンドの曲の一つで、これまた恋愛ソング。
幸せな愛を謳った曲であり、優理と同居しているアヤメも当然知っている。イントロの段階で目を輝かせる銀の少女がいたり、守備範囲の広いメイドが妙にうずうずしていたりした。
アヤメのパフォーマンスに倣って、優理もまた持ち歌で歌詞を覚え切っているものは観客の方を向いて歌うことにした。
以下聞き手の感想。
「キュン……♡私奴と目が合った。これがアイコンタクトラブ……?」
「ユーリー!かっこいいです!大好きですー!」
「僕も大好きだよー!」
「私奴もお慕いしておりますー!」
「僕も愛してるよー!」
キャッキャウフフと、ノリと勢いだけで場が盛り上がる三人だ。ちなみに酒は一切入っていない。
七曲目。「
ポップソング。恋愛ではなく、なんでもない日常への幸福と未来の希望を込めた歌。
アヤメが歌うにふさわしい曲だと優理は涙した。
現実の辛さとか、過去の苦しみとか、上手くいかない人生とか。優理もまた味わってきた色々がある。アヤメだってそうだ。自分が意識しているかしていないかの違いだけで、人の苦悩を簡単に推し量ることはできない。究極的に、個々の苦しみを比べることなどできないのだ。
前を向き未来に光を見て生きているアヤメだからこそ、その歌に込められた想いが優理には強く響いた。実咲もある程度はアヤメの境遇を知っているため、普通にもらい泣きしていた。
以下聞き手の感想。
「ぐすん、うぅ、あやめぇ(ぎゅー」
「……はぁぁ……メイド、容易く涙する安い女ではございません。――ですが今は。……アヤメ様っ(だきっ」
「わわっ、二人ともどうかしたのですか……?」
大人二人に抱きしめられて困惑しつつも嬉しそうな少女であった。
八曲目。「Not Logic」。歌唱:優理。
ジャパニーズポップ。アヤメの歌唱に触発されて選んだ優理の持ち歌。今日一番上手い。
歌詞は「ケセラセラ。人生完璧じゃなくても後ろ向きでも前見て生きていこうぜ」というようなニュアンス。最初から最後まで明るくスマートで聞いていて気持ちが良い。
後ろ向きな優理だからこそ、この曲は時々聞いて口端に笑みを浮かべていた。まあまあ、人生失敗だらけでもしょうがない。前向かないと生きていけないし、ちょっと元気湧いたら歩くかー。と。こちらの曲も当然歌詞は覚えているので、情感たっぷりに歌い切った。
アヤメは軽くハミングを入れ、実咲はきゃぁきゃぁ黄色い声を上げていた。
以下聞き手の感想。
「キャー♡優理様素敵ー!抱いてー♡」
「ユーリー!すっごく楽しいですね!」
「超楽しいね!!子猫ちゃんたちー!愛してるぜー!!」
この映像を見た灯華が血涙を流しそうなほど楽しげなカラオケ会場だ。
ちなみにリアラも誘われていたが、深く深く溜め息を吐いて仕事をしている。今日のリアラ周辺はどんより曇っている。
九曲目。「ユメを諦めないで」
続くポップソング。アヤメと優理に触発され選んだ実咲の持ち歌――ではなく灯華の持ち歌。
未来への希望云々というよりは、誰かの夢を応援、他人の背中を押すような優しくも熱のある歌である。穏やかな曲調は弱低音ボイスの実咲にマッチしていた。
自称メイドもパフォーマンスを交え始め、カラオケはどこかのライブさながらに盛り上がりを見せ始めていく。重ねて言うが一切酒は入っていない。無論、薬も何も入っていない。全員シラフだ。
以下聞き手の感想。
「夢応援はいいよね。僕も応援されたい」
「ユーリは夢があるのでしたか?」
「うーん。……とりあえずアヤメとずっと一緒にいることかなー」
「え、えへへぇ。ずっと一緒ですっ(ぎゅっ」
「私奴も永遠を共にしてもよろしいですか?」
「うーん、実咲さんが本気ならいつか本当に僕らのところ来ます?それはそれで楽しいかもですね」
「――――優理様、アヤメ様。
「えへへー、実咲も一緒だときっともっと楽しいです!」
一瞬目を見開いた実咲は、彼女にしては本当に珍しく花が綻ぶような柔らかい笑みを浮かべる。
実咲の笑みは瞬き程度の短い間だけで、それでも優理とアヤメの目にはしっかりと映っていた。実咲が何を思い何を考えているかは、当人だけの秘め事である。ただでも、"いつか"という言葉がいつの日か形になる確率はそれなりにある、ということだけは明言しておこう。
優理とアヤメと実咲の"カラオケ大会in灯華ハウス"は、まだまだ続く。
☆
日本某所。厚生増進省、国家情報管理課。
「ねえ朔瀬さん今日めっちゃ不機嫌じゃない?」
「不機嫌っていうか、元気ないっていうか……仕事超早いけど」
「あれ捌けてるの?適当じゃなくて?」
「あの人アレでできてるのよ。ちょっと意味わかんないわよね」
「運動神経普通なのに、なんであんな手動くのかしら」
「普通って言うけど、あの人普通じゃないよ。だって技術点トップ10入りしてるし」
「なんで元気ないのかなぁ」
「あんた聞いてきてよ。席隣でしょ?」
「ええっ……まあうん。聞いてみよ」
「そりゃ無理よ――って普通に行くんだ……」
AIと共同で高速情報処理をしていた
「あのぉ、朔瀬さん」
「はい」
「今日、何かありましたか?」
「――」
手が止まる。とん、とん、とんとキーボードをタッチし、静かに隣を見た。無表情のリアラに同僚はびくりと肩を震わせる。
「や、やっぱり言わな――」
「――ありました。話をしましょうか」
「は、はいぃ!」
軽く声をかけたことを後悔する同僚だが、話を聞いていくと別の意味で気分が盛り下がっていく。
曰く、収精官として出向いた先の男性と良い感じになっている。
曰く、その男性(年下で優しい※超重要)からカラオケに誘われた。
曰く、普通に仕事の手が離せなくて行けなくて辛い。
曰く、その男性は他の女性とも縁があり、いつか寝取られる(まだ付き合ってないのに)んじゃないかと不安。
曰く、というか普通に一緒にカラオケとかしてみたかった。
このような旨をつらつらだらだらと長々垂れ流してくる。ただの愚痴だ。途中から溜め息多く、惚気も交えているようで同僚にしてみれば鬱陶しいことこの上なかった。
以前からリアラが何か男性と縁ができたのでは?と噂はあった。
この数少ない情報管理局の中だ。女性しかいない場所で、妙に浮ついていたり機嫌がよかったり、露骨に艶めいていればわからないわけがない。
しかしまさか、そんな漫画のような話が現実に起きているなんて……!!とNINJAの技術を駆使して盗み聞きしていた同僚たち全員が臍を嚙んでいた。
直接愚痴を聞いていた同僚は、「え、なにそれ。ずるい。私そもそも男性から優しくされたことないし、ていうか手料理って何?え、不公平過ぎるよ。年下で優しい(※超重要)とかそれもうエッチの塊じゃん。ずっるいよぉ!」と不平不満を募らせていた。おそらく今日は家に帰ったらストレス解消行為を十数回行う。
彼女は年下フェチだった。そして甘やかされるのが大好きでもあった。
愚痴を吐き出しある程度元気を取り戻したリアラは、後で優理に電話をかけてみようと気持ち新たにする。灯華の家ならば、どうせ録音もしていることだろう。優理の歌はもちろん、アヤメの歌も聞きたい。
「……頑張りましょうか」
キーボードに触れ、仕事を続ける。
やる気はたくさん。元気はそれなり。今日もお仕事頑張ろう。
恋する乙女らしく美しい熱を携えたリアラとは裏腹に、同僚の女性陣は羨ましいやら祝福したいやら、私もワンチャンないかと思ったりと、すごい複雑で最終的に全員気分が一段階下がるのであった。
無論のこと、一番ダメージを受けたのはリアラの隣の席に座る同僚である。
☆
空の上。八乃院家プライベートジェット飛行機に乗り、
目指す先はオーストラリア。八乃院家本家の遠い親戚が亡くなり、分家含め動ける人間は招集された。いくら優秀でも、本家の人間が亡くなり、お願いと言われたら行かないわけにはいけない。これが上から目線の傲慢な対応だったら突っぱねてもよかったのだが、名家というのは誰も彼も大体は他人を慮れる人格者なのだ。腹の底で何を考えているかは別だが。
そのようなわけで、灯華は泣く泣く優理とのカラオケを断念し空の上を飛んでいた。
「……はぁ」
今回は自称メイドの冬風実咲も同行していない。
あのメイドはあらゆることを完璧に熟す超人ではあるが、外国語だけはさっぱりだった。「イングリッシュマスターにございます」と素知らぬ顔で言いつつ、「ところで英語で"灯華様"はどのように申せばよろしいのですか???」と真顔で問いかけてくるのだ。
そんな女を連れていっても役に立たない。いや役には立つが、普段の力量の半分程度しか発揮できないだろう。会話通じないのだし。
今回は八乃院家の集まりであるため、別に実咲が来る必要はなかった。それ故の一人旅だ。
「……優理様は、お元気でしょうか」
最近忙しくてあまり会えていなかった(一週間前に会った)。十二月にはお茶会の予定を入れているので、ちゃんとイロイロ話すのはその時でいい、とは思う。しかしそう……実咲経由で知ったが、灯華の想定以上にリアラと優理の仲は進展していた。具体的には友達以上恋人未満。
このままではまずいと思う。でも優理ならエッチくらいしてくれそうだな、とも思ってしまう。
別に灯華は優理と結婚したいわけではなかった。イチャイチャラブラブしてエッチして子供産んで楽しく生活できればそれでよかった。一般的価値観からは少しずれているが、名家生まれなんてこんなものだろう。縛られるのが嫌で、自由に求めるものだけ求めて生きていく。
そりゃ恋愛&結婚は憧れだし夢見ているが、それはそれ。ある程度ちゃんと現実も見えている。というか、優理を狙うのはアヤメがいる時点でいわゆる"普通"の恋愛はできない。
アヤメの出自を知っている分、灯華がアヤメを邪険にすることはできなかった。
「……うぅぅ、これが寝取られというものにございますか。胸が痛く頭が痛く……しかし甘く痺れるような心地よさも……」
何か目覚めてしまいそうな赤毛の女である。
とりあえず、後で一度実咲に連絡を取ってみようと思う。たぶんきっとめちゃくちゃに楽しんでいるだろうなぁ、いいなぁ……と久しぶりに心の底から他人を羨む美人であった。
あとがき
ちょっと現実で色々あるので数か月は更新週1とかになる可能性が高いです。
とりあえず書いてはいます。生活落ち着いたらまたいっぱい書くかもしれません。
あと、それはそれとして新作も書いているので、ハナ女の執筆時間は減っています。すみません。けど別の書くの楽しいんです……。
なので、更新なくても気にしないでください。書いてはいるので、書けたら投稿します。
ちなみにですがこの【番外編】は本編と一応地続きで想定しているので、もしかしたら普通にこのお話のあれやこれやが本編に関わることがあるかもしれません。主に実咲関連で。パラレルですけど、限りなく近い未来みたいな感じです。
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