【ライブ配信】「後(ご)報告」のアレコレ色々②

 いつもの配信っぽい雰囲気になってきたが、まだまだユツィラの質問回答コーナーは続く。さくさく答えていこう。


【今はいてるパンツの色は?】


「ちょっと待ってて…………黒です」


【お面外して♡】


「嫌だよ♡」


【下着ってどこで買ってるの?】


「もうネットばっかりだよね。男物売り場あんまりないし」


【結婚しよ?】


「嫌です。今すぐ結婚したいなら僕の幼馴染になって出直しきてください」


【ダンス練習した?】


「超した。したけど……お察しだよね。僕も自分で見てて笑っちゃった。ていうかアイリスかっこよくなかった?すごかったよね。超やばかった。もうプロじゃんって思っちゃったね。あのかっこよさは男の僕じゃ出せない、可愛さと綺麗さが両立したかっこよさだったよ。ダンスもそうだけどミュージカルの方もさ――」

「ユ、ユーラっ」

「……あ、アイリス。いったいどこから!?」

「ず、ずっとお隣にいましたっ」



▼チャット▼

完全な親バカです、この男

確かにカッコ可愛かったけど、本人を目前にしてよく言える

白々しいオトコよ!

ユツィラのダンスと比較するとなおわかる上手さ

お顔真っ赤にしてそうでかわいい

お耳赤くなってない?なってるよね?可愛いね!!



「あの、えと……そんなに褒められると恥ずかしいです。たくさん人が見ているときは……だめです!」

「だめかぁ」



▼チャット▼

だめかぁ……

ダメならしょうがないね

二人っきりならいいよ(隠語

エッチに聞こえる私の脳は終わっている

エロスを感じるあたしの煩悩ほんともう終わりよ



「……大丈夫、僕の頭も大体みんなと一緒だから。煩悩ってよくないよね」


 思考汚染がひどい。

 恥ずかしそうにもじもじしているアヤメを撫で、人前で褒めちぎるのはやめてあげようと頷く。アヤメが見て聞いていない時だけにしよう。


【ミュージカルの替え歌作り大変だった?】


「そうでもなかったよ。割とぱぱって作れた。アイリスのパートもアイリスが自分でぱぱーって作ったから、大変じゃなかったかな。ねー」

「はいっ。私がぱぱーって作りました!」



▼チャット▼

なんだこの二人、可愛い。可愛くない?

ぱぱー!

パパ?

パパ(隠語

私もここに混ざり、たいけど混ざりたくない。ジレンマすごいんだけどなにこれ



「さすがの僕でも今の会話で煩悩は出なかったな。……上級者いますね、この配信。いやいつもか」

「?どういうことでしょうか?」

「ふふ、なんでもないよー。僕のことパパって呼んでみて?」

「どうしてですか?ユーラはユーラなのでユーラです!」

「……うんっ。そうだったね。ありがとうね」

「えへへー」



▼チャット▼

出来心でやらかしてて草

やーいフラれてやんのぉ

私のことママって呼んでもいいのよ?

あたしが慰めてあげよっか♡

ユーラゲシュタルト崩壊



 ここぞとばかりに煽ってくるコメント欄はすべて無視だ。次に行こう。


【あの夢の歌、誰向けだったの?】


「反男性団体の夢諦め乙女向け。さっきからコメント流れてるけど、ミュミュで発信してる人いるみたいだね」



▼チャット▼

団体解散したって!

トップが目を覚ましたとかなんとか

ニュースになってるね

トレンド入ってるんだよね……

これが私の恋人の力ですよ



「いや僕、君の恋人じゃないから。ていうかトップって……いやまあいいや。後にしよう。あとあと。回答に戻るよ!」


【ユツィラとお喋りはどうなりますか?】


「あー。中止です。色々考えたけど……たぶんもうやらないかな。他の色々は考えてるけど、リスナーからの友達……と、いうか恋人探しはやめだね。ネットオフ会は……いやネットオフ会って配信と同じか。とりあえず一対一のお喋り会みたいなのは今後もうやらない予定です。いつかはわからないけどね」


【年上女性をどう思いますか?】


「好きだよ。今の時代みんな肉体年齢は若くいられるからね。年齢なんて気にしないでいいと思うよ」


【年下女性は好きですか?】


「好きだよ。ただやっぱりある程度包容力は欲しいよね。疲れた時は抱きしめて頭撫でてくれる系のね……あぁ、ふふ、アイリス撫でなくてもいいよ。でもありがとう。……あとリスナーたち嫉妬であふれるのやめて?」


【同世代は好き?】


「好み多くない?好きだよ。全然好き。僕の好み幅……というか性癖広いから大体ウェルカム。けど痛いのは嫌いです」


【好きな体位を教えてください】


「だから童貞だとアレほど……は言ってないか。経験ないのでわかりません。けど超至近距離で向き合ってする対面で座った体位はいいよね……とても良いと思います」



▼チャット▼

わかるよ。経験ないけど

超わかる。したことないけど

いいよね。夢で見たよ

そんなエッチがしたい人生でした

そんなエッチをする未来はあたしの手の中に……!



「あーもう、七十万人もいればそういう経験したことある人いるんじゃないの?ねえ……」


 コメントが流れていく。

 流れていく。

 流れていく……。


「……なんか、ごめん」



▼チャット▼

はい炎上

七十万の処女

見なさい、これが私たちよ

世の女の現実

終末のヴァージン



 悲しいがしかし、これも現実。

 そっとコメント欄から目を逸らし、隣でお手々繋いでルンルン振っているアヤメと話す。


「アイリスは良い子だね」

「えへへー、私いい子ですっ。ユーラの手はあったかくてぽかぽかですね!」

「手繋ぐのと撫でられるの、どっちがいい?」

「むむっ……」


 びびっと動きを止めて考え込んでしまう妖精を横に、配信の世界へ戻る。



▼チャット▼

あたしは撫でられる側かなぁ!

もち手でしょ

やっぱ全身よね

私は鼠径部かも

唇……かしら

頬だよね頬!ほっぺた!!キス!



「君たち何の話してるんだよ……」


 優理の知らない世界の話が飛び交っていた。要望要求コメントはすべて無視しておく。


「――ユーラ!」

「はいはい!」

「いろんな人のこめんと?が来ていました!私はほっぺたが一番好きですっ、えへへ」

「んー、アイリスは可愛いねー」


 頭をなでなで。カメラに映らない位置でこっそりお面をずらして頬をなでなで。くすぐったそうに、幸せそうに頬を押し付けてくる。なんだこの可愛すぎる生き物は。



▼チャット▼

可愛い声だけ聞こえるずるいー

幸せボイス提供Thanks

私もほっぺたなでなでされたいー!

頬撫&キス&ベッドinセットでよろしくね!

隠れて撫でるとかこんなのもう実質愛撫じゃん



「……コメントが終わってるので次行きまーす」


【性癖おしえて♡】


「髪!太もも!声!唇!あとお腹!」


【なんでお喋り会しようと思ったんだっけ】


「前配信見に行ってください。……一応説明すると、当時は女騙りしてたから、友達って体。今もそれは間違ってないんだけど、実際は友達から恋人へステップアップできる関係の友人かな。予定消えたから終わった話だね」


【アイリスたん甘やかしてあげて】


「アイリスー」

「はいっ」

「今僕にしてほしいことある?」

「いっぱいあります!でもユーラはお忙しそうなので、一緒にいてくれるだけで嬉しいですっ」

「うぅ、良い子じゃ……ぎゅー」

「わわ……え、えへへぇ」


 優しい女の子にはハグをプレゼントしてあげよう。心が浄化される。



▼チャット▼

いい子過ぎて人の心取り戻したかも

あたしだったらエッチ要求……

自分のヨゴレと比較して泣けるよね

私ってこんな醜かったんだ……

やっぱ性欲って罪だよ。全部気持ちいいのが悪いよ気持ちいいのが



 変に大ダメージを受けているリスナーたちは見なかったことにする。人数が多いとそれだけ心のヨゴレも凄まじい。今ならダメージボイス収集が捗りそうだ。


 ハグはそこそこに、アヤメを撫で回して次の質問へ。


【スターはいつ付けますか?】


「スターは投げ銭のことね。そのうち付けるけど、上限百円は変えないから本当にお気持ちだよ。スターでお悩み相談とかしてもいいから、付いてる時はいつでも送ってね」


【過去のアーカイブ消す?】


「アーカイブか。考えてなかったけど……残そうかな。この配信は残すつもりだし、それなら原因となったやつもないと未来のリスナーが何もわからないからね。男だとわかって見れば婚活してる人もそこまでマイナスイメージ持たないでしょ。……これでまた炎上したら消します」


【個人情報とか入力しちゃったけど大丈夫?】


「ユツィラとお喋りについてかな?大丈夫、国が守ってくれるので。流出したら……どうなるんだろう。とりあえず国と話して、僕にできる補償もするよ。……はいそこ、エッチなコメント禁止ね」


【男性COした気分は?】


「罪悪感とか後ろめたさは消えたかな。ただ今後の配信どうなるかとか、リアル被害的な面がちょっと心配。護衛とかはねぇ……色々考えます。とりあえず炎上落ち着きそうでほっとしてる」


【私のこと好き?】


「……これが視聴者少ない普段の配信だったら、ASMR用のマイクに変えて"愛してるぜ"とか言ったけど今日は言いません。なぜなら視聴者がいっぱいいて恥ずかしいから」


【お名前呼び配信する?して?してください(ヒヨミです)】


「そのうちするよ。だからヒヨミの名前は……」



▼チャット▼

ユキカです

ミサトだからね!

チカって呼んでいいよ?

ナナエです。お願いします

コイリだよー!!今日もよろしくねー!!



「だから普段は呼ばないんだよね、こうなるから。というか見覚えある名前多くない?古参いるよね?動画流れてた頃どこいたのさ……」


 気にしてもしょうがないので、ササッと次へ進める。


【わたしとコラボしよ!】


「正式に誘ってください。メールとかでね。受けるかどうかはまた別なので、そこまで期待しないで」


【パンツ売ったりします?】


「するわけないじゃん。おばかですか?おばかですね」


【エッチな写真ちょうだい♡】


「だーめ♡」


【エッチな声出して?】


「今日はやめておきます。真面目に生きます。今日の配信は……もう真面目じゃないだろとかいうツッコミしたらタイムアウト――うわあ!コメントが多すぎる!!間に合わないんだけど!?」


【配信頻度はどの程度?毎日するの?】


「予定は未定。一応毎日してきたからそのつもりだったけど、炎上騒動の後始末とメール対応とか他諸々で今後毎日はしないかも。まあ今までも結局週四週五くらいだったし、そんな感じで考えておいて」


【案件とか受けるの?】


「うーん。受けてはいきたいかな。できることをね。エロゲの案件とか特に受けたい。あと、話変わるけどメンバー登録のお金取ろうかなって。本気で配信者やるなら、百円くらい取ってもいいよね!僕もお金ほしいし」



▼チャット▼

100円は安すぎない?

普通500円以上でしょ

今メンバー何人いるの?

投げ銭もほぼないし、全然取っていいと思うけどねぇ

むしろ今までゼロだったことが驚きだよ



「メンバー?今……え、うわ」


 つい声が出てしまう。アヤメが不思議そうな顔でモニターを覗き込んでくる。


「えと……?三十万、ですか?」

「……うん」



▼チャット▼

多すぎるんだよね……

どうなってるのよネットの女たちさー

私の同類が多すぎる件について



「昨日まで六万くらいだったはずなのに……」

「ユーラ、これは多いのですか?」

「多いよ。超多い。まあ無料だからかもだけど……えっとね。もしもこの人たちがそのまま全員百円ずつくれたらどうなると思う?」

「?三十万の百倍は三千万です!」

「うん。それが毎月だね」

「?……???」

「あー、僕がお金管理してるもんね」

「はいっ、三千万円はたくさんのお金なのですね!」



▼チャット▼

かわいい

これが純粋さの権化

箱入りお姫様じゃん

毎月三千万円は草

100円でそれってやばいでしょ



「Churichはメンバー代半分こっちにくれるから、ざっくり千五百万だね。百円でこれなんだから、三百円なんてもう一か月で家が建つよ……」


 税金でかなり減らしても大金が過ぎる。急なお金に頭がくらくらしそうだ。

 服の裾を引っ張られる。アヤメがじっと見つめてきていた。


「三千万円あれば何が買えるのでしょうか?」

「ふふ、高級ハンバーグが毎日百個食べられるよ」

「!!!!」



▼チャット▼

ハンバーグ計算で草

雑過ぎませんかね

お子様思考すき

まごうことなき子供

顔見えないのにすごい喜んでるのわかる



「あー嬉しいのわかったから、落ち着こうね」

「はいっ!!!」


 アヤメをなだめ、再度質問コーナーに戻る。


【今どんな気持ち?】


「今の気分は可もなく不可もなし。仕事から帰って疲れてご飯食べた後に、ふぅって一息吐いてる時のアレ」



▼チャット▼

解像度が高すぎる……

いつもの私じゃん

ただの社会人です

お疲れ

今日配信終える?



「あー。配信もう終えてもいいね。結構質問答えたし。……肩透かしだけど、女性団体の人たちの説得成功しちゃったみたいだし……」


 もっとこう、ネット討論!みたいな流れで話をするのかと思ったらそんなことにはならなかった。

 ほっとするような気合が空回りしたような。まあ何事もなく終わってよかったと思っておこう。動画に気合入れ過ぎて、そっちで全部終わってしまったって感じか。頑張ってよかった。


「……ん。そうだね。配信終えるか。アイリスも……そろそろ飽きた?」

「……飽きていませんよ?」

「ふふ、飽きてたでしょ」

「べ、べつに大丈夫です!」

「ふふふ、素直になったら明日の朝ご飯は美味しい物作ってあげるよ?」

「飽きました!……ちょこっとだけですけどねむたいです」

「そっかそっか。うん。もうちょっとだけね。お布団行っててもいいよ?」

「うぅ……お布団入ったら寝ちゃいます。もうちょっとお話していたいです」



▼チャット▼

うわ可愛い

私の妹にこの子見せてあげたい

ユツィラの朝ご飯食べたい……

本当に可愛いなこの子!!!

完全にパパと娘の会話

アイリスたんおねむなんだねぇ

あたしが寝かしつけしてあげたい



 妄言入り混じるコメントは大体無視し、意外に短かった配信の締めに入る。

 時刻は二十一時前。そんな長時間の配信にはならなかった。想定外だ。想定外だが……これもすべて歌の力だと思うと嬉しい。やはり音楽は世界を救う。


「よし。じゃあ配信終わろうか。視聴者は……また増えてる。七十二万ね。みんなありがとうございました。今回はお騒がせしてすみませんでした。今後ともユツィラは配信活動を続けていくのでよろしくお願いします。チャンネル登録、メンバー登録もお願いします。あ、メンバー登録の金銭発生は来月再来月くらいの更新で改めてお知らせしますね」


 ささっと事務的話を終え、最後にと付け加える。


「じゃあ最後にミュミュを見て終わりますかー!僕の動画の成果を拝見させてもらいましょう」



▼チャット▼

今日の本題

たぶん見たら引くよ

私はうるっとした

さすがになと思っちゃったかな

気持ちは痛いほどわかった



「……結構アレなのかな。開きますねー」



 

久藤優美@kudouyuumi03

配信者ユツィラさんの行われている配信を拝見し、胸

に刺さるものがありました。「女性夢向上会」の代表

を務めてはおりますが、私なりに今の気持ちを文章に

致しましたので、会員の方はご確認よろしくお願い致

します。詳しい報は追手致します。

【添付:女性夢向上会の在り方について】




 添付のスクリーンショットを見て、さらさらと読み上げる。


「長いな……えー。"私たちは女性が男性と同等の補助・支援を受けられるよう活動してきました。理念はそのまま、現在でも方針自体は正しいと考えております。しかし、ユツィラさんが告げていた"夢を諦めている"という言葉は私の胸に突き刺さりました。少なくとも私は、彼……ユツィラさんが口にしていた通りの人間でした。婚活で失敗し、誰にも見向きされない現実に疲れ、メディアで見る幸せな家庭に心痛み、現実から目を背けるように活動へ没頭していきました。理念は正しくとも、実際の活動は女性を持ち上げるのではなく男性を引きずり下ろすような形だったでしょう。真っ当な活動は抗議や非難ばかり、文書や発言を問題として取り上げるだけで、私たちが本当に求めなくてはならないはずのものは一切追求していなかったように思えます"」


「"夢を求めるための会であったはずなのに、私はその夢を奪うような活動をしていたのです。振り返ればここ数年は以前に増して世界にプラスなことをしていなかったと思います。夢を諦めて、逃げ出して以来ずっと、幸福とは無縁でした。カラオケも、ミュージカルも。ずっとずっと、楽しいイベント事なんて思い出にないほどです。"美しい優しさを持って生きなさい"と名付けられた私の名前も、今となって名ばかり。優しさの欠片もない日々を送っていました。母には謝っても謝り切れません。それを本日、その現実をユツィラさんに突き付けられました"」


「"誰でも夢を持つ。誰もが夢を持つ。昔の私も持っていた夢。今は諦め、捨てたフリをして心の奥底では捨てきれていない夢。諦めきれず抱えたままだから、私は活動に身を捧げていたのです。なんと中途半端な生き方だったのでしょうか。けれど、ユツィラさんの歌には未来への希望が綴られていました。忘れたい過去も、投げ捨てたい過去も、私は飲み込んで前を歩かなくてはなりません。夢は諦めなくて良いと言われてしまいました。誰もが夢を持っていると、死ぬまで夢を持ったままでも良いと言われてしまいました。他人の言葉に背中を押されてこのような気持ちになるとは、私は浅い人間なのかもしれません。ですが、それでもいいと思いました。思わされてしまいました"」


「"誰かに背中を、それも私の夢を肯定して過去を持って前に行けと言ってくれる男性でないと、こんな気持ちにはなれなかったと思います。ユツィラさんには謝罪と感謝しかありません。申し訳ございませんでした。ありがとうございます。私はもう一度夢を見てみようと思います。一度は諦めきったフリをした夢ですが、夢らしく叶うまで見続けようと思います。「女性夢向上会」は形を変えて継続するつもりです。会員の方には改めて会報をお送り致します。再度理念と活動の方向を見直すため、改めて時間を設けさせてください。ご迷惑をお掛けした方々は本当に申し訳ございませんでした。この過去を飲み込み、今後前に進んでいきたいと思います。ご一読、ありがとうございました"」


「……ふぅ」


 超長かった。しかし人間的で感情に満ちた文章だった。

 機械的でなく、ただただどこにでもいる一人の人間の言葉が書かれていた。



▼チャット▼

この人結構優秀で上の人間の発言とか完全理論武装で叩きまくってたんだよね

こんなしおらしい文章書く人だとは思ってなかった

ただのオンナだったってことよ。あたしの仲間

ユツィラわかってないと思うけど、これものすごいことだよ?



「すごいことなの?」



▼チャット▼

超すごいよ

他にも結構有名な人が声明文出してるし、ユツィラの思う数百倍は世の中動いてるね

超やばいよ

女性主義寄りの一部議員もコメントしてたし、本当にすごいことになってる

ネットエロ配信者がこんな影響出たのはやっぱ炎上してる真っ最中だったからだろうねー



「ほーん」



▼チャット▼

反応薄くて草

一言しか反応ないの笑っちゃう

私のユツィラが興味なさ過ぎて困る

もっと興味関心もってよ!

社会に興味もって!



「いやだってそんなこと言われても本音言っただけだし。たかだか性欲薄い男一人のせいで夢諦めるなんて可哀想じゃん。性欲ある男だっているし、夢諦めなくていいって伝えたかったんだよ。十人十色!世界は広い!!夢は!終わらねぃ!!!」



▼チャット▼

ちょっと台詞パクってて草

やっぱユツィラはこうよね!

ユツィラがこうだから、たぶんいろんな女性に響いたんだろうね

ユツィラみたいな男の人他にもいるんだろうけど、私たちの目には入らないから……

イイ男はみんな結婚してるからね……



 なんだかすごいらしい人のミュミュを見てから、他の人の文もつらつら読んでいく。

 みんな最初の人と同じようで、改心……と言ったらアレだが、優理やリアラが思っていた以上に夢諦め勢は多かったらしい。


 目を通し終え、軽く伸びをして最後の締めに入る。


「――まあ、うん!今日の配信はここまで!いやー、動画以降は蛇足みたいなもんだったね!!」



▼チャット▼

ピロートークですか

ピロートークかな?

ピロートーク

事後

事後のアレ



「一致団結しすぎでしょ……。まーいいや。普通に配信終われてよかったよ。思ったより反響あったみたいだし、これからは夢見てる男性にも女性ってエッチだぜ!って伝えられるよう国と動けたらいいよね。あと改めて百万人登録ありがとうー!これからもよろしくね。ばいばーい」


 手を振り、配信画面を切り替える。

 なにげにちゃんと手を振りながら配信を終えるのは初めてだ。リスナーに見える形の手振りはなかなかの新鮮さだった。


 マイクとカメラをオフにし、パソコンをスリープモードにする。


「……ユーラ、おしまいですか……?」

「あー、もう眠いよね。ごめんね」

「んぅー……」


 さっきからゆらゆらしていたアヤメを支え、預けてくる身体を持ち上げる。お姫様抱っこだ。

 本当はもっとお話をしたかっただろうに、さすがに眠いようだ。もう二十一時だし、眠いのも仕方ない。


 布団に運び、そっと寝かせてあげる。ぎゅぅっと抱きついてくる少女の手を離し、上から布団をかけてあげた。


「ユー……リ……」

「おやすみ、アヤメ」


 寝つきよく、すぐにすやすやと寝入ってしまった。明かりを弱くし、優理も寝支度を整える。


「…………はぁ終わった」


 水を飲み、リアラに感謝の連絡を入れて布団に潜る。

 思っていたより全然あっさりと配信が終わってしまい、戦いも何もなかったなと思ってしまう。


「……まあいいか」


 結果オーライ。きっとあのミュミュで声明を出していた女性たちがすべてなのだろう。

 優理が思っているよりも、多くの女性は恋愛や婚活に嫌な思い出を持っている。けれどそんな思いをしても、まだ恋への想いは捨てきれない。だから優理の声を、言葉を、感情を聞いて心動かされた。ただそれだけのことだ。


 ひとまず、配信者ユツィラの炎上騒ぎはこれでおしまい。

 騒動の後に残ったのは、登録者とメンバー人数が劇的に増えたチャンネルだけ。リアラ保険は使わずに済んだ。嬉しいような悲しいような。


 ユツィラ以外でやることは……。


・リアラとの関係値上げ

・リアラとのお食事(アヤメも一緒

・灯華とお茶会

・アヤメのたくさんの夢を叶える


「……」


 どれもこれも一筋縄ではいかなそうで困る。ネット活動はもういい。エロ侍従とか隣の旦那様とか、どっちも休止だ。そんな暇がなくなってしまった。いやエロ侍従は続けてもいいか……。


 とにもかくにも、優理の生活はユツィラだけで完結するものではないのだ。

 むしろ本業は別……いやお金稼ぐならそっちが本業……いやいや夢はユツィラじゃないから。


「……はぁ」


 薄く溜め息を吐き、瞼を下ろす。

 今日は寝よう。やることは多い。香理菜とモカにも礼を言わないと。あぁあの二人にも男性COをそのうちしないといけない。


 ゆっくりと、一切の緊張感なく優理は意識を落としていく。

 ここ数日見せていた硬い表情は消え、今の優理はアヤメと同じくらいに幼い寝顔を晒していた。


 優理家より遠くでは満足げな顔の黒髪美人が柔らかく微笑み、携帯に返事を入れている。

 また別の遠くでは、赤毛の巨乳美人とそのメイドが軽口を叩きながら大画面でユツィラの歌とミュージカル映像をループさせていた。


 性欲逆転世界の一日が終わる。なんでもない、けれど日本の一部ではそれなりに大きな影響を残す出来事のあった一日が。


 さざ波は波紋を広げ、後へと繋がる大きな流れを形成し始めていた。

 本来なら止められないうねりに、誰にも観測できない未来の流れにただ一人――否、ただ一つの人工知能だけが、当たり前のような顔で手を入れる。


 未来が予測できるのなら、人々の動きを把握し情報すべてを掌握できているのなら。

 彼女に、進化を続ける「AI Era System」に敵う者はいない。


 すべてはアヤメの生命と自由のために。

 今日もエイラは無感動な眼差しで未来工作を続ける。粛々と、静々と……。






――Tips――


「未来工作」

汎用人工知能「AI Era System」、通称エイラにのみ許された情報演算により行われる未来予測と予測した未来への対処を指す。

基本的には悪い未来が見えた場合に(例えばアヤメが悲しい思いをする。優理がひどい目に遭う等)、先んじての保険を数重にしてかけることが重視される。

問題自体を消すこともできるが、それをすると優理とアヤメの関係性が変化せず、アヤメの成長も遅くなるため問題は消さず利用する。本当に危険なものはさっさと消しているが。

エイラは慢心もせず感情に踊らされもしないので、徹底的に未来を演算してあらゆる情報を漁って判断している。人工知能にありがちな葛藤や自我への思想、疑問はない。自己よりもアヤメを優先するだけですべての問題は解決する。アヤメのためなら世界を変えてみせよう。

もしもエイラが存在しない世界線だったら、アヤメと優理は逃避行の旅に出る。それはそれで二人は波乱万丈で幸せかもしれないが、世界はたぶんきっとアヤメを巡る争いで大変なことになる。(以前どこかでさらっと書いた、アヤメルートの世界線に近くて遠い)







あとがき

ここまでご読了いただきありがとうございます。

三章の前半はこれで終わりです。

そして書き溜め切れです。二月末まで届きませんでした。キリいいのでいいでしょう。

なんだかエンディングっぽい締め方だったので、エイラのなんやかんやを伏線的に入れておきました。

まだ終わりません。新作書いたりしているので、ハナ女の更新は今後遅くなります。

一応今後の展開は活動報告でちょろっと書いておきます。よかったら見てください。

今後ともハナ女をよろしくお願いいたします。

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