エッチな膝枕とエッチじゃない話とエッチな男女。

「……っ」

「……」

「…………ぁぅ」

「…………」

「……あ、あの……何か言ってくれないと……困ります」


 位置を変え、姿勢を変え、距離を変え。


 気が付いたら優理の頭はむっちりしっとりとした太ももの上に乗せられていた。いったいどういうことだ……?


 頬より伝わる生足・・の感触。

 つい先ほど、リアラから告げられたお願いは"膝枕"だった。するもされるもどっちもやりたいとのこと。アヤメのお願いじゃないが、そんな一挙両得二人ともお得な――いや、皆まで言うまい。


 座卓より身を引き、しっかりと正座したリアラの膝上に頭を乗せる。顔は座卓側だ。リアラの方を見てしまうといくらなんでもエッチ過ぎて大変なことになってしまう。


 最初は恥ずかしさとエッチさでドキドキレベルの高かった優理だが、今は妙に安心していた。頬に当たるむっちり柔らかなすべすべ太ももは最高級の枕にも勝る。何が良いって、体温が良い。あったかくてもちっとしていて、弾力もあって完璧に頭を受け止めてくれている。


「……よき」

「ぁ、え、えと、ゆ、優理君?」

「あぁ。すみません。何か用でしたか?」

「えと……寝心地は、どうでしょうか?」

「完璧ですね……」


 太ももだと思うから恥ずかしくなるのだ。単純に気持ちいい枕だと思えば心も鎮まる。

 リアラの顔は見ない。見たら照れる自信がある。


「そう、ですかぁ。……よかったぁ」

「敬語、戻ってますね」

「ぁ」

「僕はどっちでもいいですよ。リアラさんはどっちがいいですか?」

「私は、その……」


 片耳がしっとり太ももで塞がれているため、声が遠く聞こえる。しかし、触れた肌から筋肉と骨を伝って音が響いてくるような気もする。これが真の骨伝導……。


 頭の悪い思考は捨て、リアラの声に耳を傾ける。


「えと、その……私は敬語じゃない方が、いい、かな。優理君にいっぱい知ってもらうなら……その、ね。……ほ、ほんとうの私を知ってもらった方がいいのかな……って思ったん、だけど……」


 言葉が尻すぼみになっていく。

 声に張りはなく、自信の欠片もない不安混じりな声色だ。どこぞの童貞と同じで親近感が湧く。


「リアラさん」

「はい……」

「本当のリアラさん、いいですね。……けど、凛々しく美麗なリアラさんも嘘じゃないと思いますよ。メッキでも、取り繕ったものでも、ずっと付けたままの仮面でも。それは長年続ければ自分の一部です。僕はカッコいいリアラさんも知っていますから。本物にも偽物にも、どちらにも自信を持ってください。リアラさんは……魅力にあふれた素敵な女性です」

「――――っ」


 ぷるぷると太ももが揺れている。炭酸シャワーでも浴びているみたいで気持ちいい。


「優理君は……もう……もう…………だいすき」

「――……」


 そっとこぼした囁きのような一言だった。

 胸が高鳴る。顔が熱くなる。相手の顔が見えないからこそ、表情を一切読めないからこそ、今浮かべているであろう表情や潤んだ目、自分を一心に見つめている瞳が想像できて心が揺れる。


 下手しなくても、今日の話し合いの中で一番の破壊力があった。素で漏れたであろう、何も考えずこぼした一言であろう故に、それは優理の心の防壁を一つ崩す。


「……」


 やばいか。やばいな。

 リアラに"まだ恋はわからない"とか"夢を叶える"とか言っておいて、このままだと普通に攻略されてしまいそうだ。そもそも優理は童貞なのだ。女性への恋愛免疫なぞあるわけがない。本気の好意を見せられ押されたらころっと落ちる。どこぞのメイドが言っていた通りである。


「リアラさん」

「ひゃぃ」

「なんで生足なんですか?」

「えっ」

「や、さっきまでパンツスーツだったじゃないですか」


 童貞奥義、話題転換の法。

 困惑の声は聞かなかったことにする。


「それは、えっと……最近ね。国家公務員の間でスーツの下に仕込み服を着ることが推奨され始めたの」

「え、仕込み服?」

「うん。すごい薄くて不便はしないんだけどね。……スパッツみたいなものかな。外側に頑丈な圧縮布と圧縮袋が入れられていて、緊急時は取り出して開くと便利なの」

「ほう……」

「だからね。ズボン脱いでも大丈夫なんだ」

「……でも、今脱ぐ意味ありました?」

「えっ。……え、えと。だ、だって、男の子って……ズボン越しより生足の方が嬉しいん、だよ、ね?」

「まあそうですね」

「ほっ。そ、そうだよね」


 露骨にほっとしている。確かにズボンより生足の方がよかった。生足膝枕の方が嬉しい。どう考えても体温の伝わりとか肌の質感はこっちの方がわかる。触り心地が違う。


「じゃあ僕のために脱いでくれたんですね」

「うん。優理君が嫌じゃなくてよかったぁ」

「嫌なわけないですよ。リアラさんの太もも、触り心地完璧です」

「ひやぅっっ!?ゆ、優理君!?!?」

「あ」


 つい勢いで太ももを撫で回してしまっていた。なんということだ。手つきがいやらしいのは優理がむらむらしているから。トホホ、性欲は隠せないよぉ。


 ふざけている場合ではなく。


「いやわざとではないんですよ!これには訳が!!」

「な、ななならまだつ、続けているのはどうしてですかっ」

「そりゃリアラさんがエッチだから……」

「う、ううぅ……ひゃぅん、あぁぅ、ぞくぞくぞわぞわする……」

「指を立ててツーっと引くと」

「みひゃぁ♡」

「くすぐったいらしいですね。動画で見ました」

「や、やめてください……んん♡」

「……」

「優理、君?どうして身体を丸めて…………ぁ♡」


 我思ふ、故に我在り。

 心を無に帰すことが荒ぶる童貞神の意を治めるのに必要なことなのだ。


「あの、えと、優理君、その……優理君、男の子だもんね。大丈夫だよ。私も、その……結構感じちゃったから……気にしないでいいからね」

「そ、そういうことは言わないでください!!余計収まるの時間かかるので!!」

「そ、そうなんだ……♡ふふっ……そっかぁ。私で…………♡」


 何やらとろけた笑い声が聞こえる。しかしそれを気にする余裕は優理になかった。調子に乗って遊んだ童貞が悪い。自業自得である。


 しばらく、五分ほどそのままで静かに。

 温もりに頬を預けていると、色々どうでもよくなってくる。


「正座辛くないんですか?」

「うん。平気だよ」

「そうですか。リアラさんって……」

「うん」

「……どうして僕を?」

「……それは、どうして好き?」

「はい」

「……」


 声が止まる。微かな息遣いが耳に届く。変にじれったくて、つい急かしてしまう。


「どうして、僕なんかを……」

「ん、だめだよ」

「――」


 そ、っと頭に手が置かれる。髪を撫でつけるように、柔らかな手がさわさわと動く。


「私も自分のことあんまり好きじゃないからわかるけど……だめ」

「……リアラさん」

「うん」

「めっ、ってしてみてください」

「ふふ、いいよ。……めっ。優理君、めっ、だからね?」

「……うん」


 これが……お姉ちゃんか。


「全部言っちゃうと秘密じゃなくなっちゃうから……ほんのちょこっとだけね?」

「うん」

「私……ほんとうはずっとなんだ」

「……ずっと?」

「うん。仲良くなったのは最近だけど、優理君のこと見てたのはずっとなの」

「……」

「優理君の言う"関係値"は低いかもしれないけどね。私の"好き"はたぶん、優理君が思っているよりたくさんの時間を積み重ねてできた"好き"なんだよ」

「……」


 それは、優理の知らないリアラだった。

 当たり前のことだが、優理が他の誰か――昔なら母親や同級生、今ならアヤメや友人、リスナー等と過ごしているとして、その間にリアラは別の誰かと過ごしている。別の時間を生きて、別の何かを積み上げている。


 その積み上げた何かの一つが優理への"恋心"だったとしたら、それを窺い知る手段は優理にない。だってそれは、優理の知らないリアラだけの時間だから。


 例えば優理の家に訪れる時、前の日から明日が楽しみで仕方なくて眠りが浅いとか。

 例えば次に会う予定を立てた時、カレンダーに日程を入れて毎日毎日その日が楽しみになってしまったとか。

 例えば優理の家を出て車に乗っている時、交わした言葉や表情を思い出してドキドキしてしまったとか。


 そんなような、優理の知らないところでリアラが抱えて膨らませ続けた想いは、時間の分だけ重みを増す。瞬間瞬間は小さなものでも、恋心を自覚してから振り返って見たそれらはすべてすべて宝物で……全部の時間があったから今の"好き"が存在する。


「……リアラさん、本当に僕のこと好きなんですね」

「うん。大好きだよ」

「リアラさんの大事な想いすら信じ切れないって言う僕なのに、好きなんですか」

「うん。好き。わかってもらえると思うけど、敢えて言わないよ?」

「……はい」

「信じてもらえてなくても、私は優理君のこと好きなんだ。好きになっちゃったんだもん。……ふふっ、これが惚れた弱み、かな」

「……はぁ」

「いひゃぁ!?ゆゆ、優理君っ」


 息を吐いて、太ももに手を置き撫で回す。セクハラがひどい。わかっている。けど今はこうでもしないとやっていられなかった。

 甘やかされて、すべてを許されて、姉のような母のような、聖母のようなリアラに対抗するにはセクハラしかなかった。しかも性欲由来ではない、ただの誤魔化しのセクハラだ。誤魔セクである。まごうことなきダメ男の所業であった。


「リアラさんは、すごいですね」

「わ、わかったからぁ、うぅ、さわるのっもう……っ♡」


 手を離し、顔を伏せる。太ももの間に鼻を埋めると埋まり心地がよかった。むっちりしっとりとした暗闇が心を包んでくれる。


「……僕が疑って迷って夢を見ているのが馬鹿みたいじゃないですか」

「ふぁ、い、息がっ、あったかい息が当たってるよぉ優理君っっ!!」

「我慢してください。感じてるって言っても……どうせこれ以上エッチなことはできないんです。諦めて受け入れてください」

「やぅぅ、優理君が達観しちゃってるっ。くすぐったい……んんっっ♡……ね、ねえ優理君?」

「はい」

「お、お手洗い借りても……いいかなぁ……なんて」

「まだだめです。……濡れました?」

「……き、聞いちゃだめ」

「そうですか。僕もまたアレがアレしているので仲間ですね」

「えぅ、そ、それ、あの、えと……優理君、恥ずかしくないの?」

「恥ずかしいですけど、それ以上に自分の心が恥ずかしくてちょっと投げやりですね」

「んぅ♡」


 体勢をうつ伏せに変えて視界が真っ暗になったから気持ちは楽になった。あと、今の自分が最底辺だと自覚しているので精神的にも楽だ。これより下はない。


「……というか、リアラさんまだ僕の頭撫でたままですか」

「だ、だってぇ……」

「いいですけど……ちょっと強めに僕の頭、太ももに押し付けてません?」

「そそそ、そんなことないよっ!」

「……人はだめですね。心は腐っても、煩悩は無限に湧き出てくるんですから」

「みゃぁん♡」


 リアラのとろけた声は猫っぽいなぁと思う童貞である。


 性欲はあって身体は正直なのに、不思議と心は凪いでいた。

 こんなにも自分を好いてくれる女性がいて、その想いに答えられない自分がいて、はっきりと原因は自分にあるとわかってしまって。


 相手から向けられる恋心を信用できないのは本当だけど……だけど、こうして伝えてくれた言葉の数々は確かに本物に思えてしまった。先ほどリアラが言った、"全部お伝えしたら、優理君は私に本気になってくれるかもしれません"という台詞は確かにその通りだったが、少しリアラの見積もりは甘かったようだ。


 全部伝えられるまでもなく、優理は既にリアラの"好き"を察してしまっていた。

 膝枕一つでも、優しくかけられる声とどこまでも親しみと愛情に満ちた手つきとで撫でられていたら、そりゃ……そりゃもう、否応なしにわかってしまう。


 セクハラも、誤魔セクも、こうして太ももに顔を埋めている現状だって。

 性欲抜きにしたって、雰囲気ぶち壊しでこんなことされたら心のどこかで嫌なことを思うはずだ。リアラは……まあ感じているのはエッチだからいいとして、一切足を動かさず優しく撫でたままでいてくれた。


 太ももに頭を押し付けようとしてくるのは許容範囲内だ。そこまでの自制心は求めていない。


 それなりに好意を持つ女性から献身的な愛情を全身で受けて、何も思わない男はいない。

 あぁ認めよう。これは紛れもなく本物だ。


「リアラさん」

「んん……な、なにかな」

「……」


 何を言えばいいのか。自分に何が言えるのか。

 お前の気持ちは信じられないと言い放って、それを乗り越えて好きだと告げられて。まだ答えはいいよとまで言われて。


 朧げながらも明確に好意を受け止めた今、そのまま"いいよ"!と言ってしまえる自分がいる。

 優理は童貞なので、本気の好意を理解してしまったらちょろかった。灯華や実咲が危惧していた通りの有様だ。


 今のこの気持ちは一過性のものかもしれない。絆され、甘え、流されようとしているだけなのかもしれない。でも流されてもいいかなと思ってしまえること自体が……優理の本音でもあった。


 ただまあ……優理が答えを出せないのも事実で。

 自分自身の夢と現実に決着を付けて、周囲との関係性にも答えを出して。そうしてやっと、本気のリアラに真正面から向き合うことができる。リアラはきっと、そこまでしなくていいよと言うだろう。答えを出すだけで満足してくれるだろう。彼女はそういう人間だ。

 どこまでも優しく、甘く……気の弱い、優理と同じ臆病な人間だ。


 それなら少し時間をかけてでも、この素敵な太ももを持つ女性に心からの答えを渡そう。


「リアラさん」

「う、うんっ」

「さっきは三年とか五年とか言いましたね」

「え?えっと……私が待つ時間、かな」

「はい。でも、それはやめです。遅くとも一年。一年後までには答えを出します」

「……大丈夫?」

「大丈夫です。……きっとここから――」


 ここから一年が、優理にとっての人生の分岐点なのだろう。

 童貞のまま転生して、男女比が狂ったおかしな世界に生まれて、どんな因果かいろんな女性と知り合って、美少女と同棲し始めて。それで、同棲中の少女とは別の女性から告白されて。


 身近な女性に真摯に向き合い、答えを出すことで……優理の人生は始まる。

 これがきっと、性欲の神様が与えてくれたラストチャンス。考えて、考えて、考えて考えて。人間らしく悩み苦しんで、考え抜いた果てに出した答えを渡すのだ。


 選んだ答えでさえもきっといつか後悔するのかもしれないけれど、その後悔を限りなく小さくするために時間をかけて考える。


 リアラの時間を少しもらってしまうことになるが……。それこそ、"惚れた弱み"というやつで諦めてもらおう。少なくともリアラにとっての悪い答えにはならない……はず、たぶん。きっと。


「……ここから?」

「はい。ここから、僕は本気で夢を追ってみますから。見つかるか見つからないか、手に入れるか入れられないか。どんな結果にせよ、なあなあだった夢に本気になってみます」

「……ふふっ、頑張れる?」

「頑張りますよ。リアラさんも……覚悟してくださいね。今一番僕と近しいのはリアラさんなんですから。……たくさん、時間を積み上げましょう」

「私たちの時間をかな」

「はい。僕たちの時間を」


 姿勢を変え、太ももに後頭部を預ける。仰向けになって見た空は見慣れた天井で、けれどその半分くらいに美しいかんばせと流れる黒髪があって。緑茶の瞳に浮かんだ優しさと、赤らんだ頬にはリアラの表情がはっきり映っていて。


 見つめ合う瞬間がこそばゆくも嬉しくて、もうちょっともうちょっとと時間を過ごしてしまう。なんとなくでそっと手を伸ばせば、しなやかな手が優しく受け止めてくれる。繋ぎ合わせた手のひらから伝わる体温はドキドキ以上の安心感を与えてくれた。


 指を折り曲げ、隙間なく手のひらを合わせるとリアラの顔がみるみる赤くなっていく。


「……あ、あの」

「はい」

「……お、お手洗いにっ」

「だめです」

「うぅ……」

「手、繋いでいるの嫌ですか?」

「い、嫌じゃないよっ。けどでもだって……その、結構、ね?ね?その……ね?」

「まあまあ、いいじゃないですか。ちょっと濡れてるくらい僕は気にしません」

「私が気にするよぉっ」


 目を逸らして恥ずかしそうにするリアラと、堂々とエッチな話をする。

 まさか今日こんな風に話が進むと、関係が変わるとは思っていなかったけれど……。


「…………えっ」

「み、見ちゃだめっ」


 寝返りを打ち、状況を忘れて普通に顔をリアラ側に向けてしまった。

 するとどうだ。視界に映る明らかに色の違う布地。脳裏に過る先の会話の数々。"濡れてる""お手洗い行きたい""結構""薄い布"。


「……その、リアラさん。もしかして我慢してました?」

「あぅぅ……ぇ……え、と……が、がまん?」

「……おしっこ」

「ちち、違うよ!それで濡れてるんじゃないよ!!」

「あ、そうでしたか。ならよかった」

「よくないよぉ……うぅ、恥ずかしくて死んじゃいそう……」


 まあつまり、なんだ。


「リアラさん、超濡れやすい人なんですね」

「みやあぁぁ!言わないでっ、言わないでぇ……」


 顔を覆ってしまった。可愛い。こういうのもいいなと思う。思ってしまう。変態が過ぎるか。でももう今さらだ。お互い普通の"好きな物"とか"好きなこと"とかは知らないけれど、しもの部分は知ってしまった気がする。童貞と処女にあるまじき話ではあるが……そういうことがあってもいい。そんな関係もきっとある。エロ漫画の世界にはよくある。


「――――あーーー!!!!」


 そして響く、鈴の声。


「ずるいです!!!ユーリもリアラもずるいですーー!!!!」

「やあアヤメ。おはよう」

「おはようございますっ――じゃないです!お膝枕ずるいですー!!私もリアラにお膝枕されたいです!ユーリのお膝は……硬いので、座りたいです!!」

「あ、あや、アヤメちゃん……その、おはようございます」

「はいっ、おはようございます!……?リアラお顔真っ赤ですね。どうかされたのですか?」

「え、や、いや、えと、その、あの、えとえとえと……」

「リアラさん、エッチなこと考えすぎて疲れちゃったんだって」

「優理君!?!?!?!?」

「そうなのですか。私もたまにありますから同じですね!仲間です!」

「ええええ!?!?」

「そういう時はユーリに慰めてもらうといいですよ!えへへー、ユーリと一緒にするのはとっても気持ちいいです!」

「え、は、え、え、え?え?一緒、に?え、え?え?あ、え…………え?」

「……たぶんリアラさんが想像してるやつじゃないですけど、ボイスチャット的なアレです。お互い顔見せないでする系の」

「え、いや、え、ええ……っと…………え?……それは、でも……え、私も混ぜてもらっても…………?」

「灯華さんみたいなこと言うのやめてください……」

「――――と……灯華、さん?も、もしかして、八乃院灯華、さん?」

「そうですね。八乃院灯華さんですね」

「トウカは優しい人でした!一緒にクレープを食べましたっ、えへへー」

「…………優理君、ちょっと整理する時間をもらっても?あとお手洗い行きたいです」

「……パンツ使います?」

「……はい。優理君の脱ぎたても一緒に――いえすみません。ちょっと頭が」

「――いいですよ」

「え……」

「ちょっと洗面所で脱いでくるので待っててください」

「ちょ、え、え、え?えっと、…………え……………………え?」

「ユーリ!私もお風呂ご一緒したいです!」

「うーん、さすがに全裸はまだなぁ。今度一緒に温水プール行こうか」

「!!!絶対です!行きたいですっ!!!」

「わーわー興奮しすぎ。後でその話するからリビング戻って待ってて?」

「はいっ!」


 立ち上がり、何故か冷凍庫に寄ってから替えの下着を持って浴室に行った優理と、元気よく戻ってきてベッドでエイラとお喋りを始めるアヤメと。


「……………………………………脱ぎたて?」


 現状への理解が追い付かず、頭の中が桃色一色になってしまったリアラと。

 とりあえずいったん、全部忘れてもやもやスッキリしようと立ち上がる。


 優理から受け取ってトイレで致したら、少しは頭の中もマシになるだろう。

 その思考回路自体が既に終わっているわけだが、今のリアラには考える余裕がなかった。ただでさえ太ももで遊ばれて何度も何度も甘めなあれやこれやをしてしまって限界だったのだ。というか限界は何度か超えている。


 すべては煩悩を振り払ってから。

 凪いだ顔つきで優理を待つリアラの心には、どうしようもないほどいろんな意味での高ぶりが宿っていた。





――Tips――


「誤魔化しセクハラ」 

略して誤魔セク。ひどい単語ではあるが、犯罪ではない。優理の造語。

自分のどうしようもない気持ちを誤魔化すために行うことであり、話題転換と同じようなもの。ただし話題転換と異なり、こちらは実際の行動を伴うことが多い。大体エッチなこと。

膝枕では太ももを撫で回すという行為に出たが、混浴中の場合は背中合わせでぴとりと肌を合わせ、添い寝中の場合は耳元で囁き続けることになる。

その時々の関係値で誤魔セクの行動は異なるため、女性諸君は過大な期待を抱かないよう注意するべし。

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