食事的な話と生理的な話。

 お詫びというかプレゼントというか、ご褒美というか。

 優理が友人の家に行っている間、大人しく待っていることへの対価としてアヤメにプレゼントを約束した後。


「えー、今……もう二十時か。ちょっと遅いけど、今日は金曜日なので真面目に夕食を作ります。明日の分も作っちゃいたいからね」

「はいはい!ユーリユーリ!何を作るのですか?」

「今日はねー。鶏肉とキノコの味噌マヨネーズ和えでしょー」

「……ごくり」

「塩茹でキャベツでしょー」

「キャベツ好きです!」

「スープはだし塩があるから、それと解凍したコーン混ぜて、まあコンソメみたいなもんかな」

「お、おいしそうです……!」

「ご飯は炊いてある十六穀米でしょー」

「おいしいやつですねっ」

「ふふふ、アヤメが全部喜んでくれて嬉しいよ。僕も全部好きだからお揃いだね」

「えへへー、お揃いですっ」


 なでりこなでりこ。


 さて、と。

 ひとしきり同居人に癒されたところで、本日のシェフ二人目に目を向ける。アヤメはただの賑やかしだ。シェフではない。一応味見役は兼ねているか。


「リアラさん。メニューは今言った通りなので、順に作っていきましょう」

「ふふ、はいっ」


 美人と美少女に挟まれて料理作りとか、これもう人生の絶頂期か?けどお腹空いた。やっぱり空腹ってだめだ。左右にいる女性が気にならなくなるくらいご飯食べたい。――けどむしろ空腹がいいのか。お腹が減っていれば性欲はなくなる……似たようなこと前にも考えたな。やめよう。


 息を吐き、冷蔵庫から食材を取り出して調理を始める。

 この家はコンロ(IH)が二つしかないので並行して色々はできない。というか一人用のキッチンだから普通に狭い。


「あ。そうでした。リアラリアラ」

「はい、何でしょうか?」

「えと、リアラと優理が一緒にご飯食べに行く時、私も一緒に行っていいですか?」

「ふふふっ、構いませんよ。一緒に外でお食事しましょうか」

「えへへ。はいっ、一緒にお食事しますっ」


 自分の頭越しにそんな会話が飛び交う。

 平和だ……。おっとお湯が沸騰する。


「リアラさん。キャベツは――」

「小さくしてボウルにまとめてあります」

「ありがとうございます」


 アヤメとお喋りしながら手際良く切っていたらしい。よく見ればキッチンの隅っこにまな板が置かれていた。いつの間に。


「優理君。フライパンは温めておきますか?」

「うーん。まだいいです。先にキノコ洗ってもらえますか?」

「お任せください」


 優理は鶏肉を一口サイズにし、簡単に塩胡椒で下味を付けておく。味噌マヨネーズの素を使うので、下味はかなり控えめだ。辛くなっても困る。


「ユーリ。お腹が空きました」

「あはは、はいはい待っててねー。冷蔵庫に何かあったかな……」


 可愛いわがままに笑いながら、手を洗って冷蔵庫を開く。

 買い溜めする派とはいえ、先週の土曜日以降買い物に行っていない。一人暮らし前提で考えていたため、アヤメが来て予定外に食料を消費してしまった。今日明日はともかく、明後日には買い物に行かないと。もしくは明日、アヤメとリアラで買い物に行ってもらってもいいかもしれない。


 ひとまずはお腹ぺこぺこお姫様のため、冷蔵庫からクリームチーズ(レモン味)を取り出す。個包装のため食べるのは簡単だ。


「はいどうぞ」

「これは……?」


 受け取り、目で問いかけてくる。


「クリームチーズだよ。チーズの中じゃ僕は一番好きかなー」


 一番はクリーム、二番はモッツアレラ、三番にカマンベールとチェダーが来る。

 たまに買ってしまう個包装クリームチーズ。美味なり。家にはあったがまだアヤメには食べさせたことがなかった。


「リアラさん好きなチーズとかありますか?」

「えっと……私はその……とろけたチーズが好きです」


 普通のですみません、と若干頬を赤らめながら言う。

 何も言わないけど、恥ずかしそうにする女性の姿っていいよね。何も言わないけど。


「全然普通でいいですよ。僕もとろけたチーズたまに使うので。いろんなチーズありますし、アヤメにもチーズ食べ比べしてもらってもいいかもしれないですね」


 言い切った後に、意外とチーズ苦手だったりするかな?と心配になる。

 チーズだけでなく、食べたことないだけで生魚とか牛乳とか、だめなものがあったりするかもしれない。


 振り返り、包装を解いて四角形のチーズを口に運ぶ少女を見つめる。


「あむ……んー、ふふふー、おいしいです!」

「おお……よかった」


 大丈夫だったようだ。にっこり満開の笑顔が咲く。可愛い子じゃ。孫を持つ老人の気持ちはこんなか。孫どころか子供も持ったことないけど。


「エイラ。アヤメってアレルギーとかないよね?」

『肯定。アヤメ様は食物の吸収性能が一般人類より高くあります。ある程度の毒素までなら自動生成される酵素で中和されます』

「思った以上に力強い回答をありがとう」

『肯定。どういたしまして、優理様』


 一応の確認を込めて聞いてみたが問題はなかった。問題ないどころか毒への抵抗すら持っていた。可愛い顔してすごい子だ。


「ユーリ?私のお顔に何かありますか?」

「ううん。綺麗な髪と可愛い目と鼻と口が付いてるよ」

「え、えへへ。褒めても嬉しいだけですよっ」

「それは何より。お腹はどう?」

「お腹空いています」

「そうだよね……」


 クリームチーズ一つで紛れるほど人の空腹は甘くない。

 もうちょっと待っててと言おうと思ったが。


 ――きゅるる


「っ」

「……」

「リアラ、お腹が鳴りましたね」

「あぁアヤメ、僕が言わなかったことを……」

「~~っ」

「え、だ、だめだったのですか?」

「いや?言っていいよ。全然言っていいよ。リアラさんも気にしてないから、たぶん」

「もう、どっちなのですか!リアラ……リアラ?お顔が赤いですけど大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫です!はい大丈夫です!アヤメさん、大丈夫なので気にしないでください。優理君、そろそろ鶏肉とキノコを火にかけましょう!!」

「わかりました」

「了解です。油はサラダ油使いますねー」


 顔を真っ赤にするリアラは見なかったことにした。

 優理とてお腹は空いているのだ。込み入った話を終えて気が抜けて、空腹に気づいてからずっとお腹は空いたまま。優理とアヤメがそうであるように、リアラだってそこは変わらない。たまたまお腹が鳴ってしまっただけの話である。

 しかし。


「……リアラさんのお腹の音、よかったなぁ」


 これは単純に音というだけでなく、その後の羞恥も含めての"イイ"である。他意しかない。


「っうぅ!!優理君っ!!!!」

「すみませんすみません!本音なんですすみません!!」

「うぅぅ、もっと悪いですよ!!」


 耳まで赤くして声を荒げるリアラと、新しい性癖開拓をしそうな優理と、初見のキノコに興味津々なアヤメと。

 狭いキッチンでの賑やかなお料理はまだまだ続く。



 十月の十三日、金曜日夜。二十時半過ぎ。

 

 食卓――と言うには少し狭い座卓の上に、今日の夕食が載せられていた。

 薄い塩茹でキャベツを敷いた大皿の上にキノコチキン(味噌マヨネーズ味)を載せている。ご飯と簡単だし塩コーンスープは別皿で置いているが、三人分となるとそれだけで机はいっぱいだった。


 そう、三人分である。


「「「いただきます」」」


 口を揃え食前の挨拶をし、三人で箸を手に取る。

 できれば料理は個々ワンプレートに載せて分けたかったが、この家にそんな皿を置けるスペースはない。見た限りアヤメもリアラも気にしていないので大丈夫なのだろう。


 キノコを口に運び、うま、と内心呟きながら思う優理である。

 しかし、同席している二人の心の声はと言うと。


『おいしい!すっごくおいしいです!やっぱりユーリのご飯はおいしいです!!』

『同じ釜の飯を食う……それすなわち、実質的な同棲とも言える。さらに言えば、同じお皿の上の物を食べる=間接キス。そもそも優理君と一緒に作った時点でもう愛の結晶みたいなところあるし……けど、まだ早いような気も。あぁでも美味しい。間接キスは……顔熱くなってきちゃった。落ち着きなさい、リアラ。スープ飲んで――あつっ!』


 このようなものであった。

 アヤメは表も裏も変わらず、何なら。


「ユーリ!このお肉おいしいです!とってもおいしいですよ!」

「よかったー。キノコも食べてみてね」


 思ったことをしっかり口にして伝える少女の笑みにシェフもニコニコである。

 そして割と現状を気にして舌を火傷してしまったリアラは。


「あつ……」

「リアラさん大丈夫ですか?氷舐めます?」

「い、いえ。平気です。ありがとうございます」


 ぺろっと舌を出していたところを男に見られて恥ずかしがっていた。

 赤い舌が扇情的で思わず目を逸らしてしまった優理だ。


 ぱくぱく食べ進めるアヤメによく噛んでお食べと伝え、味噌マヨネーズソースを口端に付けていたので拭ってあげる。

 気分はお姫様の世話をする執事だ。


 しかし、常識が刷り込まれたにしてはやはり仕草、行動が幼いなと感じてしまう。


「……うま」


 熱めのスープにほっと息を吐き、知識と経験について思考を巡らせる。

 例えば、食事と言う行為の意義や箸の使い方が刷り込まれていたとして、そこに空腹時でも急がず食べた方が良いとか、ソース系は気づかないうちに跳ねているとか、箸は慣れていてもこぼす時はこぼすとか。そういう、経験知的にふんわり学ぶ知恵みたいなものまでは刷り込まれていないんじゃなかろうか。


 自分が何十回何百回何千回とご飯を食べていく中で、なんとなくわかる代物でしかない。まだ幼い子供が、その辺の知恵を持っていないのは経験が足りないからなのだと思う。アヤメもまた、然り。


 アヤメは頭が完全に大人なので、学んだことは一瞬で取り込んですぐ実践に移してしまうだろう。

 こうして、口を拭ってあげたりご飯のお代わりをよそってあげたりと、甲斐甲斐しく世話を焼けるのも短い間だけなのかもしれない。そう思うと、少しばかり寂しくも感じてしまう。


「んー、ユーリ、どうして撫でるのですか?」

「なんとなく。アヤメが喜んでくれて嬉しいなって」

「……えへへ。ご飯おいしいですよ。ユーリも食べましょう」

「うん。食べるね」


 ちまちまと曖昧な寂寥を感じながら食事を続ける。

 他愛ない会話を熟し、今だけの一瞬を噛み締める。……まるで優理がこの後何か危険な目にでも遭いそうな雰囲気だが、別にそんなことはない。一切ない。すべて童貞の勝手な感傷である。


 傘宮優理、一人哀愁に浸る癖のある男だ。


 三人での夕食会は小一時間ほどで終わり、片付けも皆でやればすぐに終わった。

 さっさと歯磨きを済ませ、エイラから磨き残しのダメ出しを受ける。アヤメもリアラも優理も、三人揃って人工知能から指摘を受けていた。意外にも――というと失礼だが、一番歯磨きが丁寧なのはアヤメだった。


 明日が休みとはいえ、夜更かしはよくない。まだ話すことも残っているのでやることは先に終わらせることにした。


 今日の優理家は宿泊者が三人いる。

 優理と、アヤメと、リアラだ。


 明日、リアラにはアヤメのお守りをしてもらうということで、なら泊まった方が早いねと寝泊まりしてもらうことになった。


 リアラの新居は未だ決まっていないそうで、彼女自身はかなり身軽な状況だった。家が燃えて持ち物はないですよ、と言う自虐にはどう返せばいいのかわからず、愛想笑いで済ませた優理だ。


 急遽宿泊することになったため、服や布団の用意も必要だった。

 衣服は由梨のもので代用し、布団はお客様用布団を引っ張り出す。


 リアラのお泊まりも二度目なので、前回よりかなりスムーズに事は運んだ。


 こういうこともあろうかと、お客様用布団を二組用意しておいてよかった。やはり過去の優理は優秀だ。香理菜モカが来ることを考えての二組なので、これ以上はない。

 そのうちアヤメ用のアレコレは買わないといけないか。


「エイラ。アヤメのために買い足すものって何があるかな」


 現状、リビングルームには優理しかいない。座卓とクッションは隅にどけられ、エイラの携帯端末はパソコンデスクに置かれている。

 椅子に座った優理以外の女性陣二名は入浴中だ。狭い家だから、アヤメの大きな声がよく通る。


『回答。掛け布団を除いた寝具一式、冬に備えた部屋着の追加購入、洗髪道具一式、多種化粧品、さらには消耗品が必要です』

「そっか……寝具は必須。部屋着は由梨用でほとんど買ってないから必要だね。シャンプーリンスと化粧品は後回しでもいいかな。ひとまずは僕のと共通でも問題ないでしょ。消耗品は……色々あるなぁ」


 ティッシュ、トイレットペーパー、洗剤、食料品色々。

 アヤメはまだ一切お化粧していないからいいが、今後を考えたら化粧道具も色々揃えないといけない……アヤメのパーフェクトフェイスに化粧は要らないか。そこは当人に改めて聞いてみよう。


『提案。優理様。優理様は男性ですが、アヤメ様は女性なので生理用品が必要となります』

「あー……」


 忘れていた。そうだった。そういうのもあったか。


 この世界、男性数の減少、女性数の増加に伴って生理用品分野も大きく伸展している。

 単純に学校の性教育で懇切丁寧な生理についての説明が度々あるし、男女問わず実際の生理用品を配られもする。男が体験する機会のないものをちゃんと知っておこう、という意味でしっかりとした生理教育があるのだ。


 国の方針のおかげで、今となってはあらゆる男が生理のエキスパートだ。

 配慮も行き届くし、何なら男の方が生理用品メーカーに詳しかったりする。「あぁ、最新のサニタリー《ref》サニタリーショーツ=生理用ショーツの/refね。ほんの数日前に肌感良い新作発売されてたなぁ。最近のはどれも吸水性高いからさー、割とナプキン無しが主流だったりするよな」と話す男はいない。


 いないが、テレビでもネットでも当たり前に情報が手に入るので、生理に関する情報は男女平等と言えた。


 しかし、優理の前世と違ってこの世界における女性の生理はちょっと状況が違う。


「……聞いていいかわかんないけど、エイラ。アヤメの生理ってどうなの?」


 さすがに少し気まずげだが、これは聞いておきたい。

 世の女性は時代の変化と共に背も伸びて骨格も丈夫になり筋密度も上がった。さらには強靭な肉体、高い体温維持が生理負荷の軽減を行い、全体的に前世よりも、所謂いわゆる"重い"と言う人は格段に減った。


 やはり強い肉体はすべてを解決する。健全かつ強靭な肉体こそが至言である。

 まあ生理で出血したり体調不良にもなるから、やっぱり生理用品や生理休暇は大事だ。


『回答。アヤメ様の月経周期は三十日前後と平均的です。しかし出血はしません。不要な内膜は体内に吸収され、濾過、排泄されます』

「え、それ……えっと、大丈夫なの?」

『回答。問題ありません。アヤメ様の生体設計は次世代の人類を想定したものでもあります。現代の人間がより適切なものを目指した結果、今のアヤメ様がいます』

「……」


 何かすごい大事な話が挟まっていたような……。まあいいか。

 優理の知識だと、女性は生理によって出血し貧血になり体調不良になるとあった。また、ホルモンバランスが崩れて体温が下がって血行が悪くなり体調不良が加速するともあった。


 簡単に羅列してみて思ったが、女性って大変だ。

 けど優理も性欲と戦っているから……。あ、この世界は女性も性欲と戦っているんだった。完敗です。男は無力だ……。


『報告。アヤメ様の排卵は近日中に行われます。子作りを行う場合、明後日もしくは明々後日がお勧めです』

「うわあああ!!!何言っているのさ!?!?」


 この人工知能、なんてことを言ってくれるんだ。

 世の無常さを嘆いていたら、急に爆弾が投げ込まれてきた。既に爆発済みだ。


「ユーリーー?どうかしましたかー!!」

「な、なんでもないから大丈夫ーー!!気にせずお風呂入っててーー!!」

「はーーーい!!」


 お風呂場とのやり取りを冷や汗混じりに熟す。

 割と大声を出してしまった。この家が防音でよかった。


『疑問。優理様の最終目的は子作りだとエイラは推測していました。間違いがありましたか?』

「ぐ……」


 なんてAIだ……。

 確かに優理の最終目的はそれだった。イチャラブの果てには子作りがある。愛した人がいればこそ、その相手と子を作りたくもなるだろう。加えて、この世界で子作りしない男の価値は果てしなく暴落する。たぶん普通に国にも許してもらえない。それくらい、少子化で男の減った世界は男に厳しい。普段男に甘い分、後が厳しい。


 精子バンクの精子より、性交渉で生まれる子供の方が数%だけど男性率高いんだってさ。その統計間違ってるんじゃないかい。計算したの誰?各国と多種民間機関?そっか。間違ってないか……不思議だね。ほんとどうなってんだよこの世界。


「確かに間違いでは……ない」

『理解。それならば、優理様にアヤメ様の情報をお伝えするのに間違いはありません』

「……ソウダネ」


 溜め息を水で流し込んで頷く。

 忘れよう。心の幼いアヤメと子作りなんて…………。


「……心頭滅却すれば火もまた涼し」


 大事なのは過程だ。シチュエーションだ。愛は積み重ねた時間に宿る。

 だから急な子作りでああだこうだ考えるのは間違っている。エッチなのはよろしくない。


「……とりあえず、アヤメの生理用品は専用のショーツとナプキンでいいんだよね?他のも買った方がいい?」

『回答。ナプキン不要なサニタリーショーツを中心に、備えとしてナプキンと専用のポーチを購入すると良いかと。タンポンは基本的な出血のないアヤメ様には不要です。他カップ等も不要です』

「なる、ほど……わかったよ。ありがとう、エイラ」

『肯定。どういたしまして、優理様』


 一息つく。

 女装しているとはいえ、自分が男だからこういった生理的な話は知識以上にわからない部分も多かった。最悪リアラに尋ねてもよかったが、それはそれでリアラに申し訳なくなる。買い物を頼むにしたって、リアラの良心につけ込んでいるようで心が痛む。当たり前に頷いてくれるだろうからこそ、逆に頼みにくいのだ。


 急に心臓に悪い発言もするが、エイラがいてくれてよかった。


 なんだかドッと疲れてしまった。

 今日はまだ話すことが残っているというのに……あー、お風呂入りたい。シャワーばかりで、アヤメもお風呂(湯舟は)入ったことないと言うから入れたのだ。リアラも来たし、そういう日があってもいいかと思った。


 一人暮らしだが、二人は余裕で入れるくらいに浴槽は広い優理の家だ。

 ぼんやりと、ゆったりとした音楽を流しながら天井を眺める。疲労感が心地良い。


「――――ユーリ!!!」

「あー、はいは――――いぃぃ!!?!」

「ユーリ!!」

「ちょ、まっ、アヤメなん、服は!?!?」

「バスタオル忘れちゃいました!!」

「待て待て待て待って!?!!」

「ゆ、優理君っ、あの……タオルをいただけたら……」

「わあああああ!!!?!?」


 小さな手拭きタオルで最低限を拭い、脱衣所から駆けてくる全裸のアヤメ。

 真っ白な肌に揺れる乳房と桃色と、銀糸の髪が濡れて艶めき、恥じらいの薄い元気な笑顔が逆にエロかった。


 そして、脱衣所の扉に隠れて顔だけ覗かせこちらを見るリアラの姿もある。

 濡れ羽色の髪が流れ、露出した肩にかかってやたらとエッチ度が高い。全然隠し切れていないせいで腰から尻にかけての曲線美が見えている。あと太ももも。


 急な出来事に頭がおかしくなったのかと思い瞬きするが、目の前のアヤメは消えてなくならない。身体を隠そうとしないし、バスタオルを!とぐいっと身を寄せてくる。

 揺れ……ゆれ……。


「…………」

「はれ。ユーリ?お鼻から血が出ています――はっ!こ、これはユーリが私に興奮しすぎてしまった証拠ですか!!?エイラ!どうなのでしょうか!?」

『肯定。優理様の急激な体温、血圧、心拍数の増加を確認。一度優理様が落ち着かれるのを待つことを推奨。アヤメ様、バスタオルは下着入れの最下段に入っています』

「あ、そうなんですね。わかりました!ありがとうございます、エイラ」

『肯定。どういたしまして、アヤメ様』


 エイラに抗議の声をあげることさえできず、優理は銀髪美少女の尻を目で追う。

 なんだ、この世界……神か。おお性欲の神よ、ありがとう。我が人生に一片の悔い――大有りだけど、ちょっと興奮しすぎた。頭冷やそう。アヤメの全裸とリアラの半裸がリフレインする。


「――ユーリ」

「はい?」


 パンツのポジショニングを調整し、冷蔵庫に向かおうと立ち上がったところで声がかかる。お風呂場に戻ったはずのアヤメの声だ。

 視線を向けると、脱衣所の入口から顔を覗かせたアヤメがいた。


「えへへ、ユーリ、えっちですっ」

「――――」


 言うだけ言って、アヤメは引っ込んでしまった。

 顔は薄く朱に染まり、確実にお風呂の熱ではない羞恥が表情に現れていた。何より、照れと恥じらいの強い鈴色の声音は普段と違って……大人びた少女性を秘めていた。端的にめちゃくちゃエロかった。


「……神様、これはちょっとやりすぎですって」


 いくらなんでも破壊力が高すぎて、しばらくアヤメの顔を見られなさそうな優理だった。






――Tips――


「同居生活」

ここでの同居生活は"好みの異性"と枕詞が付く。

傘宮優理の前世ではありえなかった生活であり、性欲逆転世界の多くの男女が心のどこかで求めている生活でもある。男女、である。男もまた恋はしたいので創作でよくある同居生活には憧れている。

基本的に楽しく嬉しくハプニングはありつつも、日々驚きに満ちた生活を送ることになる。恋愛経験がなければないほどその驚きようは高まり、優理がアヤメとリアラの裸体にいろんな意味で衝撃を受けたように、逆もまた同じことが言える。

男の無防備な姿や緩い仕草、時折見える赤裸々私生活が女性の興奮を物凄く煽っていることなど、優理含め誰も気づいていない。罪なオトコたちである。






あとがき

フォロー感想☆等ありがとうございます。

まだの方は☆☆☆たくさん入れていただけるととても喜びます。よろしくお願いします。

また、知りたいTips情報があればコメントしていただけるとそのうち載せるかもしれません。


今年の更新はここまでです。お読みいただきありがとうございました。

来年もハナ女をよろしくお願いいたします。

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