お泊まりとお留守番。
不意打ちで同居人の全裸姿を見てしまった童貞、傘宮優理。
寝支度を終え、さあ睡眠前のお話をしようとなったところである。
余談であるが、女性陣の後に続いて入った風呂は別に何もなかった。匂いは由梨のウィッグ用に使う甘めなシャンプーで満たされており、湯船に入る際も優理は無我の境地にいた。というか、その前の美少女の全裸と美人の半裸のせいでお風呂程度で動揺できなくなっていた。
戻って、リビング&ベッドルームである。
例のごとく二つの部屋を遮る引き戸は開けられたままだ。
奥から順に優理(ベッド)、アヤメ(敷き布団)、リアラ(敷き布団)と並ぶ。
アヤメとリアラは布団をくっつけてお泊まり会さながらな雰囲気を醸し出しているので、今さらながらにベッド勢であることを悔いている童貞だ。
明日女子友とお泊まり会を開くことはすっかり頭から抜け落ちている。
ベッドに寝転がり、枕に頬を預けながら口を開く。視線の先には布団の上に正座するリアラと仰向けで布団にくるまるアヤメがいる。
「えー……もう眠いけどお話はまだ終わっていません。二十二時は……うん。めっちゃ眠い」
「……優理君、もう寝た方がいいかもしれませんよ」
「眠いですけど、明日十一時集合なのでざっくりとでも話すこと話しておかないと…………えっと。何話すんでしたっけ」
眠気で頭が回らない。十一時なら明日でも良いような気もする。
横になっているのが悪いかもしれない。ベッドルームの電気を消しているのも悪いかもしれない。眠い。
「……ん……おや……す……」
ぼんやりしていたら、寝言のような弱々しい声が聞こえてきた。声の主を見ると、完全に目を閉じてすやすやしている銀の少女の姿がある。
健康優良児のアヤメはもうおねむだった。エイラがレム睡眠中の表示を出してくれる。おねむというか、既に睡眠中のようだった。
「……アヤメちゃんは寝ちゃいましたね」
「そうですね…………ちゃん?」
「ふふ、一緒にお風呂に入った時、敬語は不要と言われてしまいまして。……ですが私のこれは癖みたいなものなので難しく、ひとまずちゃん付けで許してもらいました」
「……あはは、アヤメらしいですね」
「はい。とても可愛い良い子です」
そっと、手を伸ばしたリアラがアヤメの頭を撫でる。
慈愛の眼差し。自分にも向けてほしいという気持ちと、自分もアヤメを見ている時はあんな目をしているのかという気持ちと。劣情も合わせて複雑な心境の優理だ。
「……優理君。女性は皆、飢えたライオンです」
「……はぁ。ええ、知っています」
「明日、男性だとバレないように策を凝らす必要があります」
「……あぁ、そんな話でしたね」
頭から飛んでいた。
だめだ。眠すぎる。
「優理君、詳しい話は明日の朝するとして、寝る前に一つだけ。明日はエイラの子機を持っていってください」
「……子機?」
「エイラはあらゆる情報端末にインストールできます。インストールというより、ただネットワーク上のエイラにアクセス権を付与するだけですが」
「えと……それをするとどうなります?」
「エイラによる監視が成り立ちます。プライバシーを守ったうえで、危険な時は自動で私たちに連絡が飛びます」
「……うん。いいと思います。じゃあ明日エイラにお願いしてみます」
「はい。それと……」
「……?リアラさん?」
「いえ……なんでもありません。寝ましょうか」
逆光で見えにくかったが、リアラの顔に悩ましさのようなものが浮かんでいた……気がした。半分ほど目を閉じていたので、本当かどうかわからない。
「……おやすみなさい、リアラさん」
「はい。おやすみなさい、優理君」
電気が消え、部屋は暗くなる。
豆電球も残さない、完全な暗闇だ。目を閉じるとすぐに睡魔が襲ってくる。意識が落ちる直前に優理が思ったのは、先程リアラが何を言いかけたのかだった……。
モカハウスお泊まり会当日。土曜日。十時四十五分ちょうど。百原大学正門内、南館前。
自宅より歩いて十分。午前中のほとんどをリアラとの男バレ回避作戦会議に費やし、いくつかの策を授かってやってきた女装男だ。
今日の優理――由梨はバッチリメイクを決め、アイシャドウも普段と違うものにした。チークの色に近い、薄っすら朱色のナチュラル風カワイイ系メイクだ。ナチュラル風なだけでナチュラルではないので、メイクは結構濃い。ファンデーションも重ね塗りし、リキッドも併用して隙は無くした。チークの自然さがポイントである。
ゆるふわな髪はほぼ地毛と変わらないようセットされており、強く引っ張っても外れることはない。これを外すにはコツが要るのだ。ちなみに由梨用のウィッグはオーダーメイドで作られているためこの世に二つとない。
手提げの鞄には着替え一式と携帯、宿泊用の歯磨きセットに加えてスキンケア用品他と、男一人旅では考えられないほどの物が詰められていた。
ミニキャリーバッグにするか迷ったが、今日持ってきた薄水色のThe可愛い!な鞄は普段使いしない代物なので、こういう時にしか出番がない。割とこれを持ってくるのが楽しみだったりもする。ちなみに色違いで薄桃色の鞄も持っている。いつか使ってあげたい。
大学の門をくぐり、南館に到着するとちょうど十時四十五分だった。予定通り。モカに言われた時刻の十五分前には着けた。まあ家から近いし時間管理もないようなものだが。
「――おや、由梨おっはー」
「んん?香理菜ちゃんじゃないですかー。うふふー、おっはー」
「……え、なにそのキャラ。緊張してるの?」
「別にしてないよ?んーでも、モカちゃんのご家族に会うのは……うん。ちょこっと緊張するかも」
「あー、ね……うんうん。わかる。それわたしも」
由梨よりも早く来ていたのはふわくるっと髪が跳ねたショートボブなボーイッシュ女学生、
いつも通り眠そうな目をしている。話し方もゆるゆるしているのでこちらまでゆるっとしてくる。
「……」
「?なにさ?」
「……ううん。なんだか香理菜ちゃんと会うのも久しぶりな気がして」
すべては昨日の夜が悪い。雪色の肌より滴る雫と上気した頬に揺れて揺れる薄桃色――――。
「――――あぶない。香理菜ちゃん危なかったよ」
「え?由梨大丈夫?頭へいき?」
フラッシュバックした光景に意識が持っていかれそうになったが、気力を振り絞ってどうにか現世へ帰還した。頭をぺちぺちしてくる香理菜に文句を言うことさえできない疲労感だった。お泊まり会開始前に、優理はもう満身創痍だった。少々由梨モードが解除されてしまっている。
「……ふー。うん平気平気!由梨ちゃんちょー元気☆あははー、やっぱり急に人の裸とか思い出すと大変だねー!」
「えー……由梨?犯罪とか手出してないよね?」
「ちょっ、それはひどくないかな!?私、そんな悪い子じゃないよ!」
「まあそうだねー。悪いことしたら即バレて即捕まってそう」
「うえー、やな信頼感っ」
「ふふふ、友情と言ってもいいよ」
「嫌な友情だね……」
嬉しくない信頼に元気がなくなる由梨だ。一方、香理菜はへらへらと楽しそうに笑っている。
「けど由梨、裸って誰の?」
「親戚の子」
これに関してはリアラと相談もしていない。ユツィラライブでも使った言い訳である。
結局、これからも同居していくのは変わらないのだからどこかで必ずボロが出る。それなら先にそれっぽいことを考えて周囲に伝えておいた方が無難だ。実際のところ親戚と言うのもあながち間違いではない。何せ人間、祖先を辿ればほとんど同じところに位置するのだから……。人類皆きょうだ――やめておこう。あまり嬉しくない想像が掻き立てられる。
「え、それ今日お泊まり大丈夫だったの?」
「うん。子供って言ってももう高校生だもん」
三歳は言えない。十九歳は肉体年齢であって、見た目ではない。アヤメは童顔で背も低めなので、外見年齢は十五、六くらいに捉えられる……とエイラが教えてくれた。
それなら高校生にでも設定しておけば、万が一鉢合わせしてもどうにかなるかと思った。遠い国の遠い親戚なら、色々日本のモノコトを知らなくても話が通る。我ながら頭が冴えている。
うんうんとしたり顔で頷く由梨に、微妙な眼差しが向けられる。
「……なんだか由梨の方が面倒見られてそう」
「むむ、心外だよ!私、もう二十歳だよ!」
「えー、そうなんだー。ふーん。お酒飲めるんだー」
「うん!えへへー、立派な淑女なんだよー。お酒も飲めるの。……ん、あれ。香理菜ちゃんは飲めるよね?」
「んー?うん。飲めるよ。わたしは由梨よりかは飲むかな。週二くらい」
「多すぎるよ……えと、モカちゃんってまだだめだよね?」
「うん、そだね。まだだめ」
どうせなら大人女子らしく、ちょこっとくらい三人でお酒飲んでもいいかなぁと思っていただけにちょっぴり悲しい。まあだめならだめで他にもやりたいことはある。そっちを優先しよう。……しかし、モカちゃんはまだ十九歳か。
「……モカちゃん、十九には見えないね」
「だね。本物のお姉ちゃんやってるからかもしれないけど、ちゃんとお姉ちゃんっぽいし。わたしより全然年上っぽい」
ととと、と香理菜の隣に立つ。大きな建物の隙間だからか冷えた風がよく吹いている。風除けだ。香理菜はちらりと由梨を見ただけで、何も言わず視線を前に戻した。
「香理菜ちゃん、早かったね」
「ん、まあねー。……友達の家に遊びに行くの、なにげにわたし初めてなんだよね」
「ふーん……」
そういうこともあるかと頷く。
かく言う優理も、友達の家になぞ行ったことない。女装なんてしていたらそりゃ行けるわけがない。高校生、中学生の頃もそんな機会はなかった。男同士、結局はただ女社会に対抗するため群れていただけでしかなかったのだろう……同級生の男子は、一緒に遊んでいたりしたのだろうか。今となっては確かめようがない。
「……」
「?」
隣から視線を感じた。横を見るとちらちら向けられていたダークブラウンの目と目が合う。
「なあに?」
「や……普通に流すな―と思って」
「……?」
いったい何のことだ。本当にわからなくて戸惑う。香理菜が何故そんな気恥ずかしさ混じりの曖昧な顔しているのかわからない。
「……えっ、と……由梨、もしかして友達の家とか行ったことない?」
「うん。ないけど……普通ないよね?」
尋ねると、小さく溜め息を吐いて見返してくる。失礼な。
「いや普通あるから。わたしたち二十歳だし、それくらいあるでしょ。わたしが言うのもアレだけど……由梨、交流関係狭すぎない?」
「うぐ……」
胸にダイレクトアタックを受けた。心が痛い。
やっとさっき香理菜の言った意味がわかった。表情の理由もわかった。普通、この年齢なら友達の家の一つや二つ行っているらしい。残念!由梨ちゃん普通じゃありません☆
交流関係は実際かなり狭いので、何も言い返せない。
「まー大学でもわたしかモカちゃんといっつも一緒だもんねぇ。色々相談受けてるのは知ってるけど、他にお出かけする友達いるの?」
「いないよ。香理菜ちゃんと一緒で!」
「く……悔しいけど何も言えない。……はぁ。演劇サークルの皆は友達じゃないからねぇ」
「そうなの?そういえばあんまりサークルのお話しないね?楽しくないの?」
「や、楽しいけど。けど……なんていうの?あくまで演劇するために集まってる関係、みたいな」
当人もはっきりとしていないのだろう。あんまりわかっていない顔をしている。ただこちらにはそれでなんとなく言いたいことが伝わったのでいい。
要はアレだ。筋トレ淑女と同じ。
この世界、性欲を誤魔化すために筋トレや運動をかなり本格的にやっている人が多い。それは前世と比じゃないレベルで多く、本来イーブンなはずの男女肉体強弱を女優位に変えている一因だったりもする。
やはり筋肉は強い。当たり前だが。
「演劇好きな人集まってるんだねー」
「好きっていうか……マジな人が集まってるんだよ」
「そっかー。香理菜ちゃんもそっちの人だったんだね……」
「急に心の距離取るじゃん……いやいや、わたしは別に普通の人だよ。演劇楽しいけど、そこまでのめり込めないし」
「そうなんだ」
「うん。ほどほどよほどほど。何事もほどほどだよねー」
ゆるゆると言う香理菜だが、由梨は知っていた。
この友達が言葉の数十倍は真面目に演劇サークルで演技をしていることを。家の仕事と学業以外、多くの時間を演劇に費やしていると由梨は知っている。なぜなら前にこっそり見に行ったから。
飄々としている香理菜には何も言わず、ひっそり微笑むに済ませておく。後方腕組親友面である。実際親友なので間違ってもいない。
そうして、うだうだゆるだるーっと会話をしながら待つこと十分ほど。学校の門前にはせかせかと走る蜂蜜色のブロンド美人がいた。噂の十九歳女学生、モカちゃんである。
「うわ、二人とももういる!早く――はないか。ごめん待ったでしょ?」
走ってきて、息を乱していたのも一瞬。すぐにデート相手っぽい台詞を言ってきたモカに、由梨と香理菜は顔を見合わせて答える。
「「ううん、今来たところ」」
声を揃える二人に、モカはキョトンとして破顔する。
「くふふ、あんたたち、ふふっ。朝――じゃないや。ふふ、最初から元気ね、ほんと。じゃ行こっか。友達二人を我が家に招待してあげましょう!」
「はーい。はー招待されちゃったかー。招待なのに送迎はないんだね」
「ご招待ありがとー!無料だよね!もちろん食費宿泊費移動費ぜーんぶ無料だよね!」
「送迎はないわよ。あるわけないでしょ、普通の家よ普通の家。食費宿泊費は……確かに無料か。お金払いたいなら払ってもいいわよ。妹のお菓子代になるから」
「うぐぐ……普通にちょこっと妹ちゃんにお菓子あげたいかも」
「わかる。妹とかいう名前な時点で可愛い。わたしも妹ほしかったなー」
「はいはい。妹は名前じゃないから。あと会ってもあげないからね」
二人でのんびりだらだらと話しているのも良いが、三人で賑々しく話しているのも良い。
やはり、友達はいいな。例えそれが仮面の上であったとしても、瞬間瞬間に交わした言葉、得られた感情は本物だ。つまり女装して女の子と接していて場合によってはセクハラ紛いなことになってもいいってこと。だめかな。だめか。
和気あいあいと歩き、電車に乗り、ゆらゆらと揺られしばらく。
「……え、思ったよりモカちゃんの家遠くない?」
「……私が言わないでいたことをさらっと言う、さすが香理菜ちゃん☆」
「それ褒めてる?」
「褒めてないよ」
「……はぁ」
「……もうちょっとだから二人とも我慢して」
「「はーい」」
「……なんであたしが保護者みたいになってるのよ、おかしいでしょ」
電車内だから皆小声で、特にモカはこしょこしょとぼやくように呟いていた。
内心由梨も香理菜も最後の一言には同意していたが、何も言わない。いつものことだ。
途中降りて着いたと思ったら別の電車に乗り換え、一駅二駅三駅と進む。
モカ家の最寄り駅に着いた時点で大学から三十分以上は経過していた。前世の長い通勤時間を思い出し、一人勝手にしみじみと感慨に浸る女装童貞である。
改札を出て、由梨と香理菜の二人でやんややんや騒ぎながらモカの先導に従う。
「というか、由梨の鞄大きくない?」
「逆に香理菜ちゃんこそ鞄小さいよね?」
並んで歩いていたら横から問われ、ぴっと香理菜の背負った鞄を指差し答える。大学で何度も見たことのある、香理菜愛用のリュックサックだ。サイズは普通。教科書とかプリントとか、場合によってはノートパソコンも入れられる程度の普通サイズだ。断じてお泊まりに持っていくものじゃない。
「やー、こんなもんでしょ。友達の家だし。……あ、菓子折りとか必要だったのかな」
「いるわけないでしょ。あんたらからもらったら変な感じするし、持ってこられても困るわよ」
「だそうだよー!よかったね、香理菜ちゃん」
「へいへーい。よかったー」
もう少しでモカの家に着く。
女学生三人(うち一人女装男)のお泊まり会はまだ始まってすらいない。
一方その頃。
優理の家ではお留守番となったアヤメとお守りのリアラが話をしていた。
銀髪美少女は家主のベッドでごろごろし、黒髪美人は座椅子ならぬクッションに正座していた。優理と離れてしょんぼり気味なアヤメと、最近恋愛欲が強く性欲が落ち着いたようで全然落ち着いていないリアラだ。今も好きな男の家に居るという状況にちょっとした興奮を覚えている。さらに、自由に好きな男のベッドでごろごろする美少女を羨ましくも思っている。
もしもここにリアラ一人だったら、すぐにでもベッドに飛び込んで匂いを嗅ぐ――ことはできない。恥ずかしいし。考えただけでも照れて頬が熱くなる。とことん乙女レベルが高まってしまっている処女である。
「リアラ―。暇ですー」
「暇と言われても……優理君と普段一緒にいる時は何をしているんですか?」
「えー」
ぱたぱたと足を動かしながら、身体を反転させ仰向けになって考える。
普段、何をしていたか。
「普段も何も、私がユーリと一緒に過ごし始めたのはえっと……五日前なので、何もしていません」
「えっ、そ、そうだったんですね。……それではアヤメちゃん、短い間にユーリ君とずいぶん仲良くなったんですね」
戦慄と嫉妬と羨望と安堵と、複雑な乙女心だ。
「えへへー。ユーリ、私の身体が好きらしいですー」
「からだ!?!?」
「エイラー。ユーリ、私のこと大好きなんですよねっ」
『肯定。優理様はアヤメ様の見目、精神性、所作、肉体を好んでいます』
「えへへへ」
「……」
見た目はまあいい。銀髪で雪妖精のような外見はリアラから見ても幻想的で本当に可愛らしい。
精神性もまあいい。幼げで、庇護欲を掻き立てられる。アヤメを見ていると時々守ってあげなくちゃ!と使命感に駆られる。
所作も、まあいい。精神性に近く、幼い心故の拙いアレコレが支えて助けて教えてあげたくなる。
しかし、肉体ってなんだ。肉体って。
「……」
自分の胸を触り、アヤメを見て。
胸は同じくらい。尻もたぶん同じ。細身なのも同じ。身長はちょっと……いやそれなりに高いか。身長、身長かぁ……。
「リアラー」
「はい」
即座に意識を切り替えられるのは国家公務員の標準技能である。
「暇です」
「そうですね……」
顎に手を当て考えてみる。
アヤメとやること、やることか……色々あるな。
「じゃあアヤメちゃん。五感誤認アクセサリーの初期設定をしましょうか」
「!ユーリとリアラからのプレゼントですね!えへへー、やりますっ!」
ぴょんっとベッドで跳ね、きらっきらな目をリアラに向ける。
微笑み、こういうところが可愛いのよ、といつかそのうち似たような可愛さを身につけようと決意する。
そうして、宣言通りにアクセサリーのセットアップを進め無事アヤメ専用アクセが生まれた。脈拍、指紋、声紋と認証が行われ、さらにはエイラによるハッキングでちょっとした改造も施された。
セッティングが終わり、さあそろそろ昼食の用意でもしようかとリアラが動き始めたところで。
「リアラリアラ」
「はい、何でしょうか?」
アヤメより呼び声がかかる。既に何度も呼ばれているが、相変わらず下の名前を呼ばれるのはくすぐったい。
「これはなんですか?」
「それはゲーム機ですね」
「ゲーム!」
再び藍色の目がきらきらに染まる。期待しか含まない瞳が眩しい。
「……やりますか?」
「やります!」
「ふふ、わかりました。それなら操作方法をお伝えしましょう」
「えへへー、リアラありがとうございます!」
「ええ、ふふ、どういたしまして。アヤメちゃん」
アヤメが手に取ったのは手持ちの携帯ゲーム機で、モニターに接続することもできる代物だ。
リアラによる操作説明が行われ、優理の知らないところで一本のゲームソフトが起動される。一切エロ要素を含まない、優理も大ファンのシリーズものの最新作だ。
「それじゃあ始めますね。――レジェンド・オブ・ルゼル」
世界と魔法を巡る、伝説の幕開けである。
――Tips――
「友達」
男女の友情は存在しない、と言われている。
なぜなら高確率で女の性欲に底はなく、どれだけ清廉潔白を気取っても欲は人間の本能であるから。
性欲に負けない強固な理性を保持していたとしても、無自覚な男の誘惑に女の性欲は勝てないのだ。それ故、男女間の友情は存在しないと言われている。
断言されないのは、そもそもの"男女間の友情"そのものの例が少なく、「友情の前に男と出会うきっかけないわよ!」と嘆く女性から多いからである。
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