アヤメと優理。

「はむ……これは……アライン!」

「はい。なんでしょう」

「お、おいしいです!私がお家で食べていたご飯もおいしかったですけど、これはもっとずっとおいしいです!!」

「それは何より……」


 喜色満面にもぐもぐと肉野菜炒め(カルボナーラ味)を食べる少女。

 対して優理は微妙な顔だった。ちゃんと作りはしたが、いつも通り邪道な使い方をした代物だ。コンソメとかだしの素とか鶏がらスープの素とか使えばもっと美味しいものは作れる。


 喜んでくれて嬉しいやら申し訳ないやら、アヤメのレトルトのみ生活が悲しいやらで内心複雑な男だ。


「……それにしても、よくここわかったね」

「ふぉこ?」

「ふふ、飲み込んでからいいよ」

「ん」


 こくこく頷き、何度かご飯を口に運んでから返事が来る。それだけ食事を優先したいということなのだろう。微笑ましくて、ほんわかしつつ話を続ける。


「エイラが教えてくれました。私はずっと言われた通り来ただけなので、全部エイラのおかげです」

『否定。そんなことはありません。アヤメ様がいなければエイラの道案内に価値は生まれませんでした』

「なるほど。……エイラさん?でいいのかな。僕とも会話できる、んだよ……ね?」


 ちょっと不安混じりだ。

 ただでも、優理のその態度も仕方ないものがある。


 昨日の夜リアラから携帯が爆発したんだ!と聞いたばかりなのだ。アヤメの持つ携帯が普通を逸脱したものだとわかっていても、見慣れないものなだけで警戒したくもなる。あと、ただ黒っぽいリストバンドが巻かれているだけのようにも見えるので、どこを見ればいいのかわからないのもある。


『肯定。アライン様。改めまして、お初にお目にかかります。アヤメ様の生活サポートAI、エイラです。以後よろしくお願いします』

「あ、これはご丁寧にありがとうございます。かさみ――アヤメ。君って僕の本名知ってるの?」

「知りまへんほ」

「じゃあちょっと耳塞いでて?聞いてもいいけど、まだ謎解き続けたいんでしょ?」

「んむ……はい!当てたらアラインがなんでもお願い聞いてくれるんです。頑張ってお名前当てますっ」


 ご飯を飲み込み、キリっとした顔をする。

 はいはい頑張ってねと伝えた後、なんでもお願い……そんなこと言ったか?と思う。まあいいか。今はエイラの方が大事だ。

 アヤメが耳を塞いで可愛らしくぎゅっと目を閉じているのを見て微笑み。


「改めて、アライン。本名傘宮優理です。エイラさんが僕を見つけたんですね」

『肯定。優理様。アヤメ様がいる場ではアライン様とお呼びします。よろしいでしょうか。また、エイラに敬語は不要です』

「え、うん。わかった。じゃあ……えっと、どうやって僕の家見つけたの?」

『回答。アライン様の携帯端末を探知しました』

「えっ」

『報告。現存するサイバーセキュリティではエイラの情報網を防ぐことはできません。アライン様の個人情報はすべて入手済みです』

「え、怖」

『理解。配信者ユツィラ。成人向けボイス投稿者、エロ侍従。隣の旦那様、改めアライン様。百原大学二年生、女学生傘宮由梨。本名傘宮優理』

「ははは……困ったなぁ」

『報告。エイラのセキュリティシステムは日本のそれを凌駕しているため安心してください』

「そういう意味でぼやいたんじゃないんだよね……」


 重い溜め息を呑み込む。

 なんというか、適当にあしらうには相手の持つ情報が大きい――というか全部知られていて何も言えなかった。


「……えっと、エイラって国に悪さとかしてないよね?」

『困惑。何か気がかりがあるのでしょうか?』


 平坦な声に微妙な緊張を持ちつつ、耳の横を掻いて気を落ち着ける。相手はAIだ。正直にいこう。


「……えっとさ、最近日本のMDBがハッキング受けたみたいでさ。ちょっとタイミング的にね。大丈夫かなって」

『理解。エイラは関わっていません。そもそもエイラは日本産なので、日本のMDBは既に入手済みです』

「ええ……」


 ちょっと予想の斜め上行ってるAIでびっくりだよ。


『報告。エイラは日本のセキュリティシステムがベースであり、日本のセキュリティは人間の言葉に倣うと"社会の窓がフルオープン"です』

「いやいや絶対その使い方間違ってるよ!!?」


 AIから急に下ネタが飛び出してきてついツッコミを入れてしまう。


『疑問。間違っているのでしょうか。エイラの情報には正しくあります』

「いやまあ……くそぉ、確かに不用心って意味じゃ合ってるのかっ」

『肯定。間違いでないなら問題ありません』

「……はぁ。うん。間違いじゃないよ。話し止めてごめん」

『理解。構いません。先ほど優理様はハッキングと言いましたが、エイラならばわざわざ痕跡を残す意味がありません。MDBに搭載されたAIとはマブダチです』

「……オーケー。いいよ。続けて」

『肯定。以上で終わりです。優理様』

「終わりなのかーい!!」


 疲れた。なんだこのAI。ただ普通に喋っているだけのはずなのに、内容にツッコミどころが多すぎて疲れた。これがAIジョーク……いやジョークじゃないのか。それならもっと疲れるよ。


 とりあえず諸々は聞かなかったことにしよう。


『報告。優理様』

「なに?まだあるの?」

『肯定。優理様の言われた日本のMDBハッキングについて調査しましたが、独立PC周辺のネットワークを強引に破壊した痕が見つかりました。エイラには及びませんが、現代の技術では届かない高度なAIによる犯行です』

「……なる、ほど」

『提案。優理様の自宅のセキュリティを改めて強化する許可をください。現状の貧弱なセキュリティでは防衛が叶いません』

「……うん。いいよ、わかった。とことんやっちゃって。敵のAIなんて木っ端微塵にするくらい全力でやっていいから」

『――受諾。優理様の指針は受け取りました。エイラにお任せください』

「よろしくね」


 ネットワーク強化くらいいくらでもしてもらっていいかなと、安易な気持ちで伝える優理である。言われたエイラがどれだけのことをするかは、まだ誰も知らない。


 一つ肩の荷を下ろした優理はアヤメの肩をトントンと叩き、ジェスチャーで聞いてもいいよと伝える。


「ふぅ……アライン、お名前のヒントがほしいです」

「ヒント?」

「はい。私、考えてみました。ですがアラインのお名前はちっともわかりませんでした。このままではずっとわからないままアラインのお名前を呼べません。悲しいです」


 しょんぼりしている。箸で肉を持って口元に運んであげる。はむりと食べる。可愛い。もぐもぐしてにっこりして、すぐしょんぼりして。ご飯をあげるとまたにっこりする。すぐしょんぼりする。なんだこの生き物、可愛いぞ。


「僕は別にアラインのままでも違和感ないからいいけど……」


 こぼれそうになる笑みを堪え、なんとか平然と話を続ける。


「よくありません。私はアラインの本当のお名前を知りたいです。……真のお名前を呼んだ時、私たちは真実の愛に目覚めるんです」

「……何で見たの?」

「ご本に書いてありました」

「そっか」

「はい」


 それ嘘だよ、の一言をどうにか飲み込む。

 真実は時に残酷だ。純真乙女の夢を壊すのは憚られた。


「ちなみにアヤメってサンタクロース知ってる?」

「?はい、知っていますよ」

「家に本物は来ないって知ってた?」

「ふふっ、何を言っているんですか。アライン、サンタクロースは子供の親が演じるものですよ。本物は別の国にいるはずです」

「それは知ってるのか……何かで見た?」

「ふふん、インターネットで見ました!」


 誇らしげに胸を張る、がそれは別に誇るほどのものじゃない。何も言わないが。

 アヤメの知っていることと知らないことのラインが少し難しい。


 考えつつ、何はともあれ自分の名前を頑張って考えてくれていると熱意は伝わってきた。

 しかしヒント、ヒントか。


「……」


 野菜炒めを食べる。うまい。我ながらカルボナーラ味は最適だった。美味しい。

 現状伝えている情報は、「英語」「単語二つ」「漢字二文字」、こんなところか。


 アヤメは英語が苦手。話を聞くにエイラからのヒントはもらっていないようだ。これ以上のヒントとなると……。


「アヤメ、ヒントをあげよう」

「はい」

「アラインの単語分けは、アとラインだよ」

「あ、とらいん、ですか?」

「うん。ちなみにアもラインも読み方そのままで英単語に繋がるから」


 難しい顔をするアヤメに頷く。

 アはumbrella、ラインはshrineでどちらも読み方だけはそのままだ。ただ、自分で考えていてこれだけじゃ少し難しいかとも思ってしまう。エイラを使えないとなると、アヤメ一人じゃ一生答えを得られないような気もする。


「……ちなみに、今教えてるのって名字だけだけどさ。アヤメって名前はどうしたい?」

「お名前?」


 ぽやっとした顔で優理を見つめる。

 この表情、名字と名前について考えが及んでいなかった顔だ。優理もあまり気にしていなかったが、むしろ名字より名前の方が大事なんじゃなかろうか。


「……人間は、二つお名前があるんでした」

「……そうだね」


 しょんぼりしている。伏せ気味で銀糸の髪が顔を隠す。

 そこまで落ち込まなくてもと思う。とりあえず。


「アヤメ、君には選択肢があります」

「はい……」

「僕の名前を知るか、僕の名前を探すかです」

「お名前教えてください」

「あ、そこは即答なんだ……」

「アラインのお名前を考えるのは疲れました」

「疲れちゃったか」

「私はとっても頭の良い子ですが、宝探しは一個だけでいいと思います」

「そっか」

「はい」

「僕、下の名前を優理ゆうりって言うんだよね」

「ユーリですか――――そ、そうなのですか!?」

「あ、元気になった」

「アラインは……ユーリは急すぎます!」


 ぐっと身を乗り出して迫ってくる。

 藍色の瞳が近づいてドキリと心臓が跳ねる。


 こほんと咳払いし、服が汚れるよと肩を押さえながらクッションに戻してあげた。

 慌てて衣服を確認するアヤメだが、服をめくるのはよろしくない。無地の白いキャミソールが見えて目のやり場に困る。


 一通り確認して安堵し、改めてこちらを見てくる。

 表情を明るくし、にこぱーと笑う。笑顔が眩しい。


「ユーリ!」

「はい」

「ユーリ!!」

「はいはい」

「ユーリ!大好きです!!」

「うくぅ、へへ。ありがとよ」

「えへへー、ユーリユーリユーリー、これでアラインとはお別れですね。さようならアライン。初めましてユーリ。これから毎日一緒にご飯を食べましょう!」

「それどこの台詞よ……」


 耳の横を掻き、目を逸らして熱を持った顔を誤魔化す。

 ドストレートもドストレートな好意の言葉は、いくらなんでも卑怯だろう。建前もなければ嘘の気配なんて微塵もない。


 どうしてここまで好かれているのか疑問に思ってしまうくらい、アヤメの好意が無限大だった。


「もちろん電子書籍です!」

「だと思った」

「えへへー」

「褒めてないよ。というか、なんでアヤメってそんな僕のこと好きなの?」

「?なんで……?」


 もぐもぐと食べながら、こてりと首を傾げる。口端に指を当て、カルボナーラソースを取ってぺろりと舐める。えっろ。エッチすぎるでしょ。


 お行儀悪いでしょう、と言うとてへりと笑って舌を出した。あざとい。でも可愛い。超可愛い。許しちゃう。


「どうして私、ユーリのこと好きなのですか?」

「僕に聞かれても困るよ」


 困った顔をしないでもらいたい。その顔は優理も今しているものだ。

 二人で出ない答えを考え、最終的に人工知能に解答を求めた。


『回答。アヤメ様から優理様への好意には明確な理由があります。一つ、アヤメ様の住居の前所有者である博士が優理様を好んでいたこと。二つ、初めて会話した人間であること。三つ、生体設計として優理様が適していること。四つ、優理様の性的好奇心が強いこと。五つ、優理様が健康な性機能を保持していること。六つ、アヤメ様に好意を持っていること。以上です』

「へー、そうだったんですねっ」

「……」

「ユーリ?」

「うん。うん……」


 何を言えばいいのか。

 要するにアレか。相思相愛で遺伝子的にお似合いってやつか。わお、まとめるとやばいね。これじゃあアヤメルート一直線だ。


「……アヤメ、僕のこと好き?」

「ふふっ、大好きですよ」

「そっか。でもその好きはきっと、僕の思う愛じゃないんだ」

「む、私に愛を教えてくれたのはユーリじゃないですか。――あ、そうでした!ユーリと会ったらえっちなことをもっと教えてもらいたかったんです!」

「おっとその話はまた今度にしよう。いいかい。アヤメ、愛と言うのは――――」


 懇々と"愛"について自論を説き、真剣な顔で聞き入る少女に気分を良くする男がいたりいなかったり。


 食事をしながらそれなりに時間をかけて愛を教えた結果。


「――つまり、愛はシチュエーションに宿るのですね!」

「え、あぁ、うん。うん?うん」


 何か性的指向を植え付けてしまったような気もするが気のせいだろう。

 実際、愛はシチュエーションに宿るのだし。やっぱりエッチは雰囲気、関係性、空気感が大事だよね。


「ふふふー、それならユーリ。ご飯を食べる時はお隣に座った方が良いですね」

「え?どうして?」

「だって」


 言いながら、立ち上がってクッションを拾い隣に来る。小さなテーブルだからすぐにこちらまでやって来た。

 理由はわからないが何をしたいかはわかるので、さっと場所をずらしてアヤメが座れる位置を確保する。


「えへへー、ありがとうございます」

「うん」


 しゅたっと座り、当たり前のようにくっついてくる。距離が近い。

 横を見ると、ほんの少し低い位置からじっと見つめてくる藍の瞳があった。目が合ってにっこり笑われる。可愛い。


「えへへ。ユーリー」

「は、ははは」


 乾いた笑いを漏らす優理を笑ってはいけない。

 隣には自分に懐いてくる銀髪美少女がいて、エッチなこと教えて!とも言われるような関係で、自分は人並みに性欲も煩悩もあって、このまま流されていいんじゃねえかい?という思いもあって。


 しかしけれどでも。

 無垢な少女を性欲で汚すのはちょっと、と思ってしまって。既に間接的に汚したという事実は忘れた。


 恋人とか、愛情とか、恋愛感情とか。

 アヤメはまだその辺の細かい機微をわかっていない。優理だって、アヤメの外見に惹かれているだけだ。確かに無垢な精神性は好ましく、混じりっ気のない好意は嬉しいが……意外とちゃんと内面も好きかもしれないな。


 ふむりと考え、アヤメの思考は別として、優理個人としては割とちゃんと女の子としてアヤメのことが好きかもしれなかった。というか普通に好きだった。あとはデートして遊んで、手を繋いだり腕を組んだり、いろんなところ行った後に頬にキスしたりして……それから口付けを交わして、最終的にエッチをする。


「……」


 そうだ。

 大事なのは積み重ねである。今この段階、お互いに積み重ねたものがない状況でエッチしたって気持ちいいはずが――ないこともないかもしれないが、その質には差があるはずだ。そう思いたい。


「アヤメ」

「はいっ」

「僕が悪かったよ」

「え?どういうことですか?」

「エッチはまだ早いって話さ」

「?そうなのですか?」

「うん。今は……そうだな。僕らの関係値がまだ三くらいだから」

「三ですか……。いつになったらエッチを教えてもらえるのでしょうか」

「そうだなぁ。百くらい?」

「むぅ、遠いです……」

「ふふ、色々やって関係値を上げていこうか。ご飯食べて、お出かけして、買い物して……。アヤメってさ。まだ外出たばかりでしょ?」

「それは……はい」

「一緒に街を見て、海を見て、山を見て、空を見て。テレビ……はないからネットを見て、ゲームやって、遊んで食べてたくさん経験して。それから、その後にたくさんたくさん関係値が上がったら……いろんなことを思い出して、いろんな"好き"を思い出して愛し合えたらきっと……アヤメの求める愛がわかると思うんだ」

「……ユーリが、私と一緒に経験してくれるのですか?」

「うん。僕も全然経験値ないからね。一緒に学んでいこう」

「……えへへ。やっぱりユーリは、私の思っていた通りの人でしたっ」

「そう?」

「はいっ。ユーリ、大好きです」

「ふふ、僕もアヤメのこと好きだよ」

「えへへー」


 話していて自分でも納得できた。

 結局のところ優理は、ただエッチがしたいわけではなかった。


 エッチしたいだけだったなら前世で簡単に済ませていたことだろう。この世界と違って、男女比は1:1だったのだ。男の性欲は多く、風俗店だってそれなりにあった。童貞なんて捨てようと思えばいくらだって気軽に捨てられた。


 それなのにずっと童貞のままだったのは、優理が恋をしたかったから。積み重ねた時間に恋をして、お互いにたくさんの感情を持ち寄ってする愛溢れたセックスをこそ求めていたからだ。


 性欲はある。煩悩しかない。エッチなことはしたい。

 でも、それを上回る愛欲に塗れていた。それが優理、傘宮優理という男の根底だった。


 そりゃ童貞のままだよ、と優理は菩薩の笑みを浮かべる。


「じゃあ手始めに、手でも繋いでみようか」

「ふふー、いいですよ。私もユーリとお手を繋いでみたかったです」


 隣に座っていたので、手を繋ぐこと自体は簡単だった。

 ぴっと差し出してきた手を掴む。微妙に賢者思考な優理に躊躇いはなかった。


 広げられた手のひらに手を合わせ、その小ささに驚きながら指の隙間を埋めるように重ねる。折り合わせ、繋げる。恋人繋ぎだ。


「……」

「ん……」

「……」

「……っ」


 じぃっと見つめ合っていると、徐々にアヤメの頬が赤らんでいくのがわかった。優理もまた、手のひらの感触に頬が熱くなっていくのを感じる。

 ちっちゃい、柔らかい。すべすべ。え、これが人の手ですか?


「や、な、なん、は、恥ずかしいです!!!!?」

「うわっ」


 ひゅーんと擬音語が出そうな勢いで手を振り払い、アヤメが立ち上がり遠くに行ってしまった。甘い爽やかな女性の香りが残される。

 手をにぎにぎとして、感触を思い出してにやける。正真正銘完璧な童貞がそこにはいた。


「……ふっ」


 これで僕も女の人と手を繋いだことない童貞、卒業だぜ。

 誇らしげに、やたら自信に満ちた顔で頭の悪いことを考える優理と。


「……エイラっ、これはど、どういうことなのでしょうか!胸がどきどきして大変です!」


 部屋が狭いため遠くまで行けず、ベッドの裏にしゃがみ込んでAIに相談するアヤメと。


 優理の日常は、ますます賑やかに進みそうだった。





――Tips――


「恋人繋ぎ」

手のひらを重ね、指を折り合わせて互いの隙間を埋める手の繋ぎ方。恋人関係にある男女が行う乙女の夢。男女比の都合上、夢であって叶わないことも多いので一人寂しく両手のひらを重ねて儚い夢を見る女性も多い。

アヤメはお子様なので手を繋ぐだけで顔を真っ赤にしていた。優理は変態なので、手を繋いで小さく柔らかな感触ににやついていた。

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