第5話 ダイト男爵家
イッコとホリは事件を追ってとある屋敷を訪問していた。
その屋敷は中流貴族の邸宅だったが、先代の当主が急死したことによって長男が跡を継いだ。その長男は非常に優秀で、前当主よりも良い政治を行ったので民からは慕われていたが、身内からは疎まれていた。
そして兄である現当主は跡目を継ぐと、すぐさま自身のために闇の商売を始めたという噂だった。
「ハルキの奴、俺たちを使いやがって」
「まあそう言わないで。今の段階ではイレイサーは貴族屋敷には潜入できないでしょうからね」
「わかってる。しかし、この前は古物商をあたったと思ったら今度は闇商人かよ」
「あらあら、ホリさんにしては随分とやる気があるのね。何か気になることでもあるの?」
「別に。ただハルキに言われたからじゃねえ」
イッコは苦笑した。
「はいはい。それでは早速中に入りましょう」
二人は屋敷の中に入るとメイドに当主に取り次いでもらえるよう頼んだ。
すぐにメイドは確認に行き戻ってきて二人を案内した。そして案内された部屋に入ると男が一人座っていた。
「これはこれは。ようこそおいでくださいました」
その男は微笑んでそういった。ホリはその男をじっと見つめた。ホリはその男がただ者ではないと感じたからだ。
「初めまして、国家情報保安局、イッコと申します。こちらはホリと申します」
「ご丁寧に。私はダイトといいます」
ダイト男爵は銀髪に端正な顔つきをしていた。ホリはその顔にどこか見覚えがあるような気がしたが、それがどこだったか思い出すことができなかった。
「本日はどうしてもお伺いしたいことがあり、参上いたしました」
するとダイトは目を細めて言った。
「あの魔石の件でございますね」
ホリが驚く。
それはつまり、この男は例の魔石の真相を知っているということだ。一瞬緊張が走るがダイト男爵は何食わぬ顔で続ける。
「実は先日、当家から魔石のブローチが盗まれましてね」
ダイト男爵は続ける。
「あの魔石は当家に伝わる宝物でして、ちょうど三年前に盗まれたのですよ」
「さ、三年前ですか?」
イッコが驚いて尋ねる。
「はい。その頃、私はまだこの屋敷の当主ではございませんでしたから詳しいことはわからないのですが、その時の盗人の話はよく覚えているのですよ」
「そ、それはどの様な?」
ダイトは顔色を変えた。そして小声で二人に言った。
「実はね、ある犯罪組織が盗んだと噂されていたのです」
ダイトはそう言って立ち上がると窓から外を見る。そして二人に向き直ると真剣な表情で言うのだった。
「よろしければ一緒に来ていただけませんか?」
二人はダイト男爵とともに街外れの森に向かった。
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