第3話 局の二人

 二人の目の前には一人の男が横たわっている。

 憲兵隊によりすでに現場検証が終わっているため男の死体は仰向けにされ布をかけられていた。


「またね」

 眼鏡越しに鋭い視線を放つ女が後ろに控えるスキンヘッドの大男に話しかける。


「そうなのか?」

 大男はぼそりとつぶやくと目の前にある死体をのぞき込み、死体に再び布をかけ、憲兵隊に死体を運ぶよう目くばせする。


「三人目か」

「ええ。ここまでくると明らかに我々、国家情報保安局に対する挑戦でしょうね」

「ああ」

「ふう。きっと今頃イレイサーのところでも何か起こってるわね」

 死体が担架に乗せられ運ばれていく様子を見ながら女が言う。


「で?」

 大男の短い言葉に女は目を細める。


「あれは今までに見たことのない術式ね。もしかすると聖石が関係してるかも知れません」

「ちっ。厄介な事だ」


 国家情報保安局のエージェント、イッコとホリはこの世界、ニニラカン大陸の聖石を追っている。

 現在、国家情報保安局で確認されている聖石は作家ミヤモトミヤの持つルスコの『角金の聖石』、ニッタの体に埋め込まれた『青炎の聖石』、カタデリー教団側の持つ、神官のミイラの副葬品だった『紫の聖石』、ペイドルの『聖石』(色は不明)の四つ。


「イレイサー側には?」

「特に。必要なら向こうから会いに来るでしょう。我々は先程の術式の解析を」

 規制線から出た二人に近づいて来たのはハルキだった。


「よーう! 何? 殺し? いつも大変だねえ。んで? なんかわかったの?」

「ね。言った通り。やって来ましたね、イレイサー」

「なんだよ、来るのがわかってたんなら話は早え。んで?」


「んで? ではありません。なんのことでしょう?」

「わかってんだろ? お前らどこまで情報つかんでんだ?」

「なぜあなたに教えなければならないのです?」

「わりいがあんまり時間がねえんだ。ウチのバカプロデューサーが殺人容疑で引っ張られちまっててよ」


「なんですって?!」

「こっちの掴んでる情報はちゃんと伝える。そっちの情報も聞かせてくれねえか?」

 ハルキのいつにない真剣な眼差しを受けイッコはため息をつく。


「ふぅ。わかりました。実は先程の遺体で国家情報保安局関係者が三名殺害されています。そして遺体にはこれまで見たことのない術式の痕跡が」

「ちっ。んで、うちも狙われてるってことか」

「おそらく。そしてこれは」

「カタデリー教、聖石か。なるほどな」

「そちらの情報は?」

「ああ。うちのバカプロデューサーが鍋パの前に女を見てる。その女はキラキラした金属を持ってた。その後気づいたら目の前に男の遺体が転がってたんだとよ」

「女?」

「ああ。たぶんそいつが持ってた金属ってのが術式を有効化するアイテムだろうな。今ニッタに追わせてる」

「もう当てがあるのですか?」

「ああ。あの日の鍋パな、ツノダさんは用事があって遅くなるって言ってたんだよ、あのおっさんが鍋パに遅れてくるってよっぽどな事情だろ? そん時にな、妙な物を持ってたんだってよ、最近噂のあのお貴族様のよ」

「え? それって?」


 そうだよ、と言ってハルキはまた街の中に消えていった。

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