蝗害(こうがい)

遠藤

第1話

田舎で健やかに育った若者が

希望を抱いて都会に出ていく


やがて、若者は集団行動を強いられ

会社のルールに従い

都会のルールに従い

満員電車に圧し潰され、心を失った


何が善か悪か見失い

ただただ私欲に溺れていく


営業と詐欺の境界が消えた時

若者は姿を変えていた


都会で姿を変えるトノサマバッタ

田舎の頃の青臭さが無くなり

集団に揉まれて悪魔のような顔つきになっていた

全てを喰い尽くし集団で飛んでいく

生き残るためと

生活のためと

仕方がなかったと

沢山の屍(しかばね)の上を歩く骸(むくろ)になっていた



集団に飲まれ

争うことを強いられ

誰かの創られた夢を追い

見て見ぬ振りを覚えた


まるで他に選択肢がないように洗脳していく

考える力を失わすために過度なストレスを与え

生かさず殺さずのはした金で飼いならされる人生


自分らしく生きることを許さない

自分だけが幸せになるのも許さない

太陽も、雨も、月も、星も、風も

何も感じないコンクリートの世界で悪魔は育つ

カゴに閉じ込められた大量のトノサマバッタが姿を変えていく

外見も変わり、心も失っていく

やがて集団で全てを喰い尽くす




こんなはずじゃなかった・・・


気づくものも出てくる

こんなことをするために都会(ここ)に来たわけではない、と

抜け出すのは容易ではない

悩み、苦しみ、不安、時に怒り、そして、涙が絶望を運んでくる

無理だろう、と

我慢する以外にない、と

ギリギリまで戦い魂は削られていく


心の奥から湧き上がるものがある

たった一度きりの命

こんなクソ野郎な世界で生きていていいのか?

自分の人生を歩め

自分らしく生きろ

自分を信じろ

そして自分を愛せ


自分から沸き起こる魂の叫びは

例え微かな力であっても

半歩動ける力となる


動く以外にない

動いて、動いて、動いて

心の回復をする以外にない

自分の人生をつかみ取れ




やがて辿り着いた場所

広い大地、大きな空、川のせせらぎ

懐かしい匂いがした

すっかり捨てたと思った感情が蘇った

何気ない毎日

穏やかに過ぎる時間

幸せな退屈

四季の匂い

悪魔のような顔つきからあの頃の自分に戻っていく

何かに怯えていた自分とはお別れだ











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蝗害(こうがい) 遠藤 @endoTomorrow

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