第3話 ③

──わたくしって、そんなに変なことしていたかしら?




 わたくしはわたくしなりに、そんな自問自答を繰り返す。


 確かに言われてみれば、世間一般と比べてみてもちょっとおかしな距離感だったかも知れません。

 幼く、右も左も分からない、小さな子どもの頃ならいざ知らず、今はもう16歳。

 中途半端なお年頃……ではありますけれど、この歳でこの距離感ともなると、まわりから見れば、さすがに異様な間柄に映ってしまう。


 そのせいでメリサは、いわゆるその『人目ひとめ』を気にして、事ある毎にお兄さまを牽制しようと、躍起になっているのでしょう。

 となると、これは単なる小言……と言うよりも、

 わたくしとお兄さまを想っての言動。そう捉えるべきなのでしょう。


 それは……ちゃんと、分かってはいるつもりなのです。

 メリサだって、鬼ではありませんもの。むしろ乳母として、わたくし達の親代わり。わたくしにとっては、悩みを愚痴ることの出来る、唯一の人間。

 幼い頃からわたくしの側にいてくれて、ずっと支えてきてくれたメリサ。

 その想いは海よりも深い。


 けれどだからといって、1回芽生えた反感が消えたわけではありません。それはそれ。仕方ありません。

 年相応にわたくしだって、『じゃあ、どうすればいいと言うの?』と思うわけなのです。

 こう見えてもわたくし、対策を講じて自重していますからね? なにもなさらず、ひとりクスクス笑っていらっしゃるお兄さまとは、わけが違います。

 そもそも変化を求めるのでしたなら、わたくしではなくて、お兄さまの方をもっと諭すべきだと思うのです!


 ──けれど……。



 わたくしは、はぁ……と溜め息をつく。

 そう。お兄さまは、懲りないのです。


 叱られれば叱られるほど、お兄さまのイタズラ心に

 火をつけてしまい、とんでもない方向に飛び火するのですから、始末に負えない。

 どちらかと言うと、冷静沈着なお兄さま。

 イタズラ……なんて考えていないように見えてしまう。けれど実際は、かなりのおちゃめさん。イタズラ

 だって大好きですし、この歳になってもまだ尚、誰かを引っ掛けてやろうと、てぐすね引いて待ち構えているのです。……たいてい引っ掛かるの、わたくしですけどね。

 ……だから、だから! 始末に負えないのです!!


 いつも大抵、お兄さまのひとり勝ち。

 美味しい思いをするのは、いつも必ずお兄さまなのです!




 ──『少しは自重してくださいましっ!』




 誰に対して言っているのか、腹立たしげに顔を歪め怒り狂うメリサの姿が浮かんでくる。

 メリサが怒鳴りたくなるのも、確かに分かります。ええ、分かりますよ? けれど、それはもう、負け犬の遠吠え。お兄さまにはちっとも効いていないのです。


 神妙な面持ちのその裏で、お兄さまは笑いを堪えながら、怒り狂っているメリサのその姿を面白がっていらっしゃるのですから。

 しかもお兄さまときたら、わざとわたくしとの距離を縮めることすらあるのですよ?

 悪さに拍車がかかる事はあっても、それを改める……なんてことは、絶対にない気がします。


 真面目で穏やかなお兄さま。

 けれど実のところ、性根が腐っているのが、お兄さま。貴族社会にどっぷり浸かって、まさにThe貴族。

 それがお兄さまなのですから……。


 わたくしは、『呆れる』を通り越し、複雑な気分で2人を眺める。真っ赤になって叫ぶメリサ。そして涼しい顔で笑うお兄さま。


 え? 止めないのかって?

 そんなこと、出来るはずもありません。

 だって、相手はあの2人なのですよ?

 あの中に割って入れば、まず真っ先にわたくしがられるのが、目に見えていますもの。

 確かに、メリサが怒る気持ちも頷けますし、同情もしています。どう足掻いても、勝てる見込みのないお兄さまから、バカにされているのですもの。可哀想だとは思いますよ?


 けれどその怒りの矛先が、たまに、……いえ、結構な頻度で、わたくしに向けられるのです。メリサだけでも苦労していますのに、そこに敢えて、お兄さまを加える必要性がどこにあると言うの? いいえ、あるわけありません。触らぬ神に祟りなし。

 いえ、触らぬ悪魔に祟りなし……?

 そもそもお兄さまもメリサも、触らなくっても、近づいて来ますしね?

 用心に越したことはないのです。

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これは絶対、シフォンケーキの呪い๛ก(꒪д꒪ก)〜何故だか異世界転生。イケメン王子と婚約破棄を企て一喜一憂しつつお菓子職人を目指してみる、お菓子のように甘い日々のお話……でもないか。〜 YUQARI @YUQARI

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