Ⅱ「ロストと決闘と使える手段」

 五つの高校では希望者には、人口開発された特殊な<スキル>である《クロス》が貰える。余談だが、中学では年齢の問題からおこなわない。

 その方法はナノマシンを投与するだけ。とは言え、適合出来ず死亡する事例があるうえ、能力が手に入ったとしても完全にランダムなので、元から強力な能力を持つ人や、代々続く名家出身者はやらないが、スリルを求める人、<スキル>の受け皿や容量である<スロット>を拡張したい人、<プレイヤー>の才能の無い人がおこなう。


 オウカはこの高校に入学して、低い地力を補うために《クロス》の元になるナノマシンを投与した。そして、無事に死ぬ事も無く、まあまあな部類の能力を手に入れた。

 ところが、その《クロス》が突如消失。自身の状態を閲覧(特殊なアプリを端末にインストールすれば見られる)すると、[ロスト]となっていた。そのせいで、他の<スキル>を覚える事まで出来なくなってしまった。


 どうしてこうなったのかは不明。オウカにも心当たりがないが、何者かに盗られたと思われた。だが、犯人は不明なうえ、仮に見つけたとしても、能力を取り戻せるかわからない。

 そういう訳で、退学か、一般高校への転学を進められたオウカだったが、そもそも自分に落ち度はなく、真っ当に生活していただけ。だからこそ、納得できる訳がないので、抗議をした。そして、教師同士の物議の末に、


「決闘……か」


 先程よりも小さい声で独り言が漏れる。傍に置いてあったプリントを眺めるオウカ。そこに書かれていたのは、オウカの処遇。長々と書かれており、簡単に要約すると――


本来ならば退学か、転学であるが、《クロス》の消失にはこちらも落ち度は存在する


入学試験の結果から、座学に問題はないので、実技で結果を示して貰う


対象者決闘で実力を示せば残留を許可する。


とあった。


 この決闘というのが問題である。日付と場所位しか書かれておらず、どういうルールなのか、相手が誰なのかもわからない。……下手をすると一対一じゃない可能性まである。


(状況は……はっきり言って最悪。勝ち目がない)


 持っている手札は純粋な戦闘技術と、<スキル>にすらならない魔力操作のみ。しかも《クロス》消失のせいで地力まで下がっている。だからこそ何かしらで補わなければならないが――


「伝手はないからな……」


 今の時代、後天的に<プレイヤー>となる手段は幾つかある。


・《クロス》などの人工開発された<スキル>の習得


・先天的才能を持つ人から移植などの手術


・特殊な<オブジェクト>や<アーティファクト>を使う。


 一番目は、かつて自分がおこなった手段。高校側に頼んでみたのだが、二度目のナノマシン投与は危険性が段違い。当たり前だが、難色を示された。

 二番目は、ドナーのなってくれる人がいる訳ないうえ、手術自体が高額なので不可能。……実際出来たとしても失敗の可能性がある。

 三番目は、あまり出回らないうえ、出回ったとしても高額。


 三つの全てが(表と裏問わずの)伝手さえあれば出来る。だが、オウカにはそんな物はない。つまり現状彼には手段がない。……これ以外の手段もあるにはあるらしいが、これも同じ問題で不可能。


「どうにかナノマシン投与を頼んでみるか」


 そう思った時だった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【TIPS】


<スキル>

(・▽・)<この作品ではとりあえず


(・▽・)<術技・能力の事です。


(#ー#)<分類はあるが、それはまたいずれ。

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