第214話 リーゼ姉さんと……
「ふぅ……このお風呂、いいわね。夜風が気持ちよくて……いつまでも入っていられそう」
「あの……身体は、大丈夫?」
「ええ。ちょっとまだ痛いけど、これは幸せな痛みだから」
そう、俺たちは姉弟として越えてはいけないとされている一線を、ついに越えてしまったのだ。夕刻に温泉区を訪れてくれた姉さんと、ログの離れで食事と、軽くワインなどたしなんで……どちらからともなく手を取り合って、口づけて、そして抱き締め合って。そこから先は、もう言葉では表現できない、至福の時間だった。
なかなか乗り越えられなかった「姉弟」というハードル。
いざそれを跳び越えてみれば、逆にその背徳感は強烈に甘美だった。他の女性とのあれこれと比較するのがマナーとしてイケないことはわかっているんだけど、明らかに今まで幾人とも「した」それとは違う、最高に刺激的で、頭の中が真っ白になるような体験だった。
「ルッツ……後悔してる?」
「そ、そんなことないよ! 俺、最高に幸せだったよ」
黙り込んでしまった俺へ気遣わしげな視線を向けてくる姉さんに、慌ててフォローを入れる。そうだ、している最中ずっと、涙のしずくをその目からあふれさせつつ「ルッツ、ルッツ……」ってずっと俺の名を呼んでくれた姿は、ただひたすら愛おしかった。
「そう言ってくれて嬉しい。ルッツは経験豊富だから、私なんかじゃ満足してもらえないかと思ってた」
「そんなことない。ベアトやグレーテルと比べるのはダメだと思うけど……姉さんは綺麗だし、ああして軍人さんたちがみんなうっとりと見上げる、憧れの対象なんだ。そんな女性を抱き締められるなんて、夢のような時間だった」
あえて姉というフレーズを混じえずに、一人の女性としてリーゼ姉さんを抱いた喜びを必死で伝えようとする俺。それでもまだ不安げに揺れる姉さんの瞳に、思わず立ち上がる。
「あ……ルッツ、これって……」
しまった。リーゼ姉さんがあまりにしおらしく可愛い反応をするものだから、俺も思わず元気になって……姉さんの目が、驚きによるものだろうけど丸くなって、ただ一点を凝視している。
「ご、ごめん」
「ううん、嬉しい。それって私ともう一度『したい』ってことなのよね」
「うん……」
「じゃあ、しよう?」
マジか。姉さんの清楚そのものって雰囲気をまとった唇から、そんな生々しいおねだりが飛び出すなんて。もちろん嬉しい、嬉しいんだけど、大事にすると誓った女の子に、そんな無茶な連発とか……。
いや、ダメな俺は結局、欲望に屈した。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「ルッツ、もう起きないと」
「う〜ん……」
優しく揺さぶられて目覚めれば、そこにはすでに身支度を整えた姉さんがいた。たっぷり疲れさせちゃったはずなのに、日の出ともなればビシッと起床できるところ、さすがは軍人さんだ。
そう、姉さんから可愛いおねだりをされた俺は、ひたすら猿になった……お風呂で一回、ベッドに戻って一回。ひと眠りした後、夜中に挑みかかってさらに一回。
「すごかったね。さすがに疲れたわ」
ニコッと微笑む姉さんの声が、少しかすれている。まあ、一晩中あれだけ声を絞り出したら、そうなるか。そうさせちゃったのは俺だけど……ごめん。
「今日もお仕事なの?」
「ええ。アントニア卿が気を遣ってくれて、午前はお休みにしてくれたんだけど……目が覚めちゃったから、きちんと行くつもり」
次の間でベルを鳴らせば、執事スタイルの男性捕虜が、うやうやしくルームサービスの朝食を運んでくる。朝からがっつり食べたい主義の俺だから、コンチネンタルスタイルじゃなく、卵とベーコンをたっぷり盛り上げたアメリカンスタイルだ。夜のエクササイズでたっぷりエネルギーを消費したであろう姉さんも、それを取り返すようにしっかり食べている。
「さすが軍人さん、よく食べるね」
「そうね。魔法だけってわけには行かないから、身体も鍛えてるしね。それに……」
「それに?」
「これからは、お腹の子のためにも、たくさん食べなくちゃね」
「ええっ?」
いや、あの……もちろん、ああいうことをしたのだから、子供ができるかもってのはわかる。そしてグレーテル以外の女性に対する俺の戦績は、初月度百発百中……だけど姉さんは、避妊魔法持ち。軍務を休むわけには行かないからしばらく子供は作らないって言ってたはずで……当然避妊してると思ってたんだけど。
「そんな顔されると、傷ついちゃうな。ルッツに愛されるなら、その証をお腹に残して欲しいってのは、自然な望みだと思うのだけど?」
「ご、ごめん。でも、軍隊の仕事、休めるの?」
そうだ。デスクワークなら出産ギリギリまで働き、産んで三日後にはまた働くのがこの世界の女性。だけど姉さんは戦闘部隊のトップ……さすがに妊娠期間の遠征行軍とか、マズいんじゃないの?
「大丈夫。デスクワークに切り替えられるよう、アントニア卿が計らってくれたわ。軍務につきつつ、子供を産めるメドが付いたから、こうしてルッツに抱かれに来たんじゃないの」
そっか。いよいよ姉さんが、俺の子を……感慨深いものがあるなあ。
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