第166話 リラの会?

「それで、どうしてそんな会をつくることにしたの?」


 その晩、ベッドの上で大運動会の後、何も身に着けない同士で、まったり取り調べ会をした。グレーテルはこういう時じゃないと、素直になってくれないからなあ。


「言ったでしょ。もうルッツはいろいろ力を示しすぎたわ。その力を我が物にしようという者もいれば、邪魔だから消してしまえという者もいる」


「うん、そうかも知れない」


 こればかりは、認めるしかないわな。俺の異世界転移チートが、かなりおかしいレベルに達していることは、間違いない。王都の反ベアト派にとっては、まさに邪魔以外の何物でもないだろうしなあ。


「そして、私だけじゃルッツやこのバーデン領を守れない。ルッツや、この領のことを想う、強い女性を集めることが必要なのよ」


「そう言って、ミカエラを傍に置けって言ったんだよね」


「うん、そう。でもミカエラだけじゃぜんぜん足りないわ。ルッツの目や耳、そして手足となり、いざという時にはルッツの盾となり鎧となる多くの魔法使い女性が、必要なの」


 まあ確かに、シュトゥットガルト家には子飼いの私兵もいないし、支配下の魔法使いはみんな帝国や公国の捕虜たちだ。忠誠心とか期待したらいけないよな。


「ルッツが考えているとおりよ。彼女たちはシュトゥットガルト家になんて、恩も愛着もないわ。バーデン領に大きな事件が起きて混乱しても、領のために戦ってなんてくれない。せいぜいどさくさ紛れに、逃げ出すくらいでしょうね」


 俺としては、うなずくしかない。戦争捕虜をこんなにゆるく扱っているのだ。彼女たちだって故郷が恋しいだろうし、機会があったら逃げ出してやろうと思っているに違いない。


「だけど、彼女たちは帝国人や公国人であるより前に『魔法使い』なの。自分の魔力を高めてくれる男が目の前にいたら、その手を取らずにはいられないのが、この世界の女なのよ」


「なんとなく、わかる」


 うん、こないだ護衛についてくれた風魔法使いのお姉さんたちが、みんな肉食動物の眼で俺を見ていたのは、気のせいじゃない。ただ一人ミカエラだけは、そういうことより屋台の串焼きのほうに、興味があったみたいだったけどな。


「だから、私は考えたの。捕虜の女性魔法使いを組織化する。そして組織上位に据えた者、功績を挙げた者にルッツの『神の種』を授けてあげると言えば、彼女たちは決して裏切らないはずと」


「組織化か……」


 さすがグレーテルは貴族階級。多くの人々を支配することに関してはカンが鋭いよな。


「これはベアトお姉様にも相談してる。『ぜひやるべき』と、仰ってくださっているわ」


 むむっ、ナチュラルに逃げ道をふさいできたな。脳筋だとばかり思っていたのに、ベアトの影響なのか、最近ずる賢さまで身に付けてきてる気がする。


「うん……わかった。会のことを詳しく教えて」


 まあ、俺や領のことを考えてのことだから、ある程度は受け入れよう。腕枕など貸しつつ、彼女のドヤ顔の説明を聞くとしよう。


 現在の「リラの会」メンバーは、約五百名だそうだ。魔法使い全員というわけじゃない、母国に大切な人を残してきた女性なんかは、そう簡単に転向できないってわけなんだろう。


 会のメンバーには、ライラックをかたどった銀のブローチが、全員与えられる。そういや最近、銀の花をこれ見よがしに襟や胸に着けた女性が、やたら多いと思ったのはこれか。会を統べる「会長様」は、当然わが幼馴染。彼女もライラックのブローチを肩に留めているけれど。その素材は魔銀。素材が階級を示すのだという。そして、十名程の「副会長」をおいて、彼女たちには金のライラックを授ける予定なのだという。


「あ……じゃ、ミカエラは『副会長』なの?」


「そうね。でもあの子はルッツの種目当てじゃなくて、本当にバーデン領のために尽くしてくれる気みたいよ。まあ帝国での扱いは、ひどかったみたいだからね」


 そうだな。貴族の娘だというのに、屋台の食い物をおごった程度であんなに喜ぶんだから……そう思うと少しだけ胸が締め付けられる。


「ね、聞いてるルッツ?」


「あ、ああ」


 危ない危ない。あまり他の女のことばかり考えていると、彼女のヤキモチが炸裂するわ。


「でね、一般会員は、顕著な功績をあげたと複数の副会長が推薦した時に、ルッツの種がもらえるって仕組みなわけよ。但し、帝国や公国を捨ててルッツに忠誠を尽くす『誓紙』を提出すれば、ね」


 なるほど。俺の役目は、優秀な魔法使いをバーデンに定着されるための餌ってわけか。


「ふうん。じゃ、その副会長への『ご褒美』は?」


「そう、副会長の待遇はまだ決めていないのだけど……月に一回、ルッツに抱かれる権利を持つってことにしようと思うのよね、そのくらいなら頑張れるよね?」


 何に頑張るんだよと思うが、どうせ俺に拒否権などない。


「一応確認なんだけど、俺の種付けにはベアトの許可が……」


「もちろん、ベアトお姉様の許可は頂いているわ。『グレーテルに一任する』ってね!」


 そんなことでドヤ顔されてもなあ。だけど、確実に詰んだことを、俺は悟るのだった。せめて生理的に許せるお相手に限ってほしいと、心の底で願いながら。

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