ep4「その話、詳しく聞かせてくれませんか」

「......つまり、あなた・・・を助けた一連の流れが、

 多くの人の目に留まって、バズって、

 わたし・・・は謎の強い魔法少女として、

 現在進行形で注目を浴びているということ?」


「はい、そういうことになります」


 突如押しかけてきた魔法少女、

 ラヴィという名前で、配信をしている彼女から、


 現状の全てを説明されたわたし・・・は、

 どうしてこうなったのかと、ため息を吐いた。


「それで、あなた・・・の要求は何でしたか?」


「私を強くしてください!!

 そのためなら、私にできることは

 何でもするつもりです!!」


 目をキラキラさせて、

 こちらを見つめる彼女の姿に、

 本日2度目の、ため息が漏れる。


「ちょっと!? どうして、ため息なんですか!?

 自分で言うのも何ですけど、私はけっこう凄いんですから!!

 どんなお願いをされても、叶えられると思います!!」


「......じゃあ、わたし・・・の代わりに、

 この世界の全部を壊してくれますか?」


「え......? いや、さすがにそれはちょっと......」


 三度目のため息。


 本当に、この世界を壊したいとは思っていないが、

 これ以上、彼女と話す必要はないように感じた。


 自分の願いを、彼女に叶えてもらう必要は、

 特に感じていないのだ。


「あの、話は変わるんですけど、

 ずっと、オラオラって感じじゃないんですね......?」


「まぁ、常にあんな口調で話していれば、

 無用なトラブルを招くことになりますから」


 脳裏に、嫌いな人たち・・・・・の顔がちらついて、

 握る拳の力が強くなる。


 魔力が暴走して、炎の拳を

 纏いそうになってしまったのを、

 ぎりぎりで我慢する。


 そんなわたし・・・の内心はつゆ知らず、

 彼女は話を再開した。


「でもでも! 魔法少女になったってことは、

 あの話を信じているってことですよね!!」


「......あぁ、女神さまの話ですね」


「全ての怪獣を倒すことが出来たのなら、

 女神さまが現れて、魔法少女の願いを叶えてくれる

 あの妖精さん・・・・・・は、そう話してくれました」


「しかも、魔法少女であれば、

 もれなく、誰一人欠けることなく・・・・・・・・・・


 ......神様も、太っ腹になれるのですね」


 スカウトされた全員が、

 1番最後に聞かされる、


 魔法少女として、凶悪な怪獣を倒して、

 世界の平和に貢献することへの対価。


 ほとんどの魔法少女は、

 本当に叶うかわからない、

 その怪しい誘惑に乗せられる。


「そうですよ。わたしは、

 叶えてもらいたい願いがあって、

 魔法少女として怪獣を倒してます」


 何といっても、アタシも、

 その魔法少女の1人なのだから。


「だったら、その願いを叶えるお手伝いを、

 私なら出来ると思うんです!!」


「まさか。魔法少女なんていう、

 超常の奇跡にすがってしまうような願いを、

 個人の力で叶えられるわけないじゃないですか」


「でも、私は出来ました!!

 だから、あなたにも出来ると思うんです!!」


 熱く語り続けるラヴィは、

 魔法少女衣装のどこからか、

 スマートフォンを取り出して、

 とある動画をアタシに見せる。


「私が叶えたかった願い。

『たくさんの人に愛されたい』

 叶わないのなら、怪獣に殺されても、

 別に構わないとすら、思っていました」


 それは、彼女自身の配信のアーカイブ。


 彼女の一挙手一投足にコメントがついて、

 多くの人が、彼女の存在を応援して、

 そして、彼女のことを愛している。


 チャンネル登録者数100万人。

 この数字こそ、彼女の夢が叶った

 その証明に違いなかった。


「私は、あなたの叶えたい夢を知りません。

 それが、本当に奇跡に願わないと、

 叶えられないのかどうかも。


 でも、夢を叶える手段は1つじゃないんです。

 だからきっと、あなたが夢を叶えるために、

 私は力になれるって信じています」


 語りたいことは、語り尽くしたのだろう。


 真っすぐに目を見つ続ける彼女に対して、

 アタシは背を向け、帰路につくことにした。


「そんな......!! 本当に、

 奇跡じゃないと叶えられないんですか!?」


「多分、そうだと思う」


「私! 配信で成功する方法を知ってます!!」


「それで?」


「有名になれます!! 

 SNS上で話題になっている今なら絶対!!」


「知名度なんて、アタシの願いに必要ない」


「配信を始めてみれば!!

 登録者数がたくさん増えて、

 配信には多くの人が来てくれて、

 みんなと過ごす時間は楽しくて!!」


「別に、他人からの評価なんて気にならない」


「魔法少女の配信者同士で、

 友だちになれるんです!!


 面白い人も、強い人も、

 色んな魔法少女と繋がれます!!」


「別に、仲のいい友だちが欲しいわけでもない。

 ……話は終わり? なら、本当に帰りますね。

 この後、行かないといけない場所もあるので」


 ダンジョンの出口は、もう目の前。

 後、数歩進むだけで、話し合いは終わる。


 アタシは振り返ることなく、

 一歩、前に踏み出して――、


「なら、お金はどうですか!?

 ダンジョン配信って、意外と収入があって、

 人気配信者になれば、億万長者も夢じゃないです!!」


 ――その足を、ピタリと止めた。


 初めて振り返って、

 その問いかけを投げかけた。


「......その話、詳しく聞かせてくれませんか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る