ep3「なぜ、その拳は燃えるのか(前編)」
きっと、理不尽な世界に対する、
私の怒りそのものだ。
「今日も、新世界は怪獣が多いな」
ダンジョンの入口から中に入ると、
通天閣の真下の交差点に出る。
そこから四方八方に伸びる道の上には、
ゾンビの姿をした、無数の怪獣共が、
ウジャウジャ湧いている。
「Uuuuunnnngg!!」
「OOOOAAARRGGHH!!」
「テメエら全員、うっせえんだよ」
ダンジョンに侵入してきた、
全ての方向から、怪獣共が迫ってくる。
さながら、パニックホラーの世界に
いきなり巻き込まれたかのような、
人によっては、恐怖で動けなくなりそうな景色。
確か、ここに来る前に確かめた、
魔法少女の配信の中でも、
恐怖や嫌悪感をしめす、コメントが多かった。
「ま、そんなもんは知らねえよ」
魔力を励起させて、
巨大な拳になるように、両手に炎を纏わせる。
最初は、剣や槍といった武器も試したが、
最終的には、この形に落ち着いた。
「うっとおしい奴らは、
直接ぶん殴るのが1番スカッとするからな」
そう呟いて、
今まさに襲い掛かろうとしていた怪獣に、
思いっきり、拳の一撃をぶち込んだ。
ドカンと心に響く、心地の良い打撃音。
あぁ、やっぱり武器をナックルにして良かった。
「サンドバッグには最適だよ、怪獣共!!」
アタシの、アタシによる、
アタシのための、無双劇が幕を開ける。
ゾンビ共は、アタシに指1つも触れられない。
その全てが、アタシの拳の前に、
吹き飛ばされ、燃えつくされ、
跡形もなく死んでいく。
「いや、ゾンビならもう死んでるのか......?」
怪獣共も、ようやく少し学び始めたのか、
複数で、一斉に襲い掛かってくる。
そんな姿を見て、アタシも1つ、
ゾンビ共について理解することが出来た。
「ま、こいつらが死んでるかどうかなんて、
どうでもいいよな、そんなこと!!」
複数で襲い掛かってきたところで、
アタシはそいつらを、
全員まとめて、殴り飛ばすだけだ。
雑魚共が何体まとまったところで、
雑魚である事実は変わらない。
当然、アタシにかなう道理もない。
どうせ、ここで全員倒されるなら、
怪獣共の生死など、考えるだけ意味がない。
「さぁ、無駄死の時間だ!!」
1体、また1体と、怪獣共が倒される。
たった1人の魔法少女に、
何百、何千という数の怪獣の、
その全てが殲滅させられる。
時間にして、およそ20分と少し。
それが、ゾンビの姿をした怪獣たちに与えられた、
ダンジョンで活動することの出来た時間だった。
周りに怪獣がいないことを確認して、
魔力消費の大きい、炎の拳を解除する。
「それにしても、
新世界ダンジョンの噂は、本当だったんだな」
残されたのは、怪獣の
新世界の街並みだけが残るダンジョンだけ。
この
魔法少女の間で噂される理由ではあるのだが......。
「あぁ! 本当にいた!!」
「あぁ?」
少し別のことを考えていると、
新世界ダンジョンの入口から、
新しい魔法少女がやって来た。
ピンク色のフリフリの衣装に、
少し露出度の高いそれを身にまとった、
恐らく同年代と思われる彼女は、
アタシの隣に着地すると、
顔をグイっと近づけてきて、
「私を魔法少女として強くしてください!!
そのためなら、何でもしますから!!」
「は?」
「......え?」
「......あ?」
ピシりをと固まる、謎の魔法少女。
この場の空気が、凍り付くように冷え込む。
戸惑っているのは、こっちの方なのだが。
「......あの、私のこと覚えてないですか?」
「全然」
「嘘!? 私です私!!
昨日、梅田地下ダンジョンで
人狼の怪獣に襲われているところを、
助けてもらった魔法少女です......!!」
言われて初めて、
そういえば、あの怪獣と戦った時に、
倒れていた人物と、目の前の魔法少女が、
同一人物のように見える事に気が付く。
1人で納得していると、
彼女は、矢継ぎ早に要件を伝えてきた。
「あの日、誰よりも近くで、
その強さを目の当たりにして思いました!!
あなたのように強くなりたい!!
もし、私を強くしてくださるなら、
その代わりに、本当に何でもします!!」
「え......? いや、結構です」
「......え?」
「......え?」
今度こそ、場の空気が凍りついた。
固まったまま動かない魔法少女をよそに、
アタシは颯爽と、この場を後にする。
「......!? いや、ちょっと待ってください!!」
「いや、待たないけど」
「お願いです!! こんなチャンスを、
逃すわけにはいかないんです!!
今ネットで話題の、獄炎の魔法少女を
独占配信しつつ、ついでに私も強くなって、
魔法少女の配信者として、有名になれる機会なんて、
この先、絶対やって来ないに決まっています!!
だから、ラヴィは何が何でも、
このチャンスを掴まなきゃいけないんです!!」
手を強く引っ張られ、
早く放してほしいとしか思わなかったが、
よくよく話に耳を傾けると、
何やら聞き逃してはいけない話が、
その中に混ざっていることに気が付いた。
「なぁ、獄炎の魔法少女って......」
「あれ、もしかして......、
SNS上で話題になっていることも、
何も知らないんですか......?」
疑問を確かめるように、
こちらを覗き込む彼女に、
アタシは、静かに首を縦にふった。
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