第19話:封印と後遺症




「昼間の王太子殿下も、アレクサンデル様には変わりありません。但し、セシリア様へのを封印されています」

 予想外のロドルフの説明に、アレクサンデルもセシリアも言葉が出なかった。


「経緯は省きますが、セシリア様の為にアレクが考え、陛下も渋々では有りますが了承されたそうです。期限は高等学校卒業まで」

 その理由に思い至ったアレクサンデルは、セシリアから顔を逸らして下を向いた。


「責任を感じたフラート卿が魔女の所へ付き添ったようです」

 まず私に相談して欲しかったですね、とロドルフが冷たく言い放つ。

 怒ってる相手は、アレクサンデルなのかフラート子爵令息なのか、それとも国王なのか。



「恋心の封印と簡単に言っても、その感情だけを封印出来るわけでは無いらしく、そこに強く紐付いている記憶や感情も封印される事があるらしいです。所謂いわゆる後遺症というものですね」

 ロドルフの言葉に、アレクサンデルは小さく「あっ」と声を出す。おそらく王太子が王族の妃の条件を忘れているのは、その後遺症のせいだろうと思ったのだ。


「私も忘却の魔女本人に話を聞いたのではなく、友人の国家魔術師に聞いただけなので、細かい所はわからないのですが」

 そこで一旦言葉を切ったロドルフは、良い笑顔になる。

「アレクとフラート卿が魔女に会いに行く時に陛下に頼まれて同行したそうなので、今の情報に間違いは有りません」

 笑顔なのに、背筋が寒くなる。


「現に中等学校からの王太子は、仕事も学業も完璧なのですが、どこか人間味が無いというか、他人に関心が無いように感じるとの報告も上がってます。後遺症ですね」

 平坦な声で、しかし冷たい笑顔は消さないロドルフ。

 もしかしたら、蚊帳かやの外にされた事を、かなり怒っているのかもしれない。



「昼間の王太子も僕……」

 茫然と呟くアレクサンデルは、隣で顔色を悪くしているセシリアに気付かない。

 昼間の王太子はアレクサンデルとは別人、と自分を奮い立たせていたのは本人だけではなく、セシリアも同じだった。


「そしてここで問題なのが、なぜ期限前なのにアレクが出て来ているか、ですね」

 ロドルフの声が一段下がった。

 中等学校時代は、何事も無く……夜にアレクサンデルが目覚める事も無く過ごしていた。



「なぜ王太子は、猿、じゃなくて、スヒッペル伯爵令嬢がそんなに大好きなんだろう?」

 ロドルフの問いには応えず、アレクサンデルはアレクサンデルで、自分の疑問を口にしていた。


 自分の疑問を無視された事を気にした様子もなく、ロドルフはアレクサンデルを見る。

「封印魔法をしなければならないほどの貴方が、あの肉感的な体を見ても何も感じないと?」

 無遠慮なロドルフの問いに、アレクサンデルは何度も頷く。


「僕が抱きたいのは、セシリアだけたからね! ……あ!!」

 勢いで答えてしまったのだろうアレクサンデルの言葉に、横に居るセシリアが両手で顔をおおって俯いてしまっている。

 そういう場合では無いのに、ロドルフはクスリと笑ってしまった。



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