第20話:王太子と婚約者
少しだけ時計を戻し、封印魔法の件がロドルフからアレクサンデルとセシリアに明かされた日の昼間。
まだセシリアが何も知らない頃。
いつものように、王太子はお気に入りの愛人を膝の上に抱えていた。
もう誰も気にしていない。そういう置物だとでもいうように、視界に入っても無視をする。
当然セシリアも、皆と同じように無関心を貫いていた。
自分の婚約者は夜に会うアレクサンデルであり、ここに居る王太子とは別物である、と心の中で唱えていた。
結婚したら昼間は公務を行い、夜のアレクサンデルが出てくる時間を共に過ごせば良いと割り切っていた。
結婚したら……セシリアの頬が微かに赤くなる。
あの可愛い婚約者は、手を握っただけで真っ赤になってしまう。閨事など出来るのかしら? そう想像してしまったのだ。
王太子妃教育の一環で、そういうことの知識は勿論ある。
だからこそ、王太子とスヒッペル伯爵令嬢の事を嫌悪しているのだ。
その頬を染めて一人で照れている様子のセシリアに、友人二人が気付く。
最近明るくなり、王太子の事を吹っ切ったように見えるセシリア。
婚約破棄の話が進んでいて、他に好きな人でも出来たのだろう。そう友人二人は思っていた。
何も話してくれないのは淋しいが、こと王家の婚姻に関しての、更に王太子の婚姻となれば、守秘義務があって当然である。
普通に学生の異性に対する話として、他愛ない憧れの異性の話でもするように、その相手の話をしようとセシリアに話し掛けた。
王太子に絡まりながら、スヒッペル伯爵令嬢……リシェは教室の隅で楽しそうにしている三人を睨んでいた。
王太子の膝に横座りで乗り、首に腕を回して頬に胸が当たるようにする。
背が高く、更に座高が高いので出来る事だ。ドレスが似合わない胴長短足な体型だが、利点もあるのだと密かにリシェはほくそ笑んだ。
「ねぇ、貴方の婚約者様、好きな相手がいるみたいよ」
リシェが耳元で囁くと、王太子はセシリアへ視線を向けた。
その耳元に、更に囁きかける。
「王太子様の婚約者なのに、他の男に懸想するなんて、なんて
言葉を耳に吹き入れた後、リシェはチュッとその耳にくちづけた。
それまでセシリアに無関心だった王太子は、いきなり立ち上がった。
予想していたリシェは、腕を解き膝から降りる。
セシリアの方へと歩いて行く王太子の背中を、リシェはニヤニヤと笑いながら見ていた。
「おい! そこの阿婆擦れ!」
突然の暴言に、セシリアを含む三人が声を発した相手を見上げる。
あまりにもな内容と、いきなりな行動に驚いて無言でいると、暴言の主である王太子が嫌悪感満載の表情でセシリアを睨む。
「王太子である俺の婚約者でありながら、他の男に懸想するのか? とんだ阿婆擦れもいたもんだな」
セシリアだけでなく、教室内の全ての人間が我が耳を疑っただろう。リシェ以外。
「何をおっしゃっているのか解りませんが、
席を立ったセシリアは、王太子と対峙する。
先に目を逸らしたのは王太子だった。
フンッと鼻から息を吐き出すようにして笑い、踵を返して自席へと戻って行った。
その後ろ姿を眺めながら、早くアレクサンデルに会いたい、とセシリアは思っていた。
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