第14話:思春期と欲



 中等学校入学式当日の顔合わせの話は、思いも寄らない方向へと向かっていた。

 思春期の少年の、婚約者へは聞かせたくない話である。


「フラート子爵令息は真面目そうな好青年に見えるけど、とても経験豊富でね。未亡人との閨の話なども詳しく話してくれたんだ」

 顔を真っ赤にして話すアレクサンデルは、まさに思春期の少年だった。


「そ、それでね。聞いた話から色々想像しちゃうし、セシィに囲まれてるのが恥ずかしくなっちゃって、部屋から大きなセシィの絵とかを片付けるようにお願いしたんだ」

 そこまで話して、アレクサンデルは視線をセシリアに合わせる。


「でも! 小さな絵は残すようにお願いしたし、僕が片付けるようにお願いしたのは絵だけだ。セシィから貰った手紙や贈り物はなぜ無くなってるのか判らない」

 必死に訴えるアレクサンデルの様子に、嘘は無いようだった。



「片付けたメイドに確認してみましょう」

 話を聞き終わったロドルフは、そう言って立ち上がった。

「よろしくお願いします! ロドルフ先生」

 ソファに座ったまま言うアレクサンデルへ、ロドルフが笑顔を向ける。


「何をしているのですか? 貴方も帰るのですよ」

 有無を言わせない笑顔に、アレクサンデルは急いで席を立つ。

「また明日ね! おやすみ、セシィ」

 小さく手を振って別れの挨拶をするアレクサンデルは、間違い無くセシリアの愛していた人だった。




 何も解決していないし、何も状況は変わっていないのに、アレクサンデルの心は軽くなっていた。

 それはロドルフという心強い仲間が出来たお陰かもしれないし、セシリアへの隠し事が1つ減ったからかもしれない。


 ヴォルテルス公爵邸からの通路を、ロドルフの後に続いて歩いていたアレクサンデルは、綺麗に整えられ纏められた髪を見つめた。前は肩までだった髪は、左側に纏めて結んである。

 見上げていたはずだった視線は、今では僅かに下にあった。


「3年って、長いよね」

 ポツリとこぼれた言葉は、自分の足音に消されてしまうほど小さなものだった。



「入学式翌日の行動と、荷物の件は調べておきます」

 図書室へ帰って来てすぐに、ロドルフはアレクサンデルへ声を掛けた。

「何日か掛かりますので、お二人の時間を大切にしてください」

 それは、セシリアとアレクサンデルの夜の逢瀬を見逃してくれる、と暗に言っている。


「それから、もしも変な痛みや痒みがあったら、夜中だろうが侍医の所へ行ってください」

 今度の言葉は意味が解らず首を傾げると、ロドルフの手がアレクサンデルの大切な部分を服の上からポンポンと叩いた。

「何が仕込まれているか判らない所へ突っ込んでるんです。昼間の貴方には言うだけ無駄ですからね」

 アレクサンデルの顔が青褪めた。


「僕があの猿と、その、やってるって事だよね」

「ええ。今は猿と言うよりも娼婦ですけどね」

 ロドルフの嫌悪の滲んだ言い方に、アレクサンデルはセシリアに見せられた今のスヒッペル伯爵令嬢を思い出していた。



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