第15話:先生、調べる




 翌日、約束通りロドルフはの事を調べた。

 部屋を片付けたメイドはすぐに見付かった。

 今でも王太子付きのメイドをしていたからである。


「あの日、確かに姿絵を大切に片付けるように言われました。しかし翌日、婚約者様関連の荷物を全て言われたのです」

 メイドの説明を、ロドルフは努めて冷静に聞いた。


 彼の中で、思い込みによる勘違いが起きていた。

 荷物を片付けるように言ったのは入学式当日で、大切に仕舞っておくように命令されたのだと。

 しかし実際は、丁寧に仕舞うように言われたのは姿絵だけで、翌日には荷物全て捨てるように命令されていた。


「まさか本当に捨てたりは……」

 ロドルフが聞くと、メイドはブンブンと勢いよく首を振る。

「さすがに公爵令嬢関連の物を捨てるわけにはいきませんので、メイド長へ報告して、倉庫に全て保管してあります」

 メイドの言葉に、ロドルフは胸を撫で下ろした。



 昨日、長い通路を歩きながら、アレクサンデルとロドルフは色々な話をした。

 目覚めた当日は少し混乱していた事。

 側近達との話が恥ずかしくて、セレシアには中等学校入学式当日から記憶が無いふりをしていた事。

 今のスヒッペル伯爵令嬢の姿を見ても、何の欲も感じない事。


 いくら胸が大きく煽情的な雰囲気に育った女性が相手だからといって、出会った当日に閨を共にするほど、女性の好みが3年でそこまで変わるだろうか。

 百歩譲って、隠れて性欲の発散に使うのならば、納得出来る。褒められた行動では無いが。


「まずは側近候補達に詳しく話を聞くとするか」

 ロドルフは、王太子に気付かれないように、側近を王宮へ呼び出した。




「では、中等学校の入学式翌日は、貴方達は一緒に行動していないのですね?」

 ロドルフの問いに、幼等学校時代から一緒に行動していた二人の側近候補達は頷く。

「王太子殿下は、中等学校から側近候補になったフラート卿と一緒でした」

 レイケン侯爵令息が答える。

「その日からフラート卿が最側近扱いなので、私達は殿下の私生活は知りません」

 フェルヴェイ伯爵令息が補足した。それにレイケン侯爵令息も頷く。


「突然人が変わったみたいで……父から国王陛下に報告してますが、問題無いと返されたそうです」

 更に付け足したレイケン侯爵令息の言葉に、ロドルフは微かに眉間に皺を寄せた。



 突然性格が変わったみたいだとの報告は、自分も受けていた。

 しかし、その件で陛下が問題無いと答えたのは知らなかったのだ。

 そういえば、と当時の事をロドルフも思い出す。

 自分も父であるコーネイン公爵へ報告したが、学生時代にありがちな見栄だろうから、高等学校卒業までは様子を見るようにと言われた事を。


 何となく。

 何となくだが、全貌が見えてきた。

 そして、不測の事態が起きた為に、今のアレクサンデルが居るのだ。


「ありがとう。これまで通り、王太子殿下を支えてくれ」

 それだけを何とか絞り出すと、ロドルフは部屋を後にした。



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