第12話:信頼関係
夜。アレクサンデルとセシリアは、ドキドキしながらソファに向かい合って座っていた。
二人で会っているからの、心躍るドキドキでは無い。
果たして、手紙を読んだ相手がどういう行動に出るかのドキドキだ。
「手紙は渡せたんだよね?」
アレクサンデルがコップのお菓子水をコクリと一口飲む。
「兄から、きちんと本人に渡したとの連絡は有りました」
目の前で読んだわけでは無いので、受け取っただけでまだ読んでいない可能性も有る。
「お忙しい方なので、まだ読んでないかもしれませんし、読んでも来てくれないかもしれませんね」
セシリアが視線を下へ向ける。
既に目を通していたとしても、内容を不審に思って、アレクサンデルの父である国王へ報告されている可能性もあった。
何せ、ここ数年まともに会話もしていないらしい相手なのだ。
「でも、でも僕の知ってるロドルフ先生なら、すぐに中身を確認するし、手紙の内容を理解して来てくれると思う」
両手を強く握りしめ、アレクサンデルはキッパリと言い切る。信頼をしているのが判るその態度に、なぜ今は疎遠なのだろうか、とセシリアは密かに思った。
トントントン。
極小さい、遠慮気味のノックが部屋に響いた。
セシリアとアレクサンデルは目を合わせて喜びあった後に、弾かれたように立ち上がる。そして、音のしたベランダの方へと向かった。
静かにゆっくりと、ベランダへ続く窓を開ける。
「ロドルフ先生!」
小声で、しかし喜びを隠せない声で、アレクサンデルが訪問者の名前を呼んだ。
部屋の主であるセシリアは、その後ろに控えている。
「本当にこちらにいらっしゃるとは……通路も使用された跡が有りましたが、正直、半信半疑でした」
ロドルフが部屋へ入り、そっと音が鳴らないよう気を付けながら窓を閉める。
「それから、嘘はいけませんね。掃除はしていないではありませんか」
先生らしく、ロドルフがアレクサンデルを叱る。
「すみません。でも『通りました』だと……」
言い訳をしようとしたアレクサンデルの頭を、ロドルフが撫でた。
昔はロドルフの方が背が高かったが、今では微妙にアレクサンデルの方が高い。
しかしそれでも、アレクサンデルが嬉しそうにするので、とても微笑ましく見えた。
「おかえりなさい。アレク」
ロドルフの言葉に、アレクサンデルだけでなく、セシリアの目も驚きで見開かれた。
ソファに三人で座る。
セシリアが一人で座り、アレクサンデルとロドルフが並んで座っている。
夜なのでお茶は出せず、ロドルフにも水とお菓子が出された。
「水にそれを溶かして飲むんです!」
嬉しそうに言うアレクサンデルは、年齢よりも子供っぽい。
ロドルフの知っているアレクサンデルだった。
「それでは、ここ3年の記憶が無いのですね?」
ロドルフの問いに、アレクサンデルが頷く。
顎に手を当て考え込む仕草をしたロドルフに、疑っている様子は無かった。
セシリアがそれを不思議に思っている事が表情に出ていたのだろう。目が合ったロドルフは、「手紙の文字がね」と口の端を持ち上げる。
今の書類などで目にする文字よりも、下手だったと言いたいのだろう。
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