第11話:側近と兄




 あまり付き合いの無いフェリクス・ヴォルテルス公爵令息から面会の申し込みをされたロドルフ・コーネイン公爵令息は、最初は忙しさを理由に断ろうかとも思った。

 王太子の側近に既に決定している自分との繋がりを求める貴族は多い。

 そこまで考えて、面会申し込みの書類をもう一度見た。


「ヴォルテルス公爵家?」

 それは、ここ3年で疎遠になった王太子の婚約者の実家だった。

 明日にでも結婚したい! と我が儘を言うほど婚約者に執着していた王太子の態度が変わったのは、中等学校入学式の夜からだった。


 突然、部屋の整理をメイドに命令し、婚約者関係の物一切を片付けさせた。だが、その時にはまだ婚約者への愛と執着が感じられた。

 翌日。学校帰りに側近候補と出掛けて帰って来てから、王太子は変わった。

 婚約者への関心が無くなっただけでなく、他の人間への態度も感謝やいたわりが無くなったように見えた。


 それでも学業や王太子としての教育、公務も滞りなく行われていたので、誰も何も言わなかった。



「婚約者であるヴォルテルス公爵令嬢の名前を出すだけで不機嫌になったから、誰も何も言わなくなったのだったな」

 それでも忠言を続けていたロドルフは、直接顔を合わせる仕事から外されてしまった。


 側近自体を外されなかったのは、国王の許可が降りなかったからだろう。

 現に国王からは「学校を卒業するまでだから、陰で支えて欲しい」とお願いされていた。


 王太子が連絡を取らないのに、一側近である自分が勝手に連絡を取るわけにはいかない。

 自然とロドルフとヴォルテルス公爵家も、必要最低限の交流しかしなくなっていた。




 大体的に面会をするのははばかられたので、面会自体は断りの返事をする。その代わり昼食を共にする程度ならばとロドルフが友人にお願いして個人的な使いを出すと、王宮近くの店を提案する紙を渡されてきた。

 個室もあるが文官が気軽に行ける程度の価格帯の店であり、偶然会って話をした……とするのに丁度良い。


 昼食に店に訪れると、くだんの人物はロドルフよりも先に来ていた。

 わざとらしいくらいに、久しぶりに会ったとお互いに挨拶をして同席する。

 王太子と婚約者の不仲は既に有名なので、その側近と兄の交流が無くても誰も不思議に思わなかった。


 席に着くと最近の王太子の様子を声をひそめて、しかし両隣には聞こえる程度の声で話す。

「政略とはいえ、やはり不貞行為は許されないと思うので、ヴォルテルス家としては解消を申し出ようと思っております」

 フェリクスが溜め息と共に吐き出す。

 嘘では無いし、実際にヴォルテルス公爵である父は、その件で国王と面会をしている。


「私は学生では無いので実際に見てはおりませんが、伯爵令嬢と懇意にしているようですね。伯爵家ならばギリギリ王家に入れますし、ね」

 ロドルフがちらりと視線を周りの様子を確認するようにする。

 微妙な内容を話しているからか、周りは耳だけを向けて、あえて視線を逸らしているようだ。


 ロドルフの様子に気付いたフェリクスも周りを確認し、懐からセシリアの手紙を出した。

「セシリアとは真逆の、とても魅力的な女子生徒だとか」

 それを、相手を見ずにテーブルへ置く。会話を止めないのはわざとだ。

 フェリクスが手を引っ込めてから、ロドルフは手紙を手に取り、宛名も確認せずにそのまま懐へとしまった。



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