第10話:相談相手




「ロドルフ・コーネイン公爵令息に相談してみるのはどうかしら?」

 いつものように報告に来たアレクサンデルへ、セシリアは提案してみる。

 アレクサンデルの教育係をしていた彼は、年齢も10歳上であり、王太子の側近である。

 そう。他の者と違い候補では無い。


 アレクサンデルの顔が少しだけ嫌そうに歪んだ。

 嫌いなわけでは無い。

 全ての事を冷静に正論で返す彼の事が苦手なだけなのだ。

 子供の悪戯に対しても滔々とうとうと正論でいさめてしまうので、小さい頃には何もしていないのに顔を見ると逃げるほど苦手にしていた。



「手紙を書くから、セシィから渡してもらえる?」

 アレクサンデルが上目遣いでセシリアを見る。

「アレク様?」

 咎めるような口調で名前を呼べば、でも、とアレクサンデルは言葉を続ける。


「朝まで起きていようとしても、気付いたらまた夜なんだよ。ロドルフ先生に渡しに行くなど無理だよ」

 どこか拗ねたように言うアレクサンデルは、コーネイン公爵令息が苦手なだけでセシリアに頼んだわけでは無いようである。


「確かにそうですね。私も今は殿下との交流が無いのでなかなかお会い出来ないのですが、兄に頼んでみます」

 今は実家を出て王宮で仕事をしているセシリアの兄は、何年かしたら公爵家を継ぐ為に戻って来る。武者修行的な感じで、数年下積み仕事をするのがヴォルテルス公爵家の慣例である。

 仕事をする場所は、本人が交渉して決めるのも修行の一環であり、数年で辞めるのに王宮に潜り込んだ兄はかなり優秀と言えた。



 その後、アレクサンデルは『ロドルフ先生』宛に手紙を書いた。

 アレクサンデルが中等学校に上がってからは、先生ではなく側近として側に居るはすなのでわざとその宛名にした。


 内容は誰かに見られても良いよう詳しくは書かず、『セシリアに関する物はどこへ仕舞ったのだろうか』『最近、不眠症なので夜の話し相手になって欲しい』との内容を遠回しに書き、『物置小屋への道を自分で掃除したので褒めて欲しい』と書いて終わらせた。


 それを封筒に入れ、更にセシリアの書いた『アレクサンデル王太子殿下の事でご相談があります』と書いた手紙と一緒に封筒へ入れ、セシリアの封蝋で閉じた。




 翌日、セシリアは学校が終わると王宮の兄を訪ねた。

 朝一で連絡は入れてあるので、すぐに面会をする事が出来た。

「少し顔色が良くなったか?」

 久しぶりに会った兄フェリクスは、少し前の笑っているのに無表情なセシリアと、今日のセシリアの違いに気が付いた。


「とうとう婚約解消になったか?」

 学校での王太子の様子は、王宮でも噂になっているのだろう。

 食堂や中庭などの、人目のある所でも構わずベタベタしている王太子とスヒッペル伯爵令嬢の話を、学校に通っている子供達から聞いている文官も多い。


「解消にはなっておりませんが、その件でコーネイン卿にご相談がしたいのです」

 セシリアは、持参したコーネイン公爵令息宛の手紙を見せた。

 一瞬怪訝な顔をしたフェリクスだったが、何もかも諦めたような3年間のセシリアを知っているので、前向きに行動するならそれも良し、と手紙を預かった。




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