悪魔①
この世界における悪魔とは精神的存在であり、物理的肉体を持たず人間に寄生し宿主を蝕む。本質的に悪魔とは邪悪な存在である。
下位の精霊の中にも人間に
七つの大罪という悪魔がいる。
嫉妬、傲慢、怠惰、色欲、暴食、憤怒、強欲の名を冠する彼らは悪魔の中でも上級悪魔と呼ばれ、度々世界に姿を現しては人の世を混乱に導いた。それが存在意義であり、悦楽であり、人間はその為の玩具でしかない。
だというのに、憤怒と怠惰の悪魔が消滅した。触れてはいけないものに手を出してしまったのだ。
後に世界の理を曲げ、魔王を討った男の身内に手を出したのだ。
ーーーーーー
聖女との話し合いはスムーズに終わった。というより俺が適当に話して聖女が大袈裟な反応をするの繰り返しだった。
少々乗ってしまったのは認めよう。
「もうこんな時間なのですね。残念です……」
帰ろうとすると心底残念そうな様子の聖女に、俺は苦笑いをする。彼女の中で俺は無欠の英雄にでもなっていそうだ。
居心地の悪さを感じながら、暇そうに漂う精霊を見る。その瞬間にハッとした。
思い出したが、この城には魔物避けの結界があったはずだ。それに精霊が弾かれた様子は無い。過去に竜を入れようとして弾かれた事があるので精霊でも中に入れないはずだ。
なんで忘れていた?
「アリーザ、魔物避けの結界はどうした?」
「……? どういう意味だい?」
アリーザも気づいていない?
俺は精霊に声を掛けて姿を現せさせる。
精霊はすぐにこの場に姿を現した。
「キミっ! それは!」
アリーザが精霊を見て事の重大さに気づいた。
「ちっ、予定変更だ」
それは俺でもアリーザでもなかった。
瞬間、アリーザの身体が弾かれたように吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
「精霊!」
『ふん、ようやく気づいたか』
精霊に命令を出し、アリーザを吹き飛ばしたヤツーー聖女の護衛としていた女神官に向かって精霊が雷を放つ。
しかしその一撃は右手を前に出したもう一人の女神官に阻まれる。いや、正確には掻き消えた……?
『小賢しい真似を』
「おっと、それ以上は止めて頂こうか」
今度の声は聞き覚えがあった。
声の主を見れば、果物用のナイフを自分の首にあてた聖女がいた。その目は彼女本来の淡い翠色ではなく黄色と赤の瞳。
悪魔憑きだ。
「油断を誘い情報を引き出す予定が、バレるとはな、魔物使い」
「聖女が悪魔に憑かれるなんて笑えねぇな。聖女は無事なのか?」
聖女に女神官二人、女神官の方は両目が赤く光っている。
「貴様が何もしなければ今は危害を加えないとも。我々にしても数年を掛けた計画。聖女はまだ必要だからな」
精霊で素早く無力化ーーは無理か。聖女の着ている服が問題だ。あれは外からの魔法攻撃に対して耐性がある。
女神官にしても雷を防いだのも気になる。殺さないようにと手加減したとはいえ、精霊の攻撃だぞ。以前似たようなことをされたな。
「まったく! なんなんだ一体!」
吹き飛ばされた勇者が体を起こす。無事だと思っていたが。
「聖女が悪魔に取り憑かれている。他のふたりもだ」
「……もしかしてあの時と同じ?」
俺の状況説明に、勇者が過去の出来事を思い出す。
「クク、久しいな。人間の勇者よ」
「お前たちは、彼にーー僕たちに滅ぼされたはずだよ」
数年前、宗教国家を襲った悪魔は
理由の一つに魔物避けの結界がある。コストの高い
悪魔は近寄ることも出来ない。
「この国の上役でもたらしこんだか? 悪魔はやり方が姑息で仕方ないな」
「っ! 舐めるなよ人間風情が! 貴様はただでは殺さんぞ!」
聖女の顔でそんな事言われても怖くもないな。
しかし安直に手を出してこないのは、勇者と精霊を警戒してるからか。
「で、実際どこまでの問題だ?」
俺は隣にいる勇者に尋ねる。
「かなり不味い、かも。魔物避けの陣がどこにあるかなんて私も知らないしね。かなり上だと思うけど、いつから繋がってたかも分からないし」
「たまに王都に来ればこれだよ……」
嫌な予感の正体はこれだったのだ。ふと、予感といえば……、
「(お前気づいていただろ)」
『うむ。ニンゲンの街に入った時点でな』
「言えよ!」
精霊の言葉に思わず声を口に出すと、隣の勇者が「うわっ」と反応した。
これはすまん。
『言ってしまえば貴様は戻るだろ。クク、我を甘くみたな!』
「(なんでお前まで敵役ムーブしてんだよ! )」
ストレスを溜めすぎたかもしれない。
数千年も生きてるのに数ヶ月ぐらいも大人しく出来ないのか!
「で、結局お前たちは何がしたいんだ? お前ら程度がいた所で勇者には勝てないだろう?」
1番の疑問だ。わざわざ国の中枢に入り込んだとしても、勇者にバレたら即終了。リスクばかりがデカすぎるだろ。
「無論、我らでは勇者にも、忌々しいが貴様にも勝てぬ。しかしーー」
「あぁ?」
「我らは
あぁ、完全に理解した。
魔物使いのスローライフ @ao113
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