精霊①


「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 無言。互いに無言である。沈黙がここまで息苦しいとは。

 ゴブリンが煎れたコーヒーを飲む。その動作を凝視されているが、無言のままだ。

 

「あー、えっと」

 

 堪らず俺から声を掛ける。

 

「それ」

「え?」

 

 声を掛けると、俺の目の前にいる少女がゴブリンを指差す。

 

「ユニーク」

「あ、あぁ、よく分かった。アリーザから聞いたか?」

 

 少女は首を振って否定する。この独特の間は耐え難いものがある。

 

「そうか、ところで、なんの用なんだ?」

「依頼に来た」

「依頼?  悪いけど俺は別に冒険者とかになった訳じゃないぞ?  というか俺に出来ることなんて限られてるし」

「大丈夫」

 

 何が大丈夫なのか教えてくれ! 

 叫びたい気持ちを抑え、言葉を待つ。が来ない。

 

「えっと」

「アリーザがあなたに助けられたって」

 

 聞き直そうとすると、言葉を遮られた。というかやっぱりアリーザか。

 

「あれはなんというか、気紛れみたいなものなんだ」

「でも助けた」

「・・・・・・分かった。依頼の内容を教えてくれ」

 

 嫌々ながら、間に耐えかねて俺は依頼とやらを聞くことにした。

 昔からこいつとコミュニケーションを取るのは苦手なのだ。間が独特すぎて悪いことをしている気分になる。

 

「ん。港に精霊が現れた」

「精霊?」

 

 精霊とは万象に宿る力の具現とされる魔物だ。オークとかと違って神聖視されており、そう人の目に触れるものではない。俺も見たのはほんの数回程度だ。

 

「港ってことは、水の精霊とかか?」

「ん。違う。雷の精霊」

 

 港に雷の精霊ってなんだそりゃ。雷は海の中では伝わりにくいという話を聞いたことがある。だとすれば雷そのものの雷の精霊と海は相性が悪そうだが。

 

「なんだって精霊が現れたんだ?」

「それを調べて欲しい」

「俺にってことは、つまり雷の精霊と交渉しろってことか」

 

 俺のスキルは魔物使い。そのスキルの中に、魔物と意思の疎通が可能なものがある。最初から会話なんてする気がないならともかく、理性があるなら俺は話をすることが出来る。

 多くの魔物はこの力で契約を進めた。

 

「まぁ、話は分かった。精霊か」

 

 正直、受けてもいい。精霊なんて希少な魔物と関われる機会はそうそうないからな。ただわざわざ港に現れた精霊なんて厄介事の匂いしかない。

 

「受けてくれる?」

「まぁ、いいだろう。分かった。その依頼受けてやる」

「ありがとう」

「ところで腹は減ってないか?  良いおやつスライムがあるんだが」

「おやつ・・・・・・!  食べる」

 

 

 

 

 無言で泣かれた。

 

 ーーーーーー

 

 一度王都まで移動し、そこでアリーザに絡まれたりもしたが突き放して2人で馬車に乗って件の港まで2日。野営もしながら港に近づくとその港周辺はそこ以外と比べると分厚い雲が覆っていた。


「凄いな。町ごと覆ってるじゃないか」


 町一つを覆う黒雲を作り出す、それだけで精霊の力が分かるというものだ。


「ん。怒ってる」

「あぁ、こりゃ激おこだな」


 とぼけて言うが、話を聞く事も難しいかもしれない。町の中に入るが、散発的に雷音が響くだけで町は閑散としていた。

 訓練された馬じゃなかったら町の中に入るのも難しかったかもしれない。


「先に騎士達がいるんだったか?」

「そのはず」


 馬車を進めると、鎧姿の騎士が前にやってきた。


「魔物使い殿!  宮廷魔術師殿!  お待ちしておりました!」


 雷に負けない大声で騎士が俺たちを呼ぶ。


「お前は?」

「はっ!  王国騎士第4騎士団副団長ハンク・ユーナスと申します!  ご高名な魔物使い殿に会えて光栄です!」


 暑苦しい。苦手なタイプだ。


「そうか。じゃあ早速だが状況を教えてくれ」

「はっ!  この町の領主が魔物使い殿にご挨拶したいと申しておりますが・・・」

「後でいい」

「わかりました! 現在精霊は海上に出現し海中に出現したリヴァイアサンと思わしき魔物と交戦しております! その余波で付近の魔物とこの町の船が4割ほど大破しております!」


 俺は隣にいる少女に振り向き、その頬を引っ張る。


「精霊だけじゃねぇじゃねぇか! 黙ってやがったな!」

いっふぁはこはかっはいったらこなかった


 どこかで無駄知識をつけたのか、小狡くなってやがる。俺たちと魔王討伐に言った時は言葉は少ないが素直なやつだったのに。

 少女ーーーー宮廷魔術師ユーナ・ツベルグの頬を離すと、無表情で頬を押さえる。


「まったく、それでなんだって精霊とリヴァイアサンが戦うことになんてなってんだ」

「はっ! どうやら邪教が関係しているようですが、詳しくは調査中です!」

「また邪教か。なんなんだそいつらは」


 同じかは知らんがろくでもないのは間違いない。


「どうも魔王崇拝者とやららしくて、何人か信徒を捕まえたのですが即座に自害しました」

「もっと違う事に命を使えよな。まったく。分かった。お前は領主の所に行って俺たちが来た事を伝えておいてくれ」

「はっ!  魔物使い殿は?」

「1度様子を見てくる。行くぞユーナ」

「ん」


 俺たちは馬車を降りて、徒歩で海に近づくことにした。



 

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