オーク②


 スキル・・・、あるいは贈り物ギフトと呼ばれるものは、ゲームでいうスキルと相違ない。先天的後天的問わずスキルは獲得出来、この世界の生き物に限らず、無機物にすら存在する。

 当然だがこの世界に来る前の俺にはなかったものだ。召喚された際に肉体の再構成によって付与された、らしい。俺を召喚したやつは禁術使用で捕まったので詳しくは知らない。興味もない。

 俺が持っていたのは魔物使い・・・・というスキルだ。このスキルからいくつかのスキルに派生し、その最終段階に人魔一体じんまいったいがある。

 これは契約した魔物との物理的な融合を果たし、魔物が持つスキルの変異すら生じさせる。今のところこれを使えるのは俺だけだ。その強さは融合する魔物によって異なり、魔物が強ければ強いほどに融合の効果は高くなり、普段は人より弱い程度の俺が魔王を倒した。


 ーーーー混沌悪鬼


 ゴブリンと俺が融合した姿。頭部に生えた二本の角に、十字の瞳、体格も一回りは大きくなっているだろう。皮膚も濃い緑に近い色合いになっている。

 俺はこの姿のまま走り出す。地面をエグりながら高速で移動し、集団戦の中に近づき一足で跳躍。大幅に飛んで着地の先にいたオークを踏み殺す。


「!  君は!」


 最前線まで飛んだ俺は、着地地点の近くにいたアリーザには声を掛けず、俺は再度走り出す。

 先にいるオークの間を潜り抜け、勢いのまま偉そうにふんぞり返る数メートル級のオークーーオークキングに飛び蹴りをかますが、瞬間に飛び出してきたオークの一体に阻まれる。

 手加減してしまったか、力が弱かった。


「ちっ、これでケリなら楽だったのに」

『ーーーー魔物が何故人に与する』


 オークナイト、オークパラディンの二体に守られながら、オークキングが声を掛けてきた。人語、というより頭に流れ込んできた。スキルか。


「魔物じゃなくて人間だからだよ。もっと言えばお前らがよその国に行くなら俺はそもそも出てこなかったさ」

『人間だと・・・?  そうか、貴様がの仰った特異点か!  グハハハ!  手間が省けたわ!』


 頭の中に笑い声を送るのやめろ、気色悪い。ていうか特異点ってなんだ。神とは、この世界に魔王を生み出すやつのことか?


「聞きたいことがあるが、まぁ答えないよな」

『特異点、貴様も勇者とやらも我が殺してやる。命乞いなどしてくれるよな』

「似たような事を前にも言われたな。そいつも俺が殺したが」


 オークキングが俺を指差すと、オークナイトとオークパラディンが俺に向かって剣を振り下ろす。剣というより鉄塊だな。マトモに当たれば即死だろう。


「俺以外が相手だったらな」


 振り下ろされた鉄塊のごとき二本の巨大な剣を、俺は両手で片方づつ掴む。衝撃が辺りに広がるが、ナイトとパラディンは掴まれた事と動かない事に動揺を見せる。


「グオ?!」

「力自慢か?  もっと気合いいれるんだな」


 必死に動かそうとするが、微動だにしない。力の差がありすぎるのだ。

 実はゴブリンとの人魔一体は初めてなのだが、十分にいけそうだ。


『何をしている!  さっさと殺せ!』

「そりゃ無理ってもんだ」


 俺は剣から手を離し、ナイトに勢いを込めた蹴りを、その流れでパラディンの腹部を殴りつける。両者の腹部が破裂し、内蔵を後方に撒き散らす。オークの数倍程度、少しでかい程度ではこんなものだろう。


「グォオオオオ!!」


 ナイトとパラディンの死に、キングが雄叫びを上げて動き出す。それを合図に、周囲にいたオーク達も襲いかかってきた。


「上等!」


 ーーーー人魔一体:形態変化


「混沌悪鬼・剣魔」


 俺の両腕が剣状に変化する。その1振りでオークの数体を狩り、もう一振で更に数体。連撃を行い周囲を一掃する。


『馬鹿な!  我が軍団が!』

「この程度なら俺が来る必要もなかったか?  いやでも数は多いしなぁ」


 かつての魔王を思い出して、その落差に肩を落とす。アリーザとその他でどうにかなりそうだったのだ。こんな事ならわざわざ来るんじゃなかった。


『おのれ、特異点!  ニンゲンガァァァアア!!』


 オークキングが俺に向かって剣を振り下ろすが、その間を縫って飛び上がりその頭を斬り落とす。


「・・・・・・帰るか」


 周りにはまだオークがいるが、まぁアリーザなら大丈夫だろ。


 そういえばなんか忘れてるような・・・・・・。


 ーーーーーー


「うぉぉおおお!!」


 迫り来る大剣を、アリーザは気合いの言葉と共に弾き返す。辺りには衝撃波が生じ、その剣の威力を物語っていた。

 アリーザの対面にいるは豚の様な頭部に、2メートルはあるだろう巨躯のオーク。ただしその皮膚は黒く変色し邪悪な瘴気を纏っている。

 魔王種が魔物の終着点と呼ばれるのならば、それは突然変異ーー災厄の名を冠する魔物、オークディザスターだ。


「グォォオオオ!!」


 咆哮が大気を震わせ、オークディザスターの纏う瘴気が周囲に広がる。その瘴気が近くのオークに触れた瞬間、その魔物に奇妙な紅い線が走り、瞳が赤く染まる。


「っ!  狂化か!  全員瘴気には触れるな! 下がれ!」


 アリーザの言葉に、周囲の騎士や冒険者は後ろに下がる。ディザスターが持つ瘴気は生者にに影響を与える。狂化という現象だ。

 ディザスターという希少性を考えればこの現象を知るものは少ない。魔王自体本来数百年に一度の存在であり、それを産まないために禁術を禁術として取り扱っているのだから。

 狂化した魔物は残った理性を吹き飛ばし敵味方の区別なく暴れ回る。それは人間が狂化した場合も同じである。

 ただし、狂化を防ぐ方法もまた存在する。


「ーーーー聖域サンクチュアリ


 地面に剣を刺し、アリーザはスキルを発動させる。

 聖域サンクチュアリ。瘴気の無効化、弱体化を行う領域を展開する勇者の派生スキルだ。


「グオオ・・・」


 瘴気を弱体化させた事で、オークディザスターがたじろく。何をされたかは理解しているようだ。


「私は勇者だ!  災厄如きが私の前を阻めると思うな!」


 勇者の聖域と、おぞましいオークディザスターに怯まない様子に他の騎士達や冒険者達が勢いを盛り返す。


 これより数分後、オークディザスターは討たれる事になる。

 その先でオークナイトとパラディン、キングが殺されている事、また謎のオーガ・・・の変種みたいな魔物を見たという謎を残して王国史に残る魔王種の討伐と勇者の新たな功績に王国中は沸き立つ事になる。



 ーーーー


「君、君キミ、やっぱり私が心配だったんだろう?  もー、素直じゃないなぁ!  つんでれってやつかいキミ」


 1週間ほどが経った。またアリーザがやってきてはニッコニコなのだ。

 正直鬱陶しい。


「用がなければ帰れ」

「まったく素直じゃないなぁ君は。しかしけいやくしている魔物がいないという話だったけどどうなってるんだい?  新しく契約したのかい?」


 完全にバレている。まぁアリーザは俺のスキルを知っているから、見た目と違っても分かったのだろう。


「いるだろ、ゴブリンが」

「ゴブリンってあの子かい?  君のスキルは魔物が強くなくちゃダメなんじゃなかったかい?」

「こいつしかいないと言ったが、こいつが弱いとは言ってないだろ。こいつはユニークの魔物だ」


 俺はゴブリンを指差す。ユニーク個体。魔王種や災厄の名がついた魔物よりも格は落ちるが、それでもただの魔物とも違う。こいつもまた特別なスキルを持って生まれている。

 いざと言う時の切り札だ。全員を契約から解除する前にこの森で瀕死のところを救い、こいつの意思で契約をしてる。


「ユニークか。なるほど。・・・今君は王都でも有名な、魔王種を越えた魔物なんて呼ばれてるよ。下手すれば今度は君の討伐依頼が来そうな勢いだが、国王がそれを押し止めてる。説明する気はないようだけど」

「一部は俺のスキルを使った姿を知ってるからな。隠し通してくれるならありがたいが」

「今のところは大丈夫そうだけどね。ところで君」


 妙に真剣な表情で、アリーザが俺を見る。


「私との結婚はーー」

「帰れ」

「えっ、ちょっと!  いい加減私も結婚したいのだけど!  君も私が好きだからーーーー」


 妄言をいい切る前に、家から追い出す。


「入口に塩でもーー勿体ないからやっぱなしで」


 家の外からアリーザの声が聞こえるが、無視し続ける。

 しばらくして静かになった。


「・・・・・・ありがとう。君はまた、私を守ってくれたね」


 扉越しに、小さな声が聞こえた。


「ふんっ、今度は茶菓子でも持ってこい。じゃないとまたスライム寒天を食わすぞ」


 俺もまた扉越しに声を返す。

なんとなくだが、アリーザが笑った気がした。



 

 

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