夢でよかった
「はっ!」
あまりにも心臓に悪い出来事に、過呼吸気味で目が覚めた。
視界には天井の薄青い照明と、ベッドに接した手の先にシーツの感触があった。
さっきのは夢か?
自分がホテルのベッドで仰向けの状態だと気が付くと、先ほどまで見ていた悲劇の光景が夢であったと知覚する。
夢でよかった。
地震に遭い、早那を庇って意識を失う――。
現実でも起こりえる内容だった。
もしかしたら夢の中で俺は死んだのかもしれない。
夢であることを確かめるために大きく呼吸をする。
夢で感じていた背中から肺にかけての痛みはない。
地震が夢だと確信できて胸を撫でおろした。
「タチの悪い夢だな」
安堵の息と一緒に漏らす。
睡眠中に見る夢は覚えていない、というのが通説だがあれだけ衝撃的な内容だと記憶に否応なく残ってしまう。
呼吸も落ち着いて人心地がつくと、寝汗でパジャマが湿っているのが気になった。
あんな心に堪える夢を見れば寝汗もひどくなるか。
発汗量が多かったのか喉の渇きも急に感じてくる。
夢が悲劇的過ぎて眠気も吹っ飛んだな。
ベッドから降りて部屋の照明を点け、部屋の隅に設置されている保冷庫からペットボトルを取り出した。
ペットボトルの中の水を飲もうとしたが、人差し指の第一関節よりも浅い量しか残っていない。
一口飲んだら終わるな、これ。
それでも喉の渇きに抗えず、僅かな残りを飲み干した。
一瞬だけ喉が潤う感覚があるも、まだ足りない。
水分が欲しい。
至極原始的な欲求に自身で苦笑いしながら保冷庫を閉める。
保冷庫にストックがない以上、買いに行くしかない。
確か、ホテルの端まで行けば自販機コーナーがあったはず。
「仕方ないか」
自販機まで行く、という皮肉にも夢の中と似たような状況になっている。
違いは早那が隣にいないことか。
どうせ寝られる気もしないからな、と理由をつけて俺は飲料水を買うために部屋を出た。
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