エピローグ

私はガイドマップのとあるページをじっと睨んでいた。そのページには十二番焼山寺から十三番大日寺までの歩行ルートがいくつか示されている。私が実際に選んだ二十二キロの遍路道には「十三番への最短ルート」という注記が付されていた。数字の上では最短でも、鍋岩から玉ヶ峠を越えるこのルートは、ほかの選択肢と比べて歩行時間を短縮してくれる訳ではないのだと私は知っている。


この遍路道の最後の八キロを、私は歩いていなかった。


去年の春、初めてのお遍路での三日目、私は焼山寺の遍路ころがしと玉ヶ峠越えで体力が尽きてしまい、その晩に泊まることになっていた宿のご主人に電話を入れて車で迎えに来てもらったのだった。


歩き遍路は文字通り、自分の足で歩いて四国巡礼を行なうのだが、歩き方に関する考え方は一人ひとりのお遍路さんでだいぶ違う。


最初の春に出会った青年は、電車やバスなどの公共交通機関は使わないと決めていたが、地元の方から車で札所まで送ってくれるという「送り接待」の申し出があれば、喜んで車に乗せてもらうと言っていた。冬に出会った一人のお遍路さんは区切り打ちで、前回打ち止めにした明石寺と今回打ち始めた大寶寺の間は歩かないと言っていた。そして、最後の春で長い道のりを共に歩いたデンマーク青年は、「つまらない」区間はヒッチハイクやバス、電車を利用しながら柔軟に回っていた。


私自身は大日寺までの八キロをのぞけば全ての区間を歩いていたが、宿泊の都合で、すでに歩いた区間を行ったり来たりするのに電車やバスやタクシーを利用していた。だから、純粋な歩き遍路とはやはり少し違うのだった。


結局、歩き遍路だからと言って、全ての区間を完全に歩き通すことに固執する必要はないのかもしれない。そもそもお遍路自体、こうと決まったやり方がある訳でもないのだ。大日寺までの八キロは車を利用したが、それは私の歩き遍路を構成するひとつの要素なのである。


私はガイドマップを閉じた。足かけ一年にわたる私のお遍路は終わったのだ。


もちろん、次に歩く時にどうするのかはまだ分からない。

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四国巡礼日記~経済学者、お遍路をゆく~ 土橋俊寛 @toshi_torimakashi

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