第23話 脅してきたんだ

 三人目に目を付けたのは、今までの成人済みの女二人と違い未成年の女子高生だった。黒髪ではあったが、母とは違う雰囲気をまとっている女だ。向こうから告白してきたため、女性への対応の練習台にすることにした。


「あのっ……いつも一生懸命働いている貴方の姿がかっこよくて! まだ高校生ですけど……もしよければ私と付き合って下さい!!」


 そう頬を赤く染めている女を目の前にして、いつも通りの作った態度で対応してやる。


「こんな僕でよければ喜んで」


 その言葉に効果音が出ているのではないかというほどの笑みを浮かべ、"ありがとうございます"と言い、連絡先を交換して帰っていった。案外、あのように崇められるような対応をされるのは悪くないものである。だが、本当に俺の周りの女というのはチョロいなと思ったのは心に止めておく。


 取り敢えず前回、前々回以上に周囲に関係性を悟られないようにしなければ。なにせ相手は未成年であり、親公認の仲でもない。バレれば、世間から向けられる視線がとても冷たいものへと変わることなんて目に見えている。向こうの恋愛ごっこに付き合ってやっているだけだというのに、そんな視線を向けられるのはごめんだ。後、単純に前回、前々回の殺人もバレかねない。


 それにこの女も殺して関係を消す予定で付き合っているのだ。視線は少ないにこしたことがないと、きっと誰もが思うだろう。これは俺の勝手な願いだが、せめて捕まるなら母さんの代わりを見つけてからにしたい。俺が認め、俺が納得した母さんの代わりが自首するように言うのなら、俺は喜んで自首をする。


 この女が今までの女と一番違っていたのは、今の関係に酔いしれているということだろう。俺のことを本気で好きになっているのか、はたまた年上彼氏というものに対して感情を抱いているのか。どちらにしても、俺には理解が出来ない。


 普段の三つ編みに丸眼鏡をつけた大人しい人物に見える女。そのくせ、気になったことは質問せずにいられないようで、二人だけの時はよく喋ったり質問したりを繰り返していた。いじめ等ではないが学校でいつも一人なようで、溜まった貯金を崩すように俺に吐き出す。


 会話の中には、俺のことを深く知ろうと探りを入れることもあった。直球に聞いてもかわされると分かっていたからこそ、そんな回りくどいことをしたのだろう。だが、探りを入れるのが下手過ぎて簡単に誤魔化せてしまった。どうせ探りを入れられるならもっと高度な駆け引きをしたいものである。


 そんな負の感情しか抱いていなかったせいか、この関係もたった三週間ほどで終わってしまった。コスメ等を俺の家に持ち込み、化粧をした後の顔を見せつけ、感想を求めてくる。当たり前だが、母さんはこんなんではない。反吐が出る。だが、女はそんな俺の気持ちに気付かずに腕を絡めようとしてくる。


 ついに嫌悪感が限界に達し、今にも首を絞めそうになった。しかし、このままでは証拠が残ってしまう。僅かながらに機能している理性が、そう語りかける。いくら俺自身が警察だろうと、証拠隠滅には限界がある。出来る限り最初から残したくなんてないのが本音だ。


「僕はいつもの顔の方が好きだよ」


 思いもしていない、口から出まかせを言う。女は、少し浮かれた様子で洗面所へメイクを落としに向かった。その隙に、俺は台所から手袋をつけた状態でナイフを用意し、洗面所へ向かった。そして、まだ完全にメイクが落としきれていない女を風呂場に入れ、刺し殺した。終始絶望と困惑の入り交じった感情をしていたが、案外見ものであった。


 三回目となると慣れるもので、連絡先等の関係性が辿れるもの、推測できるものの削除を簡潔に済ませる。そして、いつも通り山に捨てる。これで今回も終わりだと、そう思っていた。しかし、ここは小説の中のように上手く行かなかったのだ。


 死体を捨てて三日後のパトロール中、俺はとある一人の男に絡まれた。その男は、微かに甘ったるさを感じさせる臭いを放ちながら、ずいぶんと偉そうな態度をとっている。突然話しかけられたと思ったら……これは厄介事に巻き込まれそうだと本能が訴えている。


「ここじゃあれだ。裏で話そうぜ」

「なんの用ですか? 今仕事中なんです。なんならここでお聞きしますよ」

「仕事中……ね。まあ良いだろ。それに、人に聞かれない方が互いのためだぜ?」


 下賎な笑みを浮かべながら、俺の肩を掴んで離さない。聞かれない方が互いのため。その言葉に少し興味が湧いて、少し離れた客の多いファミレスへとやってきた。席に着くと、互いに何も注文せずに本題へ入る。


「実は見ちゃったんだよなぁ~。アンタが人を埋めてるとこ」


 その言葉に、一瞬動きが鈍くなる。あぁ、面倒な仕事がまた一つ増えた。取り敢えず話を聞いていく。男は暴力団の組員らしいが、本人曰く破門されかかっているのだそうだ。俺が反抗しないだろうと過信して、こんなにも情報を垂れ流している。だから破門になりかかるんだろうがという言葉は喉の奥までしまいこむ。


「何が望みだ?」


 そう言ってやると、男は目に見えて調子にのり、話し始めた。人が多い場所、しかもファミレスを選んで正解だったようだ。周りは自分の話や身内の話に夢中になり、こちらの会話なんかに興味を持っている人はいないに等しいからな。


「話が分かるようで……お宅らが他所で回収したヤクあるだろ? あれ寄越せ」


 その発言で、男からの臭いが大麻の臭いであると察した。この男はその他所の薬を他で売るつもりなのだろうか。それとも、自分で使うのだろうか。正直両方だと思いつつ、試しに聞いてみる。


「何に使うつもりだ?」

「なに、組の地位を上げるだけだ」


 こうやって簡単に情報を渡すから破門になりかかるのではと本気で思った。ここまで以外にも長々と離したが、結局は俺が薬を渡すということで話がまとまった。渡す場所は、山の上の方にある廃寺ということにし、解散する。


「いやぁ~俺は運が良いなァ! じゃ、よろしく頼むぜ?」


 そう言って意気揚々と去っていく男の後ろ姿を眺める。あいつはどうやって殺そうか。女を三人殺した時よりも、時間や気持ちの余裕がある。ゆっくりと探して殺せば、またスムーズに代わり探しを再開できるだろう。だが、一応事件現場となる廃寺には、何回かいってみた方がいいだろう。


 あの男には手に入れるに時間がかかるという嘘をつき、二週間という時間を手に入れたので、殺す準備は着々と進んでいた。実際に廃寺へと行ったりもした。しかし、そこで問題があった。女子高生が一人、廃寺にやってきていたのだ。


 三人目の女とは違う制服を着ていたので、関係者等ではないだろう。そんな茶髪の女子高生は、どこかで見かけたことがある気がした。脳内から情報を読み取る。そうだ、思い出した。駅で黒髪の女と二人で歩いていた女だ。間違いない。だが、このままだと俺はただの不審者であるので、物陰に隠れ、息を潜めることにした。


 あの女の後を追えば、また黒髪の女の少女に会えるのではないかという考えが生まれる。母さんの代わりになるか全く分からないが、自分の目で確かめるにこしたことはないだろう。


 俺の本来の目的は、頭の隅に弾き飛ばされた。さっそく女の後をつけ、一緒にいた黒髪の女を見つけるとするか。俺は運が良い方である。だからこそ、今回も上手く目的を済ましてしまおう。

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