第33話 私のせいで
少し間を空け、私が落ち着いてきたのを見計らって瀬里は優しく言葉を続け始めた。
「土日に起きた不可解な事についてって聞いても大丈夫かな?」
何か策でもあるのだろうか。そう思い、思い付く限りの不可解な現象について話すことにした。といってもその現象の数が多いわけではないけど。一通り話すと、瀬里は少し考えた後また優しい声で私の目を見て話し出した。
「柚、それ多分ストーカーとか見間違いじゃないかな。呪いの類いじゃないよ」
呪いではない。その言葉を聞いて安心した。瀬里は神とかではないから間違えることもあるかもしれない。でも、私は博識な瀬里がそう言っているなら間違いない。自らそう思い込むことにした。自分を安心させるために。
そして私は瀬里の家まで送っていくという言葉と、一緒にお父さんの形見を探しに行くという言葉に甘えることにした。これ以上親友に迷惑はかけたくないのについつい頼ってしまう。あぁ、瀬里に嫌われたくないな。
私は瀬里に少しでも恩返しをしようと、放課後職員室へと向かう瀬里のノート運びを手伝った。ついでにある人にも会いたかったし。そうして職員室の扉を勢いよく開ける。もちろん自分の名前とクラスを言うのを忘れずに。
「二年A組の波切です! 末兼先生に用があって来ました!」
そう言い職員室内を見ると、そこには末兼先生の姿があった。私はまた大きな声を出した。
「先生! ノート持ってきました!!」
先生の中にはうるさそうにしている先生もいたので申し訳ない。心の中で謝っておこう。
末兼先生は私達に気がついてくれたようだ。瀬里と一緒にノートを渡す。末兼 靖先生、私が会いたかった先生だ。末兼先生は二年連続で私の担任をしてくれていて、私が最下位の時も優しく励ましてくれた恩人だ。
「ノートありがとう。二人ともご苦労様」
私はそんな末兼先生が好きだ。瀬里とは違ってこの好きが恋愛的な意味かは分からないけれど、大好きである。でも末兼先生が好きという女子は何人もいる。あの四人の中にもだ。だから、隠そうと思う。
しかし今はせっかく三人でいるのだ。どうせなら少しだけでも何か話せないかと思っていた矢先、瀬里が一足先に職員室から去ってしまった。
「すみません。私はもう失礼します」
少し寂しいが、行ってしまったものは仕方がない。私は末兼先生と二人で少し雑談をした。最近テストの点が上がっただの、最近どんな本を読んだみたいな話だ。しかしあんまり長居をしては行けないと思い、私は最後に質問だけすることにした。
「先生は廃寺の怪異って信じますか? 」
何気に気になっていたことだ。私は信じて行動したが、末兼先生はしんじているのだろうか。そんな私をよそめに、末兼先生は少し考えてから答えを教えてくれた。
「実のところあんまり信じてないかな」
私とは違う考えを持っていた。そうか、信じていないのか。取り敢えず私はありがとうございますと言い残し、職員室から去った。
次の日、暗い雲に見守られながら再び廃寺へと向かう。荷物は何かあっても良いように貴重品だけ持って、後は学校に置いてきた。元々置き勉なので、この前帰ったとしても鞄があるか無いかの違いだ。
無事に見つかるかという不安と、あの不気味な場所に行かなければという恐怖に陥る。しかし、途中で瀬里に形見の形について質問されたことによって我に返った。そうだ、言わなければ始まらない。
「小さい頃お父さんと二人で組紐の体験に行った時に、私のお守り代わりにって作ってくれたやつなんだけどね。色は暗い赤色で──」
続きを言おうとした時、近くの木から音がした。思わず瀬里に抱きついてしまう。もしかして怪異か何か? 頭がパニックになる。
「えっ、何々?!」
「もしかして……あの鳥かな?」
瀬里の冷静な対応のおかげでなんとか落ち着いた私は、瀬里がさした方向を見た。そこには本当に鳥がいたのだ。
「鳥でよかった……」
思わずそう呟いてしまう。そして私達はまた廃寺へと足を進めた。少し長い道のりなので、二人で雑談しながら歩いていく。そうして廃寺へたどり着いた頃には、結構な時間が経っていた。
取り敢えず二人で手分けして探すことになり、私は思い出せる限りの場所を探してみたが見つからなかった。残すところは本堂の中だけだ。私が中に行こうとした時、瀬里はもっと奥の方へと行こうとしていた。
あっちには何があったかと思いつつ、本堂の中をスマホのライトで照らす。角から角までゆっくり落ち着いて探すと、お目当てのブレスレットが落ちていた。こんなところにあったのか。安心感が私に戻ってくる。
取り敢えず、瀬里に見つかったことを言いに行かないと。そう思い本堂を出ようとすると、外に人影が見えた気がした。まさか、今度こそ怪異がと思いつつ、音を消した状態でスマホだけ外に出し、数秒だけ動画を撮ってみる。
その動画に写っているのはガラの悪そうな男の人だった。首元に傷があるに加えてお酒によっているのか、少しふらついた歩き方をしている気がする。そして、この男の人は瀬里のいる方向へと向かっていっていた。嫌な汗がでる。
私はとっさに本堂からでて、男の人が行った方向へ向かった。そこにあったのは、小さく見える洞窟だった。おそらく瀬里はあの中にいるのだろうと察し急いでスマホのライトを照らすと、瀬里と男の人がいた。あれは、危険だと私の勘が言う。
「瀬里ッ! 後ろッ!!」
私はありったけの声と共に、足元にあった少し大きめな石を、出せる限りの力で投げた。石は男の人の頭に命中したようで、鈍い音と共にその場にうずくまっていた。私は、固まる瀬里に向かってまた叫ぶ。
「瀬里! 早く逃げて! 早くッ!!」
瀬里は状況を把握できたのか、急いで男の人をこえて私の方へと走ってきた。だが、突然男の人が瀬里の足をつかんだせいで瀬里は倒れてしまった。助けないと、助けないとと脳内が動いている。そんな私に、今度は瀬里が叫んだ。
「いいから! こっち来ないでさっさと先に行って! 早くしてッ!!」
普段はそんな表情も、声も、口調もしない。そんな様子になるほど、私に離れてほしいんだと察するのは簡単だった。そして私は、恐怖心と親友の言葉で、この場を走って逃げ出してしまった。何も出来ない私が、ただただ悔しかった。
空は先程よりも暗くなり、天気が危うくなってきていることを察した私は偶然止まっていた市内経由のバスに乗り込んだ。貴重品を持ってきて良かったと思う。駅で待っていれば、瀬里は後からやって来てくれるんじゃないかと思いながら、私はバスに揺られた。
そうして駅にたどり着いた頃には雷が鳴り響き、雨も酷くなっていた。瀬里は、果たしてくるだろうか。不安が頭を支配する。やはり助けるべきだった。そう後悔の念に苛まれながら駅にあるベンチでひたすら待った。
しかし、いくら待っても瀬里は来なかった。私は、最後の希望と言わんばかりに瀬里のスマホに電話をかけた。呼び出し音が鳴るなかで、心の中で必死に出てくれと連呼する。すると、その願いが叶ったように、瀬里が電話に出たのだ。
「はい、もしもし」
「瀬里?! 大丈夫? 今何処にいるの!」
思わずそう勢いよく聞いてしまう。芹橋、そんな私とは対照的に、やけに落ち着いているようだった。そうして、次に聞こえた言葉は私が思っていたものとは違った。
「ごめん。実はもう家に帰っちゃったんだ。柚は何処にいるの?」
「駅にいるよ。高校の最寄りの」
そうして、普通に会話を続ける。無事そうで本当によかった。もし瀬里に何かあったのなら、私はどうにかなってしまっていたかもしれない。
「本当に大丈夫? 無事? 怪我はない?」
「大丈夫だよ瀬里。落ち着いて?」
ついには私が落ち着くように言われてしまった。しかしそれほど心配で、それほど無事で安心したのだ。少し許してほしい。
「それはそうと……瀬里を置いて逃げてごめんなさい。怖くて……なんて言い訳にしかならないけど、謝りたいの」
「大丈夫だよ。誰だって怖いものは怖いし」
本当に瀬里は優しい人だと思う。私はもう一度謝ると共に、少し気になったことを質問することにした。
「本当にごめんなさい。……あの後どうなった?」
すると瀬里は"思いっきり蹴飛ばして逃げてきたから大丈夫。まあ慌てて逃げちゃったんだ"と言っていた。良くできたなと思いつつ、互いを安心させるように話を続ける。しかし、あんまり時間を取ってはいけないと思ったが私は、適当なところで区切って、明日また会おうねと言って通話を切った。
「無事でよかった」
通話を切る直前、無意識に口から出た言葉は、果たして瀬里に届いたのだろうか。
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