第7話 騒ぐ男子とお呼び出し
その一言に一瞬身体が固まる。まさか例の連続殺人の被害者でも見たというのか? それとも事件の被害者がこの高校の生徒だったのか? この男子……確か名前は高村だったはずだ。高村は私が聞く前にその時のことを話してくれた。
「ほら、俺って家が学校から近いから自転車登校だろ? 今朝いつも通り河川敷んとこ通ってたらさ、橋の下に人が倒れてたんだよ」
河川敷か。恐らくいつもバスで通りすぎるところだろう。高村が自転車登校だったのは今知ったのだが。荷物を自分の机に置く私に高村は続ける。
「んで、最初はホームレスとかかなーって思ったんだけど違くって。男の死体だったんだよ!」
「成る程」
適当に相槌をうったが、ふと違和感を覚える。高村は男の死体といったのだ。その言い方だと、私の予想は全て外れた事となる。連続殺人の被害者だったなら女性のはずだし、それと関係なくただ単に被害者がこの高校の生徒でも男なんて言い方しないだろう。中には言う人もいるのかもしれないが。念のため、高村に被害者について聞いてみる。
「その人ってこの高校の生徒だったりしたの?」
すると高村は"いやいや"と顔の前で手をふった。
「違う違う! 既に成人してた男だったよ。なんというか……ここだけの話どっかのチンピラみたいな服だったけど」
後半の言葉が声を潜めて発せられると、丁度教室に先生がやって来た。高村は"また気になることあったら教えてやるよ"と言って自分の席へ戻っていった。全員が席に座った時点で朝のホームルームが始まり、担任が朝の連絡を一つ一つ伝える。
「最後……近くで何か事件があったようだがあんまり関わるなよ。噂になってる廃寺に行くのも止めとけ。最近この辺は物騒だからな」
そう言って先生は教室を出ていく。教室は再び賑やかになり、これでは勉強を始めたとしても集中出来ないだろう。せっかくだから高村に先程の第一発見者ということについて聞いてみよう。早めにホームルームが終わったことで次の授業まで何時もより時間が開いているから、時間にも問題ないだろう。
「高村君、さっきの第一発見者になったって話もっと教えてくれない?」
丁度一人であった高村に声をかける。高村は少し驚いたような顔をしてから笑顔になり、うきうきでこう返してきた。
「おっ! いいぜ。でも珍しいな、神出がこんな話に興味持つなんて」
そう思われるのも仕方ないだろう。いつもなら単語帳や参考書等でこの時間を潰しているのだから。勿論、声をかけられたり話を振られたら返してはいる。そのせいか、このクラスでの人間関係は悪くない。このクラスの人物たちが一定の学力を越えているため、理解があるというのもあるんだろうが。
「先生がさっき物騒って言ってたから少しでも周りで起きたことにもっと目を向けてみようと思って」
本当はただ単に興味本位であるが、それでは信じて貰えないだろう。それに、今言ったことも嘘ではなく本心である。高村は特に気にせずそうなのか位の反応をした。
「俺が橋の下で死体見つけたって話はさっきしただろ? あの後警察呼ばなきゃって焦って焦って。そしたら運良く警官が通りかかったらしくて声かけてくれたんだよ。パトロール中だったんかな?」
高村は随分と運が良いようだ。でもその状態を見られたら犯人だと疑われるのではないだろうか。
「急に後ろから声かけられてびっくりしたんだけどさ、その人直ぐに対処してくれたから助かったよ。ちょっとその死体不気味だったし」
「不気味って?」
高村は先程以上に声を潜め、神妙な顔立ちのうえ"これその警官からあんまり言うなと言われた"と前置きをした上で話した。
「実はさ……ボッコぼこに殴られたらしくて頭とか手とかが傷だらけだったんだよ。一応その警官いわく死因はナイフで心臓をひとつきらしいけど」
相当その被害者は恨まれていたのだろう。高村もチンピラみたいな服だったというし、あり得ない話では無いだろう。担任が言った通り、本当に物騒だ。
一時限目の化学で末兼の話や黒板の内容をノートにまとめた時、ふと昨日の出来事を思い出す。正直あの時は慌てすぎて断片的にしか覚えていないが、私は怪異を無性に石で殴った。朝高村に聞いた死体も殴られた痕があったのも思いだし、ノートを書く手が止まる。
「ん? どうした神出。質問か?」
「いえ、なんでもないです」
末兼からの急な問いに対して反射的にそう返す。いつもこのような時は質問をしていたので今回もと思ったのだろう。授業が再開されると、先程のことについてまた考え始めた。実際はそんなこと無いのだろうが、その事件に加担しているように思えてしまったのだ。私が殴り、誰かがその後にナイフを……のように。ただその死体があった場所も違うし、高村はただ殴られた痕としか言っていなかった。その痕は素手で殴られていたっておかしくない。何はともあれ、早く犯人が捕まってほしいものである。私は再びノートを取り始めた。
昼休み、私は末兼から職員室に呼び出された。今まで呼び出す時は用件を先に言っていたが、今回は教えてくれなかった。ただ忘れただけかもしれないが。柚に今日は一緒に食べれないことをと告げると、"分かった"と返してくれたので早速職員室へと向かう。柚は二、三時限目の間に昨日先に帰ったことを改めて謝ったり等していた。ただ高村の話は柚のクラスにも伝わっているそうで、柚は"どこも物騒"とぼやいていた。話を聞いていると、どうやら柚も私と同様に昨日の事件と高村のいう事件はなんら関係ないと思っているようだ。やはり先程の授業で一瞬感じたことは私の勝手な妄想劇だと感じた。
職員室へとつくと、先生方が授業から戻ってきたり資料をまとめたり等と忙しそうに出入りしていた。
「失礼します。二年A組の神出です。末兼先生に用があってきました」
そういうと末兼が自分の席へと手招きしたので歩いて向かう。目の前まで行くと末兼は少し厳しい表情をした。何かやらかした覚えはない。唯一あるとすれば昨日開名寺に言ったことだろうか。数秒の沈黙の後、末兼が口を開く。
「神出、最近お前何か相談事とかないか」
「相談事ですか?」
末兼の問いに思わず聞き返す。人に相談することなんてないし、あったとしても苦手な末兼に相談するのは気が引ける。そもそもなぜ急にそんなことを聞いてきたのだろうか。今日だってほぼいつも通りに過ごしていたはずだ。
「例えば……親御さんのこととか、勉強のこととか。何かないか?」
良く聞いたりする世間一般の基準で言えば両親のことは相談するべきことなのだろう。しかし私にとっては最早諦めているし、なんなら特に気になっていない。勉強のことに関しては今のところだが悩みは無い。今の学力なら志望校だって合格範囲内だし、定期テストの順位はトップを維持できている。何はともあれ、私が末兼に相談することは本当に無いのだ。
「特に無いですね」
「そうか」
末兼は少し悲しそうな顔をした。何故そんな顔をするのか良く分からなかった。
「わざわざ呼び出して悪かったな。戻って良いぞ」
「分かりました」
さっさとこの場を離れてお昼を食べに行くかと考え、身体の向きをかえて出口へ向かう。その時、丁度末兼の隣の席に座っていた金原が立ち上がったため、思わずしりもちをついてしまった。
「大丈夫かい?!」
「おっと……神出さんすまん!!」
「いえ、こちらこそすみません」
金原は資料が一部少し離れたところへ飛んでいったらしく、私に声をかけると回収に向かった。それを横目に少しよろけながらその場を立ち上がると、ポケットからなにかが落ちてきた。昨日拾ったブレスレットだ。そういえばポケットに入れっぱなしだったなと思っていると、末兼がそれを拾い上げた。
「綺麗な組み紐だね。大切にしなさい」
「ありがとうございます」
わざわざ拾ってくれなくても問題なかったのだがと心のなかでぼやきつつ、感謝の言葉をのべて今度こそ職員室を去った。
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