第8話
あの日以来、澄佳に会うのはなんだか気まずくて、会うことも連絡すらも取っていない。
澄佳、今何してるかな。彼氏と一緒にいるかな。彼氏の誕プレはうまく買えたのかな。もう何回デートしたのかな。もしかして、彼氏とエッチしたのかな。
ふとした時、いつも考えるのは澄佳のことで。
私の生活に澄佳がどれだけ溶け込んでいたのか、私が澄佳にどれだけ
ピリリリリリリ。
突然、スマホの電話と知らせる音がし、私を現実へと引き戻す。
急いで確認すると、ディスプレイに浮かんだのは「澄佳」の二文字。
なんで、どうして、なにかあったの、私に何の用。
なんて疑問が頭にポンポン浮かんできて2秒ほどフリーズしていたけど、この機会を逃したら澄佳との縁が切れてしまうと直感的に思い、スマホを耳に当てた。
「はい」
無意識に声が震える。
「あ、まのちゃん? 突然ごめんね」
「いいよ」
「えっと、ちゃんと話しておきたいなって。あの日から2週間くらい経って、お互い落ち着いてきたころだと思うから」
「うん」
「まのちゃん、ごめんなさい。私、彼氏の話ばっかりで、まのちゃんのこと考えられてなかった。浮かれてたの、ごめんなさい。自分の話ばっかして」
ぽつりぽつりと澄佳が紡いだ言葉が、私の耳にすーっと溶けていく。
そうじゃないよ。澄佳に怒ってないよ。
私はただ、澄佳の彼氏に嫉妬してたの。
私から澄佳を奪わないでって、澄佳のそばにずっといたのは私なのに、どうしてぽっと出のあなたが選ばれるのって。
やめてよ、奪わないで。消えてよ、今すぐいなくなってよ。澄佳の隣が許されるのは私だけなのに。
気持ちが高ぶってしまい、いつのまにかスマホがキリキリ音を立てるほど、強く握りしめていた。
「まのちゃん?」
何も言わない私を不審に思ったのか、心配する澄佳の声がする。
「あ、大丈夫。私は__」
「澄佳のことが好きで、彼氏に嫉妬してたんだ」
そんな言葉が喉元まで出かかる。それはもう諦めたはずでしょ。
「__彼氏がいる澄佳がうらやましくて、八つ当たりしちゃっただけ。私の方こそごめんなさい。澄佳は悪くないのにね」
子供の頃、その場任せの都合のいい噓をつく、この口が嫌いだった。
自分の考えていることとは裏腹に、相手や自分にとって都合のいいことばかりこの口はしゃべりだす。
このせいで、何度人が離れていったことか。
でも今は、心底感謝している。
「ほんと? ほんとに!?」
「こんな場で嘘つくわけないでしょ。ほら仲直り、ね?」
「うん! 大好き、まのちゃん!!」
プツン。
電話を終えた私は、近くに会ったソファーに倒れるように寄り掛かった。
大好きね……。
澄佳はなんてことない一言だと思って言ったんだろうけど、その一言が私をどんなに傷つけるか。
こんなにつらい恋なら、いらないよ。
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