第04話 天才少女は青褪める
2.
近未来都市『スマートシティ』に向けて飛び立ったが、簡単に行けるわけではない。
アラディア魔法学校から近未来都市『スマートシティ』までの旅は二十時間を超える。それは二度の乗り継ぎで発生する待ち時間も含めたものだが、結構な長旅である。
この最中にトラブルがひとつも起きなかったといえば嘘になるが、およそ時間通りの移動だった。
トラブルというのも、鳩原にしてしまえば飛行機に乗ったときに起きるよくある体調不良だったので、普段通りだったが、オリオン・サイダーがまあまあ慌てていた。
鳩原とオリオンは朝早くにアラディア魔法学校を出て、バスと鉄道を乗り継いで、一時間ほどかけて都市圏にあるL空港まで移動した。搭乗してから予定より三十分ほど遅れて飛行機は離陸した。
最初のうちはオリオンと
L空港からK空港までの一時間。
そのほとんどを眠っていたようで、到着したときにオリオンに起こされた。
そこからトランジットまで四時間ほどかかった。
K空港内にある飲食店に入り昼食を摂ることにした。鳩原は食べないつもりだったが、
「それでも食べておいたほうがいいですわ」
と、言われたので、食べやすそうなワッフルをいただくことにした。ちなみにオリオンはグラタンを食べていた。
体調が悪くても温かくて美味しいものを食べると不思議と調子も良くなるものだ。
普段、鳩原は飛行機に乗る際、何も食べないようにしている。気分が悪くなるからだ。あまり
K空港からB空港までのフライト時間は九時間に及ぶ。この旅程における一番長いフライトがそこである。
お昼過ぎに搭乗してすぐに離陸した。ここですぐに気分が悪くなった。慣れてくればすぐに多少はマシになるだろうと思っていたが、この九時間のあいだ、気分の良し悪しに波があるとはいえ、基本的に悪かった。
隣に座っていたオリオンもさすがに心配しているようだった。軽率な気持ちで食事を勧めたことを謝っている言葉が聞こえてきたが、目を閉じていたので頭に入って来なかった。
ほとんど気絶している同然の九時間に及ぶフライトを終えて、二度目の乗り継ぎ地点に到着しようというとき、少し楽になって目が覚めた。
「あのまま死んじゃないかと思ったわ……」
着陸したとき、時刻は午前五時だった。
K空港を昼頃に出て、B空港に到着したら朝になっているというのはどうにも感覚がバグってしまうが、地球の反対側まで移動したのだから当然である。
しょぼくれて、申しわけなさそうにしているオリオンを見て、少し気分がよかった。
冬休みに帰省したときに似たような感じだったので、慣れている……とは言えないくらいにしんどいが、まあ、初めてではない。殊の外、事態を重く見ていたオリオンは、
「ここからは陸路で移動しましょう」
と提案してきた。
確かにもう『スマートシティ』のある国内に入っているわけで、陸路でも移動は可能である。とはいえ、だ。ここから『スマートシティ』までの距離と移動速度をざっくりと計算したら、自動車を使って十五時間くらいかかる。
十五時間も自動車に乗っていたら、それはそれで体調を崩しかねない。
「さすがに現地で待ち合わせをしている以上はそんな勝手はできませんよ。それに九時間を耐えられたんですから二時間も耐えられますよ」
「……わたくしはそうは思いませんけど」
まあ、
二時間近く空港で待ち、それから搭乗した。相変わらず気分が悪くなった。窓越しに外の景色でも見れば気分がいいだろうと思っていたが、後悔した。生憎の曇りで景色なんて真っ白で何も見えず、普通に酔った。天候の影響かわからないが、この移動の中で一番の不調だった。
近未来都市『スマートシティ』には知らないあいだに到着していた。
……なんだかずっと気絶していたような気がする。
地上に降り立ち、ひと通りの手順に従って入国を終えたところで、ようやく到着したという実感した。
空港内は煌びやかで、歓迎の言葉があちらこちらに書かれている。まるで鏡みたいに反射している通路だ。
気持ちにも余裕ができてきて、『スマートシティ』の街並みを空からは拝見できなかったのは残念だなとか思えるようになってきた。
「少し休んでから行きましょう」
「いえ、大丈夫です。待ち合わせ時間もありますし、行きましょう」
オリオンは目を細めた。
オリオンは鳩原の申し出を無視して近くにあった広々とした休憩スペースに移動した。オリオンはソファに座って
「わたくしが疲れましたわ。この数時間、友人が死ぬんじゃないかと思っていたのです。神経が持ちませんわ」
そう言われたからには断りにくい。鳩原も休憩スペースのソファに座る。
それと同時にオリオンは立ち上がって、
「飲み物を買ってきますわ。荷物をお願いしますわね」
と、こちらに何かを言う余地を与えないままに行ってしまった。いろいろと気を使わせてしまったなあ、と思う。まあ、そんな日もあっていいだろう。ひとりになったところで、ぐっと身体を伸ばした。腕時計を見ると、待ち合わせ時間まであと三十分ほど余裕があった。
だったら、まあいいか。ひと休みするとしよう。
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