第36話 vs.オリオン・サイダー(5)


     5.


 鳩原は負け続けていても、最終的に『勝てればいい』と考えている。

 その辺りはダンウィッチと食い違っている部分で、ダンウィッチは負けることを『良し』とはしない。そして、この状況から『負けること』は許されないと感じている。


 ひとつの敗北は、すべての敗北になる。

 崩れ落ちるように瓦解がかいして、崩壊して、そのまま壊滅するのだと。


 ダンウィッチの持つ『力』は『ヴォイド』と呼ばれている。

 それはかつて『支配者マスター』によって与えられた力の断片のひとつである。


 ダンウィッチ・ダンバースがその名前で呼ばれていなかった時代――兵器として育てられていた幼年期のことである。

 七人の兵器には、それぞれの性質が与えられていた。


 ダンウィッチの性質は『変換』である。

 周囲に存在している力を『泡』に変換するという代物である。『極彩色の泡』は無限に増殖しているわけではない。周囲に存在しているエネルギーを『泡』に変換していた。

 さっき、オリオンの一撃を顔面で受け止めたのも、これで変換して緩和したからだった。


 鳩原には『もしも、オリオンと対峙することがあってもギリギリまで「泡」を使わないように』と言われていた。だから、『泡』を使わずに、周囲にある『遺物』を使った。


『でも、一度でも使ったら、オリオンが「泡」への対応に慣れる前に勝て』とも言っていた。

 だから、今からは『泡』を使う。


(感じる……『鍵』がある)

 周囲に充満していた瘴気しょうきが『泡』に少しずつ変換されていく。

 さっきまでは瘴気しょうきの気配で、どうにも位置がわからなかった。

 だけど、少しずつ鮮明に感じる。


 西暦以前。

 二十万年前にこの地に辿り着いた先史文明の『遺物』が――『鍵』は、この通路にある。


 そこに辿り着くためにはオリオン・サイダーの撃破が優先だ。

 彼女がいる限り、ダンウィッチはそこに辿り着けない。


 ふたりの覚悟は決まった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る