第37話 vs.オリオン・サイダー(6)


     6.


 ほんの一瞬で決着した。

 火力。戦闘に関してはダンウィッチがダントツである。兵器として生まれて、その名前を授かってからも戦火に呑まれながら戦い続けた少女である。


 しかし、それでも。

 オリオン・サイダーの才能には届かなかった。


 火力。泡はひとつからふたつに。ふたつから四つに。四つから八つに――と指数関数的に増幅していく。

 周囲の瘴気しょうきを呑み込んで変換しながら――それは強大な力に変貌へんぼうしていく。



 それさえも、すべて焼き尽くすほどの火力だった。



 杖は下から振り上げるようにして抜かれた。

 放たれた魔力によって、無限に等しい数の泡はり潰され、破壊され、焼き尽くされて、無限に連なるダンウィッチの腰から伸びていた触手は破壊された。

 放たれた魔力を『泡』に変換していくよりも、オリオンによって放出された魔力の火力が上回った。



 鳩原が駆けつけてきたとき、周囲に魔力の残滓ざんしが散っていた。

 かちかち、とほのかに青白く明るくなっていた。


「ダンウィッチ!」

 宙を舞っていたダンウィッチはそのまま何メートルも吹っ飛ばされていた。



 意識が明滅めいめつする中で、途切れそうになる中で、感覚だけは確かに生きている。

 鳩原の声を聞いて、ふと我に返ってこう思った。


(――――


 いってない。

 本当ならオリオンを踏破とうはして、そのまま『鍵』の元に移動するつもりだった。それができないなら、これしかないと思っていた。


 意識が途切れそうになりながらも、確実に距離が接近しつつある『鍵』に意識を向ける。


 なんてことのない棚に――それはあった。

 水晶のような『遺物』と、擦りガラスのような鏡の『遺物』のあいだに置かれていた木箱があった。


 ダンウィッチが手を伸ばす。

 手は届くはずがない。

「い――あ――」

 丁度、吹っ飛ばされているダンウィッチが木箱の周辺を通過したときだった。


「い……、あ――i、a――――……――■■■■■■■■!」

 まるで獣の鳴き声のようだった。



 ダンウィッチに対して、その箱の中に収められている『鍵』が――呼応こおうした。



 その箱の中にあるのはただ『鍵』と呼ばれている『遺物』である。

 西暦以前の紀元前の時代から存在する先史文明の『遺物』。

 羊皮紙ようひしに包まれている『鍵』は反応した。


 まるで時間が制止しているように感じた。



 がちゃん――と。

 手応えみたいなものを、ダンウィッチは確かに感じた。



『門』が――開いた。





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