第03話 アラディア魔法学校(3)


     3.


 その日の授業を終えた放課後。

 学校に外出届を提出した。門限までに戻ってくることを条件に許可が下りたので、鳩原は手荷物だけ持って、学校を出る。

 ゴシック調の石造りの建物が密集している校舎、それらを取り囲むようにある石造りの塀。周囲には背の高い木々が生い茂る森がある。

 アラディア魔法学校は、そういう辺鄙へんぴな場所にある。

 金属でできた仰々しい校門を出ると、舗装された道がある。

 舗装されているといっても、自動車が一台と少しくらいの道幅しかない。その道を三十分くらい歩くと駅に着く。

 鳩原は友達から自転車を借りてきた。

 緩やかな傾斜になっている道を下りながら『上るときは大変なんだろうなあ』と思った。

 これは箒に乗って飛んでいれば、そういうこともないのかもしれない。

 それこそ、びゅんとひとっ飛び。箒に乗れれば。

(魔法使いのための学校……か)

 僕なんて場違いもいいところだ、と思った。

 建物のない木々を掻き分けるようにして作られた舗装されただけの道を進むと煉瓦れんが造りの駅が見えてきた。

 アラディア魔法学校の最寄り駅だ。

 こんな辺鄙へんぴな場所にあるから無人駅である。

 学校に提出した届け出には『町まで買い物に』と書いたが、平日の学校終わりに駅から電車に乗って町に出ると、到着しても十数分後にある帰りの電車に乗らないと、とてもじゃないが門限の六時には間に合わない。

 だから、平日の学校終わりに出かける奴なんてまずいない。

 そりゃあ事務員さんにも届出を出したときに怪訝けげんな顔をされるわけだ。

 駅の傍らに最近作られたんだろうなという駐輪場に自転車を停めて(しっかりと鍵をかけて)、駅の待合室に這入る。

 そこにはひとりの少女が座っていた。


「こんにちは、ダンウィッチ」

「こんにちは、鳩原さん」


 昨日の夜とは格好が違う――悪魔の角みたいな真っ黒な帽子は被っていないし、膝丈まである不気味なローブも着ていない。

 草臥くたびれた白っぽいシャツに、膝が見えるくらいまでの黒いスカートという格好をしている。

 昨晩では薄暗くてちゃんとした輪郭りんかくまでは見えなかったが、やはり随分と小柄だ。年齢は上や同じってことはないと思う。表情は幼いながら整った顔立ちをしている。

 適当な刃物で切り揃えただけの髪の毛に、割れている爪など……。

「待たせたかな?」

「いいえ、なんてことありません。ちっとも待っていません。私は待つことが大好きですので」

 明らかにご機嫌は麗しくなかった。

『また明日、ちゃんと話をしよう。駅で待ち合わせだ』――と言ったのが昨晩のことである。こんな雑な待ち合わせがあるものか。

 こんなお昼過ぎどころか夕方にやってきたんだから。

 まあ、仕方ない……。予定していなかったわけではないが、町に出て、少し軽食にはなるがごちそうしよう。仕送りがあるとはいえ、あまり手持ちがあるわけではないが……。

 門限を破ることになるのは……それはまあ、怒られたら謝ろう。

「では、行きましょう」

 思案している鳩原を尻目に、すっと立ち上がって、駅の待合室から出て行った。

「え、町には行かないの?」

「はい。私にはあまりお金がありませんので」

 それに――と、人差し指をくちびるの前に立てて、ささやくように言った。

内緒ないしょのお話ですので」



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