まあ、ロマンチック!

「他人のそら似じゃない?」

「根付も脇差も帯の柄も身に付けてるものは全て一緒なのに?」

「偶然趣味まで似てたとか」

「そりゃあ似てる人もいるでしょうけど。袖のほつれたところまで一緒なんて偶然あります?」

「そうよねぇ」


 小袖はお気に入りの和三盆をひと口かじると、頬杖をつきながら客人の背後をおもむろに見上げた。


「案外見落としているかもしれない何か……常識を超えたところにある……いえむしろ……上……?」


 壁掛けの一輪挿しにはひと枝、黄色い花が二つずつ並ぶようについている。今朝咲いたばかりの蝋梅ろうばいであった。


「見当もつきません」

「ほんとにね」

「だいたい、毎日同じの着てるわけでもないのにいつも誰かと同じ格好なんて、四六時中見張ってなきゃ無理ですよ」

「あらやだ、もしかしてつきまとい? 怖いわ」

「つきまといにしたってなんでそんな姿を真似る必要が?」

「そうよねぇ」

「まったく。埒が明きませんよ」

「望みは一体なんなのかしら」

「さあまったく。いっそ最近流行りの離魂病とかなら諦めもつくんですがね」

「りこんびょう? なあにそれ」

「はあ小袖さん。ほんとに――」

「疎いのは知ってるわ。だからそれ、なあに?」


 ほんのり甘い香りがまるで天から見守るように、話の花を咲かせる二人を包んだ。




        🌸

      🌸




「まあ、すてき!」


 両手を小さく叩きながら、小袖は歓喜の色を見せた。

 小躍りした拍子についと足を火鉢のそばへ投げ出して、華奢な指先で火箸を掴むと、消えかけた炭の隣へもう一本炭を置き、火鉢の縁の灰を器用につついている。

 何処からともなく漂う甘い香りが、客人を浪漫漂う妖しい幻想の世界へといざな――


「そうですか?」


 誘うこともなく、ひょいと緑色の落雁を口に放り込むと、客人はずずっとほうじ茶を一口すすった。彼女の喜ぶポイントはどうにもさっぱりわからないといった風情だ。


「まあ、とらさん」


 小袖は火鉢の中からなにやら炭まみれのものを取り出すと、あつ、あつ、と困ったように囁きながら、白磁の肌でそっと包むと、えいっと半分に折った。


「影のわずらいなんて、響きからして夢があるじゃない?」


 灰を払い落としながら小袖が「はい、半分こ」と差し出したそれはほくほくの焼き芋であった。

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