第85話

 玄関口にある掛け時計は、22時を指している。

 

 真夜中の八天街は、ここへ初めて来た時と同じくらいに不気味だった。なんだか、ぞわぞわしてしまう。


 そういえば、ここは八天街だったな。

 

 地獄にもっとも近い街。


 大通りまで進んで、裏道を通り抜けると、八天商店街まで音星とシロと歩いた。ビュー、ビュー、と、いつまでも、まとわりつくかのような夏の生暖かい夜風が気味悪かった。


 俺は何か不穏な気分になって、首を向けると、隣を歩く音星は、ピンクのハンカチで時折首筋を流れる汗を拭いながら、静かに歩いていた。シロは尻尾をピンと上げて、今は俺たちの先頭を歩いている。


「なあ、音星?」

「はい?」

「なんで、俺と妹のために八大地獄巡りをしてくれているんだ?」

「ええ。ええ。それはもういいんですよ」

「え?!」

「実は、家に帰る途中だったのですよ」

「はあ? ひょっとして、地獄からかい?」

「ええ。実家の青森県まで歩いていました」


「……」

「火端さん? 私、何か変ですか?」

「いや、凄くいいやつなんだな……きっと……」

「ええ……そうですよね」

 

「?!」


 ザッ、ザッ、ザッ、と後ろからまるで、箒で掃くような音が聞こえる。


 おや? と、思って後ろを振り返ってみようと思うと、音星が俺のTシャツの袖を握って走り出す。


「火端さん! 走って!」

「ひっ! お、おう!」


 後ろには足のない変な怪物が箒で木の葉を掃いていた。

 何がどうしても、不気味過ぎる。  

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