第69話

 閻魔帳とは、死者の生前の善悪を記しておくという帳簿だ。その帳簿には、弥生の生前の善悪が全て載ってあるはずだ。果たして、弥生は本当に俺の思う通りの冤罪のなのか?


 いや、ここで読んでしまえばわかるはずだ……。


「火端さん?」


 そこで、後ろから音星の呼び声がした。

 俺は振り向くと、死者に紛れた音星がいた。

 右手に持っている閻魔帳に気がついて、こちらを心配しているようだけど、俺は最初から平気なんだ。


 弥生は絶対に助けると決めたからなんだ。

 俺がニッと微笑むと、音星がコックリと頷いた。


「それは、閻魔帳ですね。やっと弥生さんが本当に冤罪なのかがわかりますね。火端さん? あちらの角で読んでみましょうよ」

「ああ、さすがにここで読むには死者たちに邪魔になるか……」


 音星の指し示した坂道の角は、何の変哲もない木が立っていた。風も吹かない場所なので、木の葉が揺れたり落ちたりもない。


 ここも、殺風景だな。

 俺は音星と共に、閻魔帳から火端 弥生の書かれた文章を探した。


 うん?

 昔の文章だな。


 それも書簡とかいわれるものに使うような文章だ。


 なになに……。


 火端 弥生


 ●月●日 火曜日

 

 飲酒に姦淫の疑い。

 酔っぱらっての周囲を惑わす妄言。

 

 車で人を轢く。


 轢かれたものは……。


「坊主??」

「お坊さん?」


 俺は目が回り、音星と顔を見合わせた。


「あ、続きがありますね」


 音星が次を急いだ。


「ああ……うん? 丸坊主?」

「あ! 最初から丸が抜けているんじゃないでしょうか? この文章? 丸坊主なのに、坊主と書かれていますね」


 …………

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