第68話

「火端さん! 早く!!」

「お、おう!」

「巫女さん!」


 俺たちは少し離れた場所にいる音星のところまで、全速力で走った。

 音星は手鏡を俺たちに終始向けてくれている。


「えい!!」


 古びた手鏡に俺たちの姿が十分写ったようで、手鏡からの淡い光が身体中を包みだした。


 周囲の獄卒は、どうやら俺たちを追い掛けながら、遥か地面へと落下してくる罪人も金棒で叩き潰している。


 そのためか、追い掛けるスピードにむらができていた。


 淡い光をいっぱいに身体に浴びていると、あることに気がついた。


…………


「はっ! ここは?!」 


 俺が今、立っている場所は緩やかな坂道だった。

 何の変哲もなく。

 草木も生えていない。

 空は相変わらず灰色で、飛んでいる小鳥やそよ風すらない。

 その坂道を、遠いところにある川から、姿がぼんやりと見える大勢の死者たちが何も言わずに下っていた。

 

 恐らく。ここからでは遠いけど、向こうの山々の麓に見える川は、三途の川だろう。

 三途の川から道が傾斜になっていて、坂道へと繋がっているようだ。

 そして、俺は「あっ」と驚いた。


 長い坂道の正面に位置づけられた門の脇に、閻魔大王が台座に座り。死者を忙しそうに見計らっていた。俺もたくさんの死者の中に、音星と弥生の姿を探した。


 そうこうしていると、閻魔大王と俺は目が合ってしまった。

 俺は気まずくなった。

 たじろいで、目を逸らそうとすると、閻魔大王が手招きした。


「こっちへ来い」

「え? 俺のことですか?」

「そうだ。こっちへ来い」

「はい……」


 閻魔大王が台座からいそいそと降りると、俺はその巨大な体躯に腰を抜かそうになった。威圧感が半端ない。さすがに恐怖の閻魔大王様だ。


「どうした? 何故こんなところに来たんだ?」


 だけど、閻魔大王は殊の外優しそうな人柄だった。

 かなり忙しい身のはずなのに、親切に俺に聞いて来た。


「あ、俺。亡くなった妹を地獄から救いに来ました。きっと、冤罪なんだ。俺の名前は勇気 火端 勇気です。妹は火端 弥生」

「……火端 弥生? ……ふむ。……冤罪? うーん……」


 閻魔大王は腰に差した閻魔帳の一つを俺に渡してくれた。


「そこに君の知りたいことが全て載ってあるはずだ。弥生という君の妹が地獄へ落ちたなら、地獄へ行く理由の善悪のことがはっきりと書かれている」

「は、はい! ありがとうございます!」

「そうだ……その閻魔帳は、私が休暇中の時にも、代わりに獄卒が付けてくれたようだから、非常に正確のはずだ。だが、万が一にも。間違いがあったり、食い違いがったり、新たな発見がるかも知れないな。君が冤罪だと思うのなら、そうかも知れない。さあ、私は忙しいのだ。帰った。帰った」

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