第62話

 その時、灰色の空から、大きな音と共に、巨大な青い腕と柄杓が雲と雲の間ににゅっと現れた。それから、湖くらいの量の煮え湯が地へとばら撒かれた。


 けたたましい人型の魂たちの絶叫が発せられ、俺は思わず耳を塞いだ。


 隣にいる音星がシロを連れて、大急ぎで古びた手鏡に写ると、その姿がぼんやりと消えていった。俺は最後まで朧げになっていく音星とシロを見届けると、急いで、井戸へと飛び込んだ。


 暗闇の中で、あるのは途方もない閉塞感と風を切る音のみ。俺はそれでも目を開けて、遥か下を見つめた。


 落ちる。


 落ちる。


 落ちる……。


 ドシンと、やっと硬い地面に腰から着地すると、辺りの凄惨さに度肝を抜かれた。


 獄卒が大勢走り回り。人型の魂を八つ裂きにしていた。あるものは、金棒で腹部を破かれ、あるものは、背中から叩き潰され、また、あるものは、はるか遠くへと吹っ飛ばされ、血潮が至るところにまき散らされていた。


 真っ赤な土の色からして、その赤い色は全て人型の魂の吐瀉物か引き裂かれた時に噴き出た血液だなと思えた。


 俺はさすがに目を覆いたくなった。


 ここは、大叫喚地獄。

 呵責で泣き叫ぶ場所だ。


 あまりに凄まじいところなので、俺は激しい眩暈を覚えた。だけど、歯を思いっきり食いしばり勇気を出して、妹を探すため歩き出した。

 

 すると、骸骨でできた山の麓に、朧気な姿の黒のサングラスをかけた派手な黒服の男が、呆然と突っ立っているのを見つけた。


 その傍には……俺の妹がいた。

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