第33話

 猫屋はここ八天街では、猫しかいない珍しいペットショップだった。店長が気に入ればそのお客さんは、無料で好きな猫が貰えるという逸話があった。ただし、未だ誰も無料では貰えたことはないそうだ。そんな八天街の変わった店で、猫好きの古葉さんはアルバイトをしていた。なんでも、店長に凄く懐かれてここで働くようになったとか。


 店内は所狭しと猫の入ったショーケースがある。俺と音星は、奥のレジにいる古葉さんに挨拶をした。


「ただいま。やっぱり地獄はひどく熱かったよ」

「ただ今、戻りました。古葉さん」

「ああ、巫女さんたちか……ついさっき地獄から帰ってきたの? おかえり。大丈夫だったか? ふーん。何? 凄く熱かったって? 溶岩?? そりゃ、汗掻くわなあ」


 俺たちはたわいない言葉を交わした。と、自然に妹が落ちたはずの八大地獄の話になった。


「へえー、妹さんが冤罪で地獄へねえ。お前も大変なんだなあー。なあ、巫女さん」

「そうなんだそうです」

「……阿鼻地獄……」

「あん?」

「どうしたんです。火端さん?」


 俺は額にぺちぺちとアイスが入っていた空の袋を当てて、考えた。


「阿鼻地獄は無間地獄とも呼ばれていて、八大地獄の最下層にあるんだ。そこまで落ちたら……もう転生ができないらしいんだ。もしも、妹が……」

「……ひゅーっ、お前なあ……そりゃ、考え過ぎだろ」

「……そうですよ。火端さん。考え過ぎですよ」


 古葉さんは、大きな欠伸をした。

 その時、大勢の猫が一斉にドアに向かって鳴き出した。ニャ―、ニャ―、ニャ―。俺はドアの方を見ると、子供を連れたお客さんだった。

 

 俺は頭を降って、悪いことは考えないことにした。妹はといかく無事のはず。どうせ、いつもの口笛を吹いて、地獄で読書でもしてるんだろう。もし、阿鼻地獄まで落ちたとしても、この俺が必ず助け出してやる。


「それでは、お後がよろしいようで。あの、火端さん。もうそろそろお暇しましてお宿へ戻りましょう。お邪魔しました」

「ああ、また気が向いたら、寄ってくれよ。猫たちも喜ぶんだ」  

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