第32話

 裏通りに差し掛かるところの交差点近くに、猫の鳴き声がしたペットショップがあった。そのペットショップは、多種多様な猫が店の外へと溢れ出している。黄色のペンキで塗り潰されたその建物は、猫屋と書いてある小さな看板が出入り口に立っていた。そこへ、俺たちの民宿にいる古葉さんが、ヨレヨレのポロシャツ姿でだるそうに店内を覗いていた。


「あ、古葉さん……」

「あら。今頃、出勤なんですね。古葉さんは、あそこの猫屋で働いているんだそうです。火端さんはご存知でしたか? 古葉さんって、大の猫好きなんだそうですよ」

「……うん?」


 俺が怪訝に見ていると、「よし!」っと、掛け声と共に古葉さんが意を決して猫屋に入った……。


 途端に……。


「ニャーー!! ニャー!」

「ニャー!」

「ニャニャー!!」


「だー! うるせーーー!!」


 猫屋の猫たちが一斉に鳴き出し、古葉さんの大絶叫が木霊した。

 

「プッ……クスクス。そういえば、猫さんたちと古葉さんって、いつもこうなんです。古葉さんって、猫に凄くモテますから……」

「あははは。休憩がてら、猫屋をちょっと覗いてみようよ?」

「ええ。その方が古葉さんも喜んでくれます」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る