第17話

「それでは、お後がよろしいようで」


 そういうと、目を瞑ったまま音星は、肩から降ろした布袋から古い手鏡を取り出した。

 

 そして、俺の方へ手鏡を向け。


「火端さん? そちらにおられますか? 鏡……写っています?」

「ああ……今、その鏡に俺の姿が写っているよ」

「そうですか。そのままじっとしていてくださいね」


 音星の持つ手鏡が光りだした。


「では……」


 しばらく俺は、言われた通りに音星の持つ手鏡をじっと見つめていた。

 すると、手鏡の光は眩しさを増した。


「そのまま……そのまま……手鏡を見ていてください」

「ああ」


…………


 突然、車のクラクションが俺の耳に入った。

 辺りがすごく明るくなって、雑踏が少しずつ聞こえて来た。

 

 俺はびっくりして、後ろを振り向くと……?


「うん?」


 目の前には、バスで来た時に見た八天街のロータリーが広がっていた。

 

「え? え? な??」

「どうです?」


 音星の声の方へ首を向けると、音星は布袋を背負ってロータリーから大通りへと横断歩道をスタスタと歩いて行ってしまった。

 

「さあ、火端さん。お宿はこっちですよ」

「あ……ああ。さすがに驚いたよ」


 なるほど。

 こうやって、音星は地獄へ行き来していたんだ。


 コンビニ、雑貨屋、大衆酒場や洒落たレストランなどが建ち並ぶ。

 大通りをしばらく俺たちは歩いた。すると、音星は大通りから裏通りへと入っていった。


「おや? ここは?」


 音星が入った裏通りには、見覚えがあった。

 そこは、俺が最初に地獄へと行ったときに訪れた神社のある。あの裏通りだった。そして、音星はスタスタとまた歩いて行って、神社の傍にある宿泊施設へと入って行った。


「民宿??」


 音星の入った宿泊施設は、こじんまりとした民宿だった。

 

「巫女さん。おかえりー」

「こんにちはー」


 気前のよいおばさんが玄関先に現れた。音星はまた「こんにちは」といっていた。

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