第6話

「あ、ああ……こんにちは」


 俺は女の人の声に緊張感が抜けると同時に呆れたが……驚いた。


 その女の人は提灯片手の巫女姿だったからだ。

 

 巫女??


 俺は仄暗い洞窟の中で、提灯の明かりに照らされた巫女の顔を見つめた。

 長い黒髪で綺麗な人だが、どこか幼さが残る可愛らしい顔。

 背は俺に比べて少しだけ低かった。


「こんにちは?? って、え? もうそんな時間なのかよ?! 俺はてっきり……深夜か早朝だと思ってたぞ」

「え? あ。こんにちはなんて、確かに変ですよね。適当に言ったまでですので、お気になさらないでくださいね。それにしても、生きている人がここへ来るなんて、本当に珍しいですね」

「え? あ、あの。巫女さん! ここは地獄ですよね! 俺……! 俺……! 死んだ妹を探すために地獄を探しています!」

「はい。そうなんですか?」

「……背が低く。可愛らしいショートカットの女の子なんだ。名前は弥生。きっと、冤罪なんだ!」

「はあ、人魂はたくさんお見掛けしているので……なんとも……でも、そうですね。ここは地獄ですよ」


 とぼけているようでもなく。

 その巫女は至って真面目な様子だった。


 俺は急に身体が震えだした。

 けれども、ここに妹がいるはずなんだ!


 そう思って勇気を出すと、恐怖が吹っ飛んだ。


「そうか、良かったー!! 俺は勇気。名前は火端ひばた 勇気っていうんだ。妹も火端だ。八天街の神社からここへ来た」

「はい! 私は音星おとぼし 恵です。へえー、そうなんですか。妹さんのために。私は青森県の恐山菩提寺から来ました。恐山菩提寺は下北半島の霊場・日本三大恐山の一つにあるんです。そこでは死者の供養と、イタコの口寄せを開く場所になっていて。私は、その恐山菩提寺から死者の弔いのために地獄を旅しているんですよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る