第5話

 さっき、鏡面に映っていたところだな。

 轟々と風の音が奥から聞こえてきた。

 気温は不思議と寒くはない。そして、熱くもなかった。


 痛みを発した頭を撫でながら、俺は強い風が吹いている洞窟の奥へと歩くことにした。


 ピタッ。ピタンッと、水滴の音がたまにするのと、激しい風の音以外はしない洞窟の中で、俺は今日の夕食をとっていないことを思い出す。


 昼から何も食ってなかった。

 途端に、グゥ―と腹の虫が鳴った。


「地獄巡りバスツアーの後に、すっ飛んで来たからなあ……腹減った……地獄に食べ物なんてあるわけないぞ」


 俺はリュックサックの中にある最後の菓子パンを、昼間にバスの中で食べてしまったことを悔やんだ。


「うん? 何か聞こえる??」


 暗い洞窟の奥は、相変わらず風の音が凄まじい。

 けれど、人の足音が聞こえた。

 だが、どう聞いても靴の足音じゃない。

 まるで、素足で歩く音だった。


 ヤバいかな?

 戻って、元来た道を逃げるか?


 そう思った時に、向こうから人を呼ぶ声のような……。


「あの。こんにちはー、こんにちはー、そこに誰かいるんですよね?」


 いや、確かに人の声で誰かを呼んでいた。

 ひょっとして、俺のことを?

 だとしたら、御先祖様とかかな?


 それも女の人の声だ。 

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