第2話:勉強

 この屋敷には本があるだろうか?

 俺は屋敷内でぶらぶらと書斎みたいな部屋を探している。


 この世界をより速く知るためには、本も大切だ。

 本の内容からこの世界の情報を収集する。

 そうすれば、俺はこの世界を理解し、他人を支配することができる。


 一階の各部屋のドアを開けて探したが、書斎のような部屋は見つからなかった。


 次に二階に行って探すことにした。


 でも、階段……。

 段差が大きい階段を、どうやって上がったらいいんだろう?


 俺はピラミッドを上るように階段を這い上がっていった。


 そして二階のすべての部屋のドアを開けて探し始めた。

 やっと見つけた。


 階段を上がったら、左に曲がって右側の3番目の部屋だ。


 ドアを開けて入った。


「すげぇ!」


 中には大量の書籍がある。


 俺は適当に本を手に取って、開けて読んだが、結果何も読めなかった。


 全部が俺の見たことのない文字だ。

 絵はあるが理解できない。

 俺は様々な言語に堪能だが、この世界の文字は読めない。


 この世界の文字を学ばなければ。

 文字を理解できなければ、俺は結果的にこの世界の事に関して知ることができない。


 なにか方法はあるか?

 ……あった。


 リリを利用できるかも。



 ✭✭✭✭✭



 もう就寝の時間だ。


 リリは俺を抱いて、俺の部屋に連れて行く。


 部屋に入って俺をベッドの上に下して、布団をかけてくれた。


「お休みなさい、ノルス様」

「うんん……」

「どうしましたか、ノルス様?」

「ちょっと眠れない」

「それは大変です!」


 俺は心の中でほくそ笑んだ。


 いいぞ、リリは徐々に俺の支配下に入り込んでいる。


「リリ、話を聞かせてくれない?」

「お話ですか?」

「そう。絵本があるかな?」

「はい、あります」

「よかったら話を聞かせて」

「はい、わかりました。ノルス様、少々お待ちください」

「うん」


 よし、成功した。


 実は俺の目的は、絵本を読んでリリが話す言葉によって、語彙と文法を暗記することだ。

 絵本の絵によってこの世界の文化を知ることもできるかも。


 この時、リリは絵本一冊を手に持って入ってきた。


「ノルス様、この本を読んでいいですか?《英雄騎士アイレエラ》です」

「いいよ」


 絵本の名称を聞いたら、アイレエラという英雄の物語や偉大な事績を話しているだろう。


「でもすみません、ノルス様。リリはどこに座ればいいですか?」


 俺はベッドを軽くたたいた。


「ここだよ」

「私がそこに座ったらノルス様にとても失礼し……」

「こりゃ命令だ」


 俺は強い勢いでリリの話を中断した。


「はい、わかりました」


 リリは歩いてきた。


「失礼します」


 と、俺に礼をしてからベッドに座ったリリ。


 リリが絵本を開き、俺はリリに近づいた。


「むかしむかし……」


 リリは絵本に書いた言葉を読み始めて聞かせてくれた。


 彼女が絵本を読んでいた間に、俺はできるだけ単語を覚えていった。

 他人が俺のために命がけで働くような身分となるため。



 ✭✭✭✭✭



 夜が明け、目が覚めた。


 昨日覚えた単語をもう一度頭の中で繰り返し暗唱した。しかし、これだけでは俺にはまだ足りない。

 もっと頑張らなきゃ。


 ドアが開けられた。


「おはようございます、ノルス様」


 リリは入ってきた。


「うん、おはよう、リリ」

「どうしましたか、ノルス様?そんなにくよくよしていらっしゃるのですか」


 さすがに世話を担当するメイドだけあって、俺の心を見抜くことができる。


「うん、ちょっと憂鬱なんだ」

「えっ!ノルス様、どこか具合でも悪いのですか?」

「大丈夫だけど……。なぁ、リリ」

「はい」

「俺に字を教えてもらえるかな?」


 まず早くこの世界のすべてを把握しなければならない。

 そして、前世の経験を活用する。


 そうすれば、他人は俺に頭を下げて命令に従うようになる。


 字を理解することは俺にとって不可欠なことだ。字も理解できないで、どのように他人を支配するのか?


「もしノルス様に教えることができれば、それは光栄の至りです。でもリリは少ししか読めません」

「少ししか読めない?昨日お前は絵本をすらすらと読んだじゃないか」


 彼女の言ったことは予想外だった。


「すみません、ノルス様。リリは庶民ですから、お金がありません。なので、学校に行ったことがなく、字が読めませんでした。でも、ここに仕事に来てから、たくさんのことをこなすには字を使わなければならないことに気づきましたので、私はいくつかの字を学びました」


 この世界は貧富の差が大きいようだな。

 学校に行って勉強するのはお金持ちの特権らしい。


「じゃ、全部。お前知っている全部を俺に教えて!」

「はい、わかりました」


 リリの言ったことを聞くと、嬉しくなった。


 ベッドから立ち上がった。


「では、着替えさせてくれる?」

「はい」



 ✭✭✭✭✭



 毎日朝食を食べた後、リリはいつも俺の部屋に来てこの世界の文字を教えてくれた。

 そして毎晩俺の部屋に来て絵本を読んでくれた。


 この世界の造字ルールがだんだん分かってきた。


 リリからはいつもいい香りがした。

 時々リリの香りに惹かれて、集中できなかった。

 毎回このような時、俺はいつも自分を叱咤しったして意識を集中した。


 一ヶ月後、俺は単語を簡単な文法に当てはめることでき、簡単な文が読めるようになった。

 例えば、自己紹介。


 俺は完璧に自己紹介を書くことができたし、スムーズに読むこともできた。

 絵本の内容も読めた。


 だが……。


「申し訳ありません、ノルス様。私はもう知っているすべてを教えました」

「えっ!もうすべて?!」

「はい、本当に申し訳ありません」

「いいよ」


 これからは一人で勉強しなきゃいけないみたいだ。


「まあ、大丈夫だよ、自分で勉強するから。ありがとうね、この一ヶ月」


 俺の話を聞くとリリは涙を流した。


「いいえ、ノルス様に字を教えることができてうれしゅうございます」


 リリは袖で目じりの涙をぬぐった。


「そうだ、俺が字を勉強していることはお父さんお母さんに言わないでね」

「なぜですか?」

「お父さんたちを驚かせたいんだ」


 彼らに俺は神童だと思わせて、俺を大事に扱うように仕向けたい。

 将來兄弟ができても、俺は神童の名で継承権を固めることができる。


「はい、わかりました」


 これからも俺の計画どおりに事を運んでやる。


 翌日から自分ひとりで字を勉強し始めた。

 俺は知っている造字ルールを利用して、延長と変化を行い、知っている字はますます多くなった。



 ✭✭✭✭✭



 今朝目が覚めたら、リリが着替えさせてくれた。朝ご飯を食べた後、一つのことをすることにした。

 ―――書齋に行く。


 二階に来て、書齋のドアを開けた。


 適当に本を取って、本のタイトルを読んだ。


「水属性下級魔法教本……?」


 やった!今回の本は読めた。

 思わず有頂天になってしまった。


 でも、ちょっと待て。この本には魔法の二文字が書いてある。

 もしかしてこの世界には魔法があるのか?


 真実だろうか?俺は絵本から「魔法使い」を読んでいたことがあるが、それは嘘だと思っていた。

 絵本の中で魔法使いが魔法を使って魔竜を倒すというのは本当だろうか?


 信じられない。


 別の本を取った。


 この本のタイトルには『火属性下級魔法教本』と書いてある。


 なるほど、わかった。

 この世界には本当に魔法があるようだな。


 なら、まずこの世界には魔法があると信じて。


 俺は手に持った2冊の本を見た。


 水属性魔法より火属性魔法が好き。

 日本のアニメのキャラクターのように華麗に火属性魔法を使いたいなぁ。

 しかし、魔法を知ったばかりの俺には、火属性魔法を自由自在にコントロールする自信がない。この部屋を火事にしてしまうかもしれない。


 じゃ、まず水属性魔法を勉強するほうがいい。

 でも水属性魔法を勉強しても、ここを水たまりにしてはいけないだろう。

 なので、俺は椅子を窓のところまで押していって、椅子に登って窓を開けた。


 魔法を発動する時は、かならず窓を開けるようにしよう。


 椅子から飛び降りて、教本を持ち上げた。


 最初のページを開いた。


「下級・中級・上級・以上であれ、すべての魔法を使うには必ず呪文を詠唱します」


 詠唱するか?

 少し中二病だと思う。


 次のページを開いた。


「まず水属性下級魔法 《水玉》を学びましょう」


 《水玉》……か、この魔法の名称を聞いて、破壊力はあまり感じられない。

 ……まずは試してみよう。


 本を床に置き、右手をまっすぐに伸ばした。


 本の中には詠唱するべき呪文が書いてある。


 本を読み、詠唱の呪文を読む。


「神様、万物に一切の水を与えたまえ!心から誠心誠意に祈る。水属性魔法元素よ、私の呪文に応えなさい。水属性下級魔法 《水玉》発動!」


 突然、何かが体の中を流れていき、ゆっくりと俺の右手に集まった。

 手の平に奇妙な丸い模様が現れ、体內を流れるものがゆっくり集まって水のような球体になった。


 そして前に向かって飛んでいく。


 この光景を見て、俺は魔法ができる喜びを感じた。


 もう決めた。

 これからも魔法をちゃんと勉強しよう!

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