第8話 傭兵育成施設
「さ、さむい……」
翌朝、俺は凍えていた。
早朝ということもあってか、眠らぬ街にも白い靄のようなものが立ちこめるほど寒く、空気はこれ以上ないほど冷え切っていた。
施設の目の前には空域高速道路があるせいか、大型の輸送トラックや乗用車が渋滞のない空路を飛行している。
その“傭兵”に仕立て上げる施設とやらだが、どうやら街のブロックの一部を丸々占拠するほど巨大なもので、何個も別のビル群をまとめて密着させて一つのビルとして増設を繰り返したような外見をしていた。
『これヨリ、待機順に配布される番号チケットを受け取り、その後に指示された面接室へと入室してくださイ。なお、危険物等の所持が認められた場合は、即刻、処分の対象となるためお気をつけ下さイ』
券売機BoTがチケットを配る中、俺はその施設の前で、他の貧困層らしき老若男女と共に列に並んでいた。
行列の中には、明らかにカタギの者とは思えない雰囲気を身にまとう中年の男や、薄汚れたシャツと短パンだけを身に着ける少年、さらには布切れのような服をまとった左足が改造された戦闘用の義足の老婆までいた。
共通して彼らの目に灯されるのはこの環境から脱却してやるという底なしの野心で、それはギラギラとこの街のネオンにも負けない光を放っていた。
「なあ、エディ。この施設に入るためには、いわゆる“面接”ってのをクリアしないとだめなんだよな……」
俺の服装は、未だにあの施設で手に入れた黒のデニムパンツに、白シャツとパーカーのみの簡素なものだった。「面接」と言えば三百年前ならば受験やら就職やらを思い出すだろうが、果たしてこの時代でも同じ要領のものなのだろうかと、しきりに不安でならなかった。
昨日の雨で、黒々としたコンクリートの陥没部分にはちょっとした池のようなものができている。残念ながら、そこに反射して映る自分の目には、彼らほどの光はないように思えた。
「なに、面接と言ってもエントリーシートに名前を書くのと同じさ。面接官は、俺たちの犯罪歴や戸籍情報、何を目的に傭兵になるのか。それを確認するだけだ」
「確認をするだけ?」
「そうだ、確認だけだ。なんせ、下層で犯罪を犯したことのないヤツはいないからな。銃を扱ったことがあるか、教養はどのくらいか、その程度の確認だけするんだ」
さも当たり前のように言うエディの言葉を理解するにつれ、俺は自分がそれにパスできる人間には到底思えなかった。
なんせ、銃も一度しか撃ったことがなければ、教養だってこの時代のモノは知らない身なのだ。それでもし、その面接官とやらに戦力外通告を出されたのなら――。
――そこまで考えたときだった。
ふいに列の後ろの方から歩き方のおかしい、異様に目が血走った男が一人やってくる。男は薬でもやっているのか、焦点の定まらない目つきで列に近づいてくると、俺の横で並んでいた老婆へと絡み始めた。
「おいばばあ、おれにちけっとをよこせよ。おれは待つのがきらいなんだよ」
どうやら男はかなり口径のでかいリボルバーのような銃火器を持っており、それをちらつかせながら老婆からチケットを奪おうとしているようだった。だが――
「へん、やなこった。アンタみたいな薬中のゴミに渡すくらいなら、あたしの左足に入ってるナパーム弾をここで炸裂させてここで死んだ方がましだね。なんだいクソガキ風情が、アタシみたいなのを舐めるんじゃないよ」
だが、老婆が左の義足に付いているグレネードのピンのようなものを握っているのを確認すると、男は舌打ちをしながら老婆をターゲットから外したようだった。
それとなく男の視界に入らないようにエディの陰に入ると、幸いにもヤツは新たなターゲットを探すようにして前の列へと進みだす。
どうやら男は、相手の見た目が自分よりも強そうなやつには絡むことのない典型的な
『警告、警告――。発行される番号チケットは順に配布されるため、あなたの略奪的な行動は違反行為に該当する可能性がありマス。また、あなたの所持する武器は指定された危険物のため、三秒以内にそれを捨てなければ即刻処分対象となりマス』
――男が少年を脅迫する直前、発券機BoTが間に入るようにして警告音を発するのだった。
だが、重度のドラッグ中毒者かオーバードーズ患者なのかは分からないが、ハイになった状態の男にはBoTの発する言葉の内容が理解できなかったようで、リボルバー片手にその場で喚きだすのだった。
モニター部分を睨みつけながら、挑発するようにしてしきりにカンカンと銃口でBoTの機体を叩く。
「はあ? なにいってるかわかんねえよ、わかりやすくしゃべれよクソボッt――」
――パンッ。
直後、発券機BoTは、発券部分を変形させて小型のショットガンらしき銃火器を出すと、そのまま男の眉間へと突き立て間髪入れずにトリガーを引いた。
軽い音だった。
音速で放たれた鉛玉たちは、風船のような頭部を勢いよく肉塊と共に破裂させた。一瞬で薬物漬けの脳漿があたりへとまき散らされ、その肉片と血のりはたまった雨水と混じって排水溝へと流れていく。やがて、BoTの機械音声が流れだす。
『一名、処分対象となりましタ。遺体処理班の手配をお願いしまス』
BoTの感情を含まない機械音声が、一つの邪魔な遺体を処理するための人員を要求する言葉だけを発している。
行列に並んでいた者たちは、その死体をまるで道端にへばりついたガムのような目つきで一瞥したあと、手にした番号チケットを握り締めながら施設の入り口へと歩き始める。そこに慈悲や同情のようなものは、誰も抱いていないようだった。
俺は顔を背けた。
人が、死んだ。こんなにもあっさりと。
それが信じられず、俺はしきりに夢でも見てるんじゃないかと思いつつ死体から目を背けた。
『あなたの番号は「2342C23‐4」です。面接室「A‐7」へと移動し、すみやかに担当面接官との面接を始めてください』
しばらくして、発券機を搭載したBoTが自分の前にやってくる。
B級のホラー映画のグロシーンを間近で見たような気分の悪さのまま、俺は血の滴る発券機搭載BoTからチケットを受け取るのだった。
この時代では、自分が思っているよりもずっと命というものが軽いのかもしれない。そんな事実を目の当たりにしたようで、俺は必要以上にチケットを握りしめると、歩きだした。
***
廊下に人はいない。
それどころか人の気配すらない。
まるで廃墟ビルのような薄暗い廊下の一角には、幽霊でも出そうなほどの冷気が充満していた。
持っていたチケットには何も書かれておらず、俺は初めて道具を手にした猿のようにクルクルと調べていると、ふいに『――ヴン』とホログラムが出現した。
館内を表す図面を見る限り、面接室「A‐7」はもうすこし行った先の角にあるようだった。
どうやらチケットには採血装置と館内案内図が搭載されてあるのか、数秒後、ホログラムの『ここに指をつけてね!』という文字が現れる。
その通りにチケットに親指を当てると、次の瞬間、中からプシュッと高圧のガスか何かが噴出して皮膚に穴を開けた。
「……いてッ……」
痛みの中心を見てみると、じんわりと親指から血が滲んでいる。ホログラムには何かを咀嚼しているようなSDキャラが空中で回っており――【読み込み中】という文字が数秒表示されたあと――ようやく『OK!』という何とも安そうなフォントに切り替わった。
そうこうしているうちに、気づけば俺は「A‐7」と書かれた面接室の前にたどり着いていた。扉に書かれた部屋番号を何度も確認すると、深く息を吸ってからようやく手を軽く握った。
「失礼します」
面接室のドアを三回ノックし、俺はその場で待機する。
『――はい? ……ああ、はい、入ってどうぞ~』
しばらくすると中から入ってこいという合図の言葉が聞こえ、それに従って俺は面接室へと入室すべく扉を開けた。直後、俺は部屋と呼べばいいのか、それとも世界と言えばいいのか分からない面接室に唖然とした。そして、足を踏み出すことを極度にためらった。
「はい、チケットはこちらで預かりま~す。……うん、座っていいですよぉ」
「あ、はい」
面接官は何食わぬ顔で、平然と着席を俺に促した。
俺は恐る恐るといった風に足先ですこし確認すると、生唾を呑み込んでから歩きだす。
男にチケットを渡し、安物のパイプ椅子をきしませながら座ると、あまりにも異質な空気の漂う部屋の内装に、限界まで緊張するのを感じていた。それもそのはず、面接室などという場所に壁や天井どころか、床さえもが存在していなかったのだから。
暗闇。
この部屋を一言で表すならば、そういう言葉を使うだろう。
天井に限界は見えず、床は底がまるで見えない。上下左右に広がる暗闇はただひたすらに際限なく広がっている。底なしの床もまた、足先にふつうの床の感覚があるだけに凄まじく距離感が狂う空間だった。
そんな世界に、ポツン、と面接官の前に雑に資料の並べられた長机とパイプ椅子、出入りするための扉だけが浮いている。蛍光灯のようなものが、霞んで視認できない天井から無限に伸びては吊り下げられており、風はまったく吹いてないのに崖に立っているような風音がやけにリアルに聞こえている。
そんな空間内で、自分と面接官だけがスポットライトでも浴びているようにして光っている。どこにそんな光源があるのかまるで確認できないが、すこし視界が眩しいことだけは確かだった。
まさか、この時代では空間を伸縮させる技術でもあるのだろうか。
だが、地平線がまるで見えない真っ暗闇の空間にすることに、いったい何の意味があるのか。
やがて、そんな異常な空間で面接官は唐突に口を開いた。
「ふ~ん、キミは――」
カツカツ、とタブレット用のペンを机にタップさせながら、面接官である男は何から話すべきか熟考しているようにも感じた。
「――見たところ、下層落ちの人間だねぇ。……実年齢も若いし、両親が事業で失敗したとか、そんなところかねぇ?」
「え、――は、はい」
やたらと粘着質な語尾をつける面接官は、腹の出たスーツ姿の中年男性だった。
見た目は旧来の中間管理職に就く中年の男性というイメージだが、どうにも服の下に隠れた体格が肥満ではなく筋肉で出来たものに思えてならない。というのも、なぜか目の前にいる面接官の男が部屋の中を圧迫するほどの存在感を放っているように感じたからだ。
プレッシャーというのだろうか。
実際よりも、面接官がすこし大きく見える。
「ふむ。では、10引く3は?」
「……え、……な、7です……」
いきなり四則演算を問われ、一瞬、思考が停止する。
――が、あまりにも簡単な計算式に解答を反射的に答えてしまう。
「――外部演算ソフトを使った痕跡はなし、か。……となると、学力は最低でも『C』からになるねえ。精神抵抗度が『D-』なのは置いておくとして、えーっとなになに、血液検査の結果、健康状態が……、こりゃすごい! 『A+』なんて久しぶりに見たよ。よっぽど良い生活をしてきたんだねえ」
本当にこんなものが“面接”なのだろうか。――俺はふとそう思った。
無意識のプレッシャーをかけられているという点では圧迫面接なのかもしれないが、それでもこんなものは単なる出自の質疑応答に過ぎない。空間の異常さを除けば、とくに気にすることなんて――
「むむ、うちの何百世代も前の健康診断装置で何が分かるんだよ、――だって? いやぁヒドイなぁ。これでも血液型や何か持病があるかどうか、簡単な検査くらいは分かるよぉ」
「…………」
まったく見当違いな思考を推測されたまま、面接とやらは進んでいく。
暗闇の中で、唯一の光源である蛍光灯がぷつぷつと点滅し、男の横に置かれた小さめの血液検査装置がカラカラと音を立てている。
「……とはいえ、遺伝子レベルとかになると一切検査することができなくなるオンボロなのには、変わりないんだけどねぇ」
「――は、はあ……」
思わず相槌を打つが、面接官の愚痴は止まらない。
やたらと耳元で鳴っている風音もまるで消えない。なんだろうか、これは――。
「都市政府のお偉いさんや、支援者のエンジェルたちに早く新調させてください~って頼んで、もう半世紀だよぉ? もうこれは絶対に変わることがないんだろうねえ」
そして愚痴を漏らすのと同じ抑揚のまま、面接官はさらりと面接の結果さえも言うのだった。
「ああ、そうそう。たぶんキミは受かるだろうから先に言っとくねぇ。事情も事情なんだから、泊れる宿なんかもないんでしょう~。すぐに宿舎に入れるように、部屋を出たら用意しておいてねぇ」
「なっ……」
「ま、面接とはいえ、こんなのは所詮エントリーシートに名前書くのと変わりないからねぇ~。本当の試験はこれからの訓練にどれだけついていけるかだから、覚悟しておいてねぇ~」
どうにも嘘くさい。
本当にこんなもので傭兵になんてなれるのか。騙されているんじゃないか。そんな考えばかりが、ぐるぐると鈍痛の残る頭の中で渦巻いている。
「で、ですが、いくらなんでも……」
俺が戸惑ったようにしてそう言うと、面接官の顔から薄ら笑いがすとんと消えた。
代わりとばかりに、あまりにも感情のない顔でこちらをじっと見つめはじめる。それはまるで、男が何を勘違いしているのだと無言の圧力で責めているようでもあった。
「勘違いするなよ。我々は慈善事業でお前を養うわけじゃない。これは
「……で、では、逆に言えば、……ここに名前さえ書けば、誰でも……」
「ああ、結論を言えばそうだ。そもそもこの施設は、この都市とあらゆる企業の多大なる支援によって運営ができている。要は将来的に実力者になる傭兵の卵に、先に唾をかけておこうってなわけだ。自分たちの製品を使ってもらえば、それだけで影響があるからな。あとは、人員確保のためでもあるが……」
負けじとそう問い返すと、男は当たり前のことだとばかりにそう言った。
そして、男は立ち上がっては机の端に置いてあったタブレットを操作し、それを渡してくる。
「ここに自分の名前を書け。……苗字でもいいが、どちらにせよこの街ではそんなものに価値などない。戸籍上の名前が分かればいい」
俺は迷った。
こんな理解の到底及ばない空間で、いかにも怪しい書面に署名するなどバカげている。
本当ならば、いますぐここから逃げてしまいたい。
こんな訳の分からない空間で、意味の分からない書面にサインなどしたくもない。
だが、それでもまぶたの裏にちらつくのは昨日の路上での出来事だ。
企業とやらに連れていかれる路上生活者に、平然と通行人に殴りかかる動物のメットをかぶった者たち。この街の通行人は、平然と銃で武装しているようにも思えた。
この時代のルールも、地理も、常識も知らないのに、路上で暮らしてなどいけるはずがない。もしかしたら他にも選択肢はあるのかもしれない。それでも栄養失調ぎみで思考が鈍っていた今の自分に、それを探すだけの気力はもうなかった。
もう、選択肢はここしかないのだ。
そんな強迫観念のような思考からか、気づけば俺は面接官の差し出したタブレットを受け取っていた。画面には分かりやすく、自分が名前を書く場所が赤線で覆われている。他にも何やら誓約書のようなものが書かれていたが、何も食べていない頭ではそれを理解することは難しかった。
俺は手垢がびっしりとこびりついた画面に指をおくと、「KЮRONO」とだけ書いて再び男に返した。若干、字が汚くなってしまったが致し方ないだろう。面接官は無表情のまま視線を落とすと、俺の名前が書かれてあるかを確認した。
「ようこそ、傭兵製造所へ。キミの部屋は『901』号室だ」
これで終わりらしい。
なんだ、意外と大したことがないじゃないか。
そんなことからか、気を緩めた次の瞬間だった。
目の前の面接官である男の存在が、爆発するようにして膨れ上がった。
それは数多の死線を潜り抜けてきた者にのみ許された、圧倒的なまでの殺気だった。
「間違っても、逃げようだなんて思うなよ? ――ブチ殺すぞ」
暗闇の中で、唯一の照明が点滅する。
目の前の中年の男の眼光が、俺の網膜を尋常ではない鋭さで刺した。いっきに重力が何十倍にものしかかったような感覚に、俺は無言のまま喘いだ。だが、それも一瞬のことだった。気づけば、あっという間に男のサイズも等倍に戻っていた。
「うん、これで面接は終わりだよぉ。キミも合格だから、『901』号室に直行するようにねぇ~。これからのキミの活躍を、楽しみにしているよぉ~」
気がつくと、男は普段通りのにこにことキミの悪い笑顔だけをこちらに浮かべていた。俺は手足を震わせながら何とか立ち上がると、面接室を追い出されるようにして後にした。初めて他人に本物の殺気を当てられたせいか、無駄に神経が摩耗したのは言うまでもないだろう。
***
『901』号室、宿舎――。
天井に埋め込まれたシャワーヘッドからは、雨水の冷たさとはまったく違った温水が流れ出している。温水を浴びることで発生する蒸気による 温水を浴びることで発生する水蒸気と跳ね回る水音が、たった半畳のシャワーユニットの内部に充満していく。体を伝うお湯は、体に付着した汚れを含みながらタイルの床を経由して排水口へと流れていく。
ふと鏡越しに自分を見てみると、そこには先日の逃走劇で擦りむいた傷痕が残るだけのあまりにも平凡な黒髪、黒目の青年が映っていた。
久しぶり、というよりも三百年ぶりに直視した体は、当たり前のことだがやせ細って死にかけの飢餓状態のようにも見えた。思えば、思考もどこか定まらずもやがかかったように不透明だ。精神的、肉体的な疲労も相当溜まっているのだろう。
(何か食べないと、持たないな……)
俺は目を閉じると、体に浴びせ続けるシャワーの当たる感覚に身を委ねた。後頭部に負った打撲は、いまだに腫れて脳髄に響くほどの鈍痛を訴えている。仕方なく水栓ハンドルを回すと、温水を垂れ流していたシャワーは止まり、俺は壁に手をついたまま静止するのだった。天井から滴り落ちる雫が連続してタイルに跳ね、ユニットに響く唯一の音を立て続ける。
「…………」
仮設トイレのような見た目をしたシャワーユニットから出ると、前の住居者が使っていたのだろう雑巾のような干され方をしているバスタオルを手に取り、そのまま体に付着する水分を拭く。予備の服もないため、俺はそのまま着ていた服を着直した。
面接官に割り当てられた自分の部屋は、一言で言えば暗かった。とはいえ、床や壁を見る限りどこかの装甲に使われるものだったらしく、ところどころ【HAB‐03】といったデカールたちが貼られている。
天井には照明の埋め込まれた特殊装甲が使われており、廃線剥きだしのまま放置された箇所が散見している。ひときわ目立つダクトのような形をした装置からは、微妙にカビ臭い温風が流れてきていた。どうやら、あれが今の時代のエアコンらしい。
すこし見方を変えればまるで独房のような部屋の中で、俺は髪の毛をタオルで拭きながら壁に埋め込まれたベットの縁に座った。ベットの壁には、潜水艦に取りつけられているような長方形の窓があり、外にはネオンの乱立する下層の街並みが広がっている。
「…………」
ここが、自分の新たな人生の出発点だ。ここから俺の人生が再度始まる。俺はディールにもらった二つ目の栄養補給溶液パックを咥えながら、自分でも違和感を覚えるほど前向きな考えに驚いていた。たった一日で、なぜ傭兵なんてものになりたがるのか。コールドスリープに入り前は、自衛官になりたいとさえ思ったことはなかったのに。
(誰かに思考を操作されてる、とか……)
「まさかな――」
【■■■■■■□□□□――】
俺は思わず、オカルトじみた仮説を笑い飛ばす。
そうだ、そんなことはありえない。自分のような凡人を誘導して、なんのメリットがあるのか。きっと疲れているだけだ。きっと連日、訳の分からない世界の洗礼を受けているとかで疲弊した脳が何とやらなっているだけなのだらDヴぁ――
俺は突如として頭にノイズが走る感覚と、絶対に抗いようのない睡魔に襲われ、気絶するようにして意識を暗闇へと手放すのだった。
ボフリと倒れ込んだベットのシーツは、どこかカビ臭く感じた。
もう帰る場所なんてない。
ここでやっていくしかないのだ。そんなことばかりを考えながら。
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